ハシブトガラスのアディ。
今は朝食の時間。大好物の卵黄を前に行儀よく「マテ」をしている。
待ちきれずに「ゴクッ」と、唾をのむアディ。 カラスはこういう状況で、本当に唾をのむのだ。
彼は巣立ち間もなく羽の骨折により保護され、 もうすぐ2歳だ。 陽気でドジなカラスである。 いや、ドジだからこそ怪我をして、親から見捨てられたのだろう。
だが、陽気な彼は、そんなことは特に気にしていない。 ところで、自然界でドジな動物を見かけない理由は、 ドジな野生動物は成長する前に淘汰されるからだ。当たり前である。
アディは生後半年ほどで我が家に来たが、 とにかくヤンチャで、先のことを考えず無茶な行動をしたものだ。 当然、私の言うことなど聞くはずもなく、ずいぶん手を焼いた。 とんでもない駄ガラスだと諦めていたが、 最近はいくつかのコマンドを覚え、命令を聞いてくれるようになった。
カラスはコミュニケーション能力が高く、 何か命令すると、一応、それが何かを理解しようとする。 ペットで例えると、猫には見られない従順さだが、犬ほどではない。
「ヨシ!」の合図で羽をバタつかせながら卵黄に食いつく。
羽をバタバタさせて尾翼を上げる仕草は、 幼鳥が親鳥に餌をねだるときのポーズだ。 2歳といえば、とっくに独り立ちの歳ではあるが、 甘やかすと、いつまでも幼鳥のままだ。
こちらは、ハシブトガラスのBAN君。
彼は朝食を目の前にしても、このようにクールに決めている。
彼は、様々な試練を乗り越え、精神的に大人になったのだ。
保護施設で暮らしているときは、置きエサで育ったので、
手渡しでエサを貰うのを嫌がる。
再びアディ。
今日の昼食はドッグフード。
食事前に「マテ」をする。
そして「回れ!」の合図で今日も回転技を決めるのだ。
最近覚えた技だ。
「そりゃ!」
「ヨイショ!」
「ヨョ!」
「セイっ!」
そして「ヨシ!」の合図でビヨーンと伸び上がる。
彼の足元に注目。
野生のカラスはこんなに伸びないだろう。
そして夕方。夕暮れ時の寂しさが募る。
アディが我が家に来た頃、何度か夜中に鳴いていることがあった。 心配して見に行くと、夢を見て寝言を言っているのだ。
「グウェー! グウェー!」
と、鳴いたかと思うと、
「アウ、アウ、」
と、うめき声をあげ、 そして、
「バサ、バサ、バサ」と、羽ばたくが、 飛べないので当然、「ドター!」と床に落ちる。
おそらく、巣立ちの時の夢を見ていたのだろう。 飛び立つ母親の後を、必死で追いかけているのだ。 陽気な彼も、他人には言えないトラウマがあるのだ。
2017年2月18日公開