春から初夏にかけてはカラスの子育ての季節であり、この期間は道端に飛べない子ガラスが落ちていることがある。そのような状況に遭遇した時「急いで救助しないと!」と焦ってしまうかもしれないが、少し待ってほしい。飛べないカラスが地面にいたとしても、人間が手を出してはいけない場合もあるからだ。
まずは周囲の状況を確認してみよう。近くの木や電柱に鳥の巣があったとしたら、それはたいてい通常の巣立ちである。さらに周辺を見渡すと、どこかで親鳥が見守っているはずだ。カラスの巣立ちは、まだ飛べない状態であっても巣立ちを急ぐことがあり、子ガラスは数日間を地面で過ごすことがある。
この場合は子ガラスに触れずに放置することが基本である。車に轢かれたり野良猫に襲われる心配があるのなら、子ガラスを近くの木の枝等の安全な場所に移動させても構わない。人間が触ったことで親鳥が育児放棄をすることは無い。ただし、その際に親鳥からの威嚇や攻撃を受けることがあるので注意が必要だ。
周囲に巣がなく親鳥の姿も無い場合でも、しばらく様子を見る必要がある。親鳥は常に子ガラスの傍にいるわけではなく、採餌に出かけていることもあるからだ。心配ならば先ほどと同様に安全な高いところに子ガラスを移動させ、親鳥が警戒しないように充分に離れた場所から様子をみてみよう。通常なら30分から1時間程度で親鳥が戻ってくるはずだ。このように、飛べない子ガラスがいたとしても多くの場合は救助する必要は無い。
↑ 歩道脇の草むらにうずくまる子ガラス
一見すると保護が必要なように見えるが正常な巣立ちである。近くの電線には親鳥がとまり心配そうにこちらを見ているのだ。もちろんこの状況は保護する必要はない。
「助けなければ!」という焦る気持ちを抑え、周囲の状況をよく確認したうえで適切に判断をしてほしい。
もし、保護の必要がない子ガラスを連れ帰ってしまった場合は、1週間程度なら間に合うので親鳥の元に戻してやろう。保護した場所に子ガラスを連れて行き、親鳥から発見されやすい場所にとまらせてやると、たいていの場合は親鳥が気づいて近くに来るはずだ。
通常の巣立ちとは異なり、怪我をしているなど救助しないと死んでしまう事例もある。 野生動物の救助については「手を出すべきではない」など様々な意見があるが、このページにたどり着いた人は救助する意思があるはずなので、それを前提に説明したい。
迷子
巣立ち後の子ガラスに多いのが「迷子」である。都市部においてはカラスの縄張りは意外と狭いため縄張りの外に子ガラスが行ってしまうと、親鳥が給餌に来ることができなくなることもあるのだ。あるいは人為的に子ガラスだけが別の場所に移動させられた可能性もある。翌朝になっても子ガラスの元に親鳥が現れない場合、それはたいてい迷子である。この場合、子ガラスは自力で採餌できないので徐々に衰弱して死んでしまう。
事故によるケガ
巣立ち後のリスクで最も多いのが交通事故だと考えられる。まだ思うように飛べない子ガラスは車と接触することが多い。鳥類は飛ぶために軽量化された骨を持っているが、これが物理的な衝撃に弱く車との接触により翼や足を骨折しやすいのだ。 子ガラスが立ち上がることができなかったり、左右で均等な動きができないようなら子ガラスを持ち上げて確認してみよう。一部の関節が自発的に動かせない場合、骨折か靱帯損傷、あるいは神経を損傷した可能性が高い。 そのような場合はなるべく早く獣医師の診断を受け必要な処置を施してもらおう。
発育不良や病気
巣立ち後の子ガラスは飛べない場合が多いが、歩行は可能である。もし外傷はないのに歩行が困難だったり立ち上がることができない場合はクル病の可能性がある。鳥類のヒナは成長速度が非常に早く、この間は多くの栄養を必要とする。しかし親鳥から充分な給餌を受けられなかった場合、クル病などの骨格形成異常を起こすことがあるのだ。その症状は主に脚に現れ、酷い場合は立つこともできない。しかし幼鳥ならば、適切に栄養を摂取させることで改善が期待できる。
