あれから二週間が経った。
その後、あの面白いハシブトガラスを何度か見かけたが、その度にハシボソ夫婦に追い回され、 ついに姿を見なくなってしまった。
せっかく面白いカラスを見つけたのに残念だ。
私の見立てでは、面白いカラスはハシブトガラスに多く、 その中でもほとんどが若い鳥ではないかと思う。 逆にハシボソガラスで面白い行動をとる者を見たことが無い。 ハシボソガラスは鳥として真面目で優等生な印象がある。
そして先週の日曜日。
庭の地面に無数のキジバトがウロウロしている。
いつもこの時期になると、ムクドリと一緒に地面を突いているのだ。
何を探しているのかは私には分からない。
その様子をぼんやり見ていると、森の方からカラス?の妙な声が聞こえる。 「グウェ、グワ、グワ、」と苦しそうな鳴き声だ。
声のする方を探してみると、木の上にカラスがとまっていて、 さらにその上にもう一羽のカラスが乗っかっている。
あれはまさしく、いつものハシボソ夫婦ではないか。
どうやら交尾しようとしているようだ。
大きい方のカラスが上に乗っている。
ということは・・・!?
今までメスだと決めつけていたガタイの良い方が実はオスであり、 恐妻家などではなく、強面の夫と華奢な妻という平凡な夫婦だったのだ。
ここに今までの記事を訂正いたします。
上に乗っかっているお父さん。 何とも表現しにくい声を上げている。
木の枝がモザイクの代わりを果たし、肝心の部分が見えない。
白昼堂々と破廉恥な行為を見せつけられ、私は今、困惑している。
その間、数十秒。
交尾が終わった後の二羽は仲良さそうに寄り添い、ぼんやりと空を見上げている。
右の小さい方が妻。
すでに卵を産み終えたものだと思っていたが、 どうやらこれかららしい。
そういえば最近、この夫婦が木の枝を運んでいるのを見かけた。 その時は巣の補強でもしているのかと思っていたが、 どうやら巣はまだ完成していなかったらしい。
今年は春の訪れが遅いせいか、カラスの子育ても遅れているのだ。
妻が夫に甘えている。
今までは生活のためにコンビを組んでいる仮面夫婦のように見えたが、 今は互いを愛おしく想う様子が伝わってくる。
夫婦の距離はグッと縮まったようだ。
カラス小屋の建築工事を終えた私は、次に庭を見下ろせるこの部屋に書斎を移動させた。
そして今日、庭のサクラがようやく満開となった。
庭の奥にある小さな二本のソメイヨシノだ。 樹齢6年。 私が植えたわけではない・・・。
私はサクラがあまり好きではない。 夏はグジュグジュと化膿したような樹液を垂れ流し、 そして夏の終わりには無数の毛虫を宿し、その毛虫が糞をポツポツと落とし、 時に糞だけではなく、なぜか本体も落ちてくる。 人が木陰で休むこともかなわないのだ。
そして秋の初めころには綺麗に紅葉することもなく茶褐色に枯れ、 軟弱にもまっさきに葉を落とし、 長い冬の間、枯れ木を晒したまま沈黙を守るのだ。
そして春。満を持して花を咲かす。
コイツらにとって唯一にして最大の見せ場である。
だがしかし、この季節は気候が不安定なため雨が多く、 また雨上がりには風が強く吹き付ける。 自慢の花も見頃は一週間と持たずに散らしてしまうのだ。 唯一の取柄もその有様である。 なぜ日本人はこのような木を愛でて、日本中の至る所に植林しまくったのか? 私には理解できない。
そしてここが私の新しい書斎。
先週、改装工事が終わり今日から運用開始となった。
窓からは先程のソメイヨシノが左に、カラス小屋を右に見渡せる。 屋根裏部屋だが冷暖房も完備している。
以前は二匹の猫がこの部屋を使っていたが、 その猫たちには立ち退いてもらった。 そして剥き出しだった壁には珪藻土の塗装を施し、 LANを設置し私の書斎にした。
猫たちはどうなったんだ?って、 心配いらない。 もっと良い部屋を用意してやった。
そして右のほの暗い画像が、先月まで使っていた私の旧書斎。
北向きの狭い屋根裏部屋でエアコンも無く、
小さな窓が一つあるだけの倉庫のような部屋だ。
アンネ・フランクの隠し部屋よりも酷い。
冬は寒く、夏は暑い。日当たりも悪く不健康である。
だが良いこともあった。この窓から正面に見える松の木に昨年、
ハシボソ夫婦が営巣したのだ。
部屋に居ながらにしてカラスの子育てを観察できる環境だったのだ。
2017年4月9日公開