カラス保護の統計2022

前回の「カラス保護の統計2020」は2017年から2020年5月上旬までの総計を公表したものだったが、その年の5月中旬から相談件数が急上昇し下のグラフのような状況となった。おかげで多くの情報を蓄積することができデータの精度も上がったので、ここで2017年から2022年までの6年間のデータを公開したい。

「カラス保護の統計 2020年5月版」 ←前回のデータ

グラフ

<カラス保護相談件数の推移>


なぜ2020年から相談件数が急上昇したのかというと、この時に新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が出されたことと関係がある。それにより多くの人が外出を控え自宅に籠り、インターネットの世界が活況を呈したのだ。当サイトへのアクセス数もこの頃から急上昇している。つまり、「カラスが増えた」とか「カラスブームが来た」ということは全くない。昔からカラスを保護する人は多くいたのだが、情報が一カ所に集中したことによって可視化されただけである。

グラフを見ると今年は相談件数が減少しているが(*2022年8月20日時点)、カラスを保護する人が減ったわけではないことは里親募集の件数を見ると分かる。相談件数が減少した原因は、保護した際の注意点などを当サイトで詳細に案内するようにしたため、相談する必要がなくなったことが主な理由である。もう一つは、最近では当サイト以外にもYouTubeやSNS等でカラス保護の情報が共有されているという事情もある。

次に日ごとの相談件数(2021年のデータ)を見ていくと、5月中旬に急激にピークを迎えそのまま6月中旬まで続くことが分かる。

グラフ

<2021年 日毎の保護相談件数>


保護されるカラスは巣立ち前後であることが多いので、これによりカラスの子育ての状況がだいたい分かる。つまりカラスの巣立ちは5月中旬から6月中旬の一カ月間がピークであるということだ。ちなみに、北海道以外の地域においては巣立ちの時期にあまり差は見られない。


保護されたときの状況

グラフ

<保護当時の健康状態>


保護されるカラスは巣立ち後にしばらく何も食べずに衰弱している事例が多い。次いで多いのは骨折だが、これは巣から落下したり交通事故が原因である。しかし、突出して多いのは「健康」である。これはいったいどういうことなのか、次に保護されるに至った原因を見てみよう。

*前回は健康な事例を「その他」に含めていた。

グラフ

<保護に至った原因>


健康なカラスが保護される理由にはカラス特有の事情がある。「巣の撤去」はその最たるもので、巣の撤去に伴い雛が殺処分となるところを何らかの理由で回避し保護されたものだ。

「巣から落下」は正常な巣立ちとどう見分けているのかというと、風切羽の伸び具合が巣立ちに程遠い状態であれば、誤って巣から落下したものと判断している。ヒナは歩けるようになると巣の淵などを歩いたりするが、その際に足を滑らせて落下するケースが多い。そうなったときに、街中で地面にカラスの雛がいると行政が回収して殺処分にされることもある。あるいは車に轢かれて死ぬという結果になるのだが、それを避けるために保護されることが多い。このような状況で保護されたカラスは概ね健康体である。

「保護の必要がない」というのが気になるかもしれないが、実はこれはよくあることだ。初めてカラスの巣立ち雛に出会った人は、あの弱々しく助けを求める子ガラスの姿に手を差し伸べてしまうのだ。しかし保護の必要は無いため、当サイトではそのまま放置するか、すでに保護したなら親鳥の元に帰すようアドバイスをしている。

「不明」というのは、相談の内容から状況が判断できない事例である。


保護されたカラスたちのその後

さて、こうして保護されたカラスたちのその後はどうなったのか見てみよう。


グラフ

<保護されたカラスのその後>


以前のデータと比較しても大差は無い。しかし「飼育」のなかには放鳥がかなり含まれるはずだ。なぜなら、このような大型の鳥を飼育できる環境の家庭がそんなに多くあるとは思えないので、カラスが元気になったら放鳥する事例も多いと考えられる。また、カラスは成長すると自立心が芽生え、おのずと放鳥のタイミングが訪れることがあるからだ。

傷病救護が多い割に死亡例が10%と少ないが、実際には成長不良の子ガラスはその後に死ぬ確率は高く、その年の冬を越す前に亡くなってしまうことも多い。当サイトではその後の聞き取りまでは積極的にしていないので、把握できていないだけで「死んでしまった」という事例は2倍以上はあると推測している。


どんな人がカラスを保護するのか?

それではいったい、どのような人物がカラスを保護するのかというと、その多くは意外にもそれまでカラスに興味が無かった人だ。そのような人が偶然、いまにも消えゆく命に対して衝動的に手を差し伸べるのである。つまり「カラスを飼いたい」という理由でカラスの保護をする人は、ほぼいないのだ。現に、当サイトに寄せられるカラス保護の相談をみると、ほとんどの人がカラスを保護してから初めて当サイトの存在を知ったのである。

一方、カラスを飼いたがるのはどんな人か? これまでに寄せられた数百件にのぼる里親募集への応募内容を見ると、元から鳥類が好きであったり、以前にカラスを飼った経験がある場合が多い。次に多いのは、いわゆる動物マニアである。彼らは珍しい鳥類や爬虫類を飼うことを趣味にしているのだが、なぜ平凡なカラスに興味が向くのかは不明である。動物マニアというと世間では印象がよくないかもしれないが、動物を飼うことが趣味なだけあってきちんと飼育できている場合が多い。問題になるのは、YouTubeなどでカラスの飼育を見て思い付きでカラスを飼いたくなった人だ。


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2022年8月21日 公開

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