保護の方法
巣立ちまもない幼鳥は人間を恐れないので、両手で子ガラスを優しくホールドし持ち上げると良い。もし暴れて触れない場合は、バスタオルを広げてカラスに覆い被せると急におとなしくなる。カラスを運ぶ際はドッグケージを用意するとよいが、それが無い場合は段ボール箱などでもよい。
「カラスの移動方法」 ←関連ページ
保護した後の処置
まず、保護したカラスの健康状態を確認しよう。両足、両翼、尾羽は全て自発的に動かせるかを確認し、動かない場合はその部分を触ってみよう。触って痛がる場合は骨折の可能性があるので、動物病院でレントゲンを撮ることをお勧めする。骨折は放置すると炎症を起こし死に至る場合もある
保護されるカラスは、数日間なにも食べておらず衰弱していることが多い。そのため、栄養価が高く消化が良いものを与えよう。ドライタイプのドッグフードであれば45℃くらいの湯に浸し、フードがお湯を吸って柔らかくなるまで待つ。そしてそれを手でつまんで子ガラスの目の前に出すと、子ガラスは自然と口を開けるので口の中に押し込んでやる。これを1、2時間おきに繰り返す。ドッグフードは栄養価の高い子犬用のものが良い。ソフトタイプのフードはそのまま与える。
エサの量はカラスの体調と日齢にもよるのでこれといった決まりはないが、食いつき具合をみて判断すると良い。それほど欲しがらない場合は満腹の合図である。また、食欲がまったく無い場合は容体が深刻な可能性がある。
幼鳥の場合は水をガブガブ飲むことはないので、餌に含ませた水分で十分である。
幼鳥の突然死
保護される子ガラスは、衰弱と同時に感染症にかかっていることもある。外傷も無く元気なように見えても、急激に元気喪失して死ぬことがあるので注意が必要だ。
動物病院について
ケガをしたカラスを動物病院に連れて行っても「野鳥は診察しない」「カラスは害鳥だからダメ」と言われて断られるケースが多い。そのため、診察可能な病院を探すのに何件も問い合わせをする必要がある。
「カラス保護の統計」 ←関連ページ
カラスの飼育情報 ←必読
「ヒナの飼育」 ←関連ページ
結論から言うと、カラスを保護したことを役所に届けてはいけない。
「ケガをした野生動物を見つけたら役所に相談を・・・」というメッセージをよく見かけるが、実際にカラスを保護したことを役所に報告すると「保護はやめてください」「飼育はできません」「放鳥してください」「犯罪ですよ」などと無責任かつ何の役にも立たない心が折れる助言をもらうことになる。まるで騙されたような気分になるだろうが、それが現実である。
しかし狩猟鳥獣に指定されているカラスの場合、野生動物を飼育する際に必要な飼養登録制度から除外されている。そのため飼育を始めるにあたり役所への届け出は必要ない。本来、役所への届け出が必要なのは「捕獲の許可申請」であるが、急を要する傷病救護においてそれは不可能である(狩猟期間に禁止場所以外で保護した場合は捕獲許可は不要)。そのため環境省指針により「傷病救護の考え方」が示され各自治体に制度を作るよう促しているが、ほとんどの自治体はこれを無視した状態にある。あるいは制度があったとしてもなぜかカラスは除外されている。よって、カラスを救護したことを届け出ても役所が助けてくれることは無い。このような状況であるため、カラスの傷病救護は個人の判断でおこなうしかないのが現状である。
実際に当サイトの調べでも、役所にカラスの保護を届け出て事態が好転した事例は0.1%もない。ごく一部の自治体でカラスの傷病保護を認めた事例があるが、極めて稀であるため期待してはいけない。
<注意!>
この内容はあくