暴風の中、なぜか単独で行動していた子ガラス。 その翌日から姿を見せなくなった。 どこか遠くへ飛ばされたのか、あるいはその途中で事故にあったのか。
そして子ガラスがいなくなってから5日間が過ぎた。
2018年9月9日14時
「おっ! 子ガラスが戻って来たではないか!」
ケガもなく無事のようだ。
あれ以来、5日間も定点カメラに映っていなかったが、 どこでどうしていたのか? もしかすると台風の突風で遠く北の方角へ飛ばされていき、 そこから数日かけて戻ってきたのかもしれない。 真相は全く不明である。
台風の季節になると、鳥が暴風に巻き込まれて迷鳥になることもある。 だが街のカラスが迷鳥になったのは聞いたことがない。
いずれにしても、彼はバカだけど屈強ということは確かだ。
子ガラスがお父さんに何か話しかけている。
だがしかし、エサをねだる仕草をしなくなっていた。
これは独り立ちが近いということだ。
2018年9月28日
あの台風から生還し立派な成長をとげた子ガラスだったが、最近は家族の輪に入れずにいるようだ。
両親が食事しているのに、子ガラスは独り屋根の上。
お父さんが卵黄をくわえて屋根の上に移動した。
その瞬間、わずかに期待の表情が浮かぶ。
この子ガラスは、お父さんのことを慕っている。
成長した今でもその気持ちは変わらないようだ。
だがしかし、お父さんは子ガラスを無視して去ってゆく。
もう少しで甘えた声が漏れそうな子ガラスだったが、 その感情をぐっと我慢しているようだ。
もう、あの頃の優しいお父さんはいない。
2018年10月18日
台風シーズンも終わり穏やかな秋の日が続く。
庭のソメイヨシノはすでに葉を落とし、 春までの永い眠りにつくところだ。
最近になってカマキリが大量に出現している。 よく見るとどれも卵をもった雌だ。
そして卵を残し、自らは終わりを迎える。
自然界のカラスたちはこの季節のカマキリが大好物だ。
よくカラスがカマキリをくわえて飛んでいる姿を見かける。
この子ガラスとも、もうすぐお別れ・・・。
そのはずだった。
しかし今年の子ガラスはしぶとくここに居座っている。
例年ならば、この季節に親ガラスから縄張りを追われるのだが、 今年は両親からの目立った威嚇行動は見られない。
先にエサ台に来ていた両親の間に割って入る。
「アワワッ、」
両親に睨まれそのまま落下・・・。
このように両親に無視されているのだが、そのことはあまり気にしていないようだ。
「ボクはあきらめないのだ。」
さりげなく両親の間に入ってみたものの、冷たい空気にさらされる。
左がお母さんで中央がお父さん。そして右にいるのが子ガラス。
「なんとか届きそうだが後が怖い・・・。」
エサ台には来たものの、手を出せずにいるようだ。
「よーし、こういうときはヒナのふりだ!」
とりあえず口を開けて甘えてみせる。
まったく相手にされず・・・。
お父さんはなんだかイライラしているように見えるが・・・。
「あっ、お父さーん」
子ガラスは甘えて見せるも、お父さんの機嫌はごらんの通り。
「・・・」
お父さんは無言の圧力で子ガラスを追い払った。
翌日
あいかわらず仲間外れの子ガラスがいた。
今日は新作のカラスバーグをハシボソ夫婦に試食させている。
子ガラスはすでに骨格は成長し両親と変わらぬ体格となった。
青かった眼も黒くなり羽毛も整い、もう幼鳥のころの面影はほとんどない。
そして、今年の子ガラスは顔がお母さんに似ている。
なんとか新作のカラスバーグにありつきたいところだ。
懲りずに今日も隙をうかがう。
お父さんがズリズリと近寄ってきたが?
子「やったー! ・・・、 あれ?」
父「フゥー・・・、」
父「おまえの分はない!」
子「あワワワッ、」
この子ガラスは成長が早かったのだが、なぜか最近になって赤ちゃん返りしたようだ。
すでに自力での採餌を習得し、もういつでも独立できる状態のはずだ。
おそらく秋になって自然界の獲物が減り、再び両親を頼るようになったのだろう。
あいかわらずお父さんに付きまとう子ガラス。
まるで、5月に見た幼鳥の頃の光景が目の前で再現されているようだ。
お父さんは無視を決め込み立ち去るのみ。
だが何と!
お父さんが根負けして食べ物を与えているではないか!
子ガラスが赤ちゃん返りしたのはお父さんの甘やかしが原因だったのか?
その後も空腹が収まらない子ガラス。
今度はお母さんの方へ向かう。
だがお母さんは飛んで行ってしまった。
お母さんは今年の途中から子育てに無関心になったのだ。
しかしお母さんは食べ物を残してくれていた。
結局、両親ともそろって子ガラスを甘やかしていたのであった。
2019年6月8日公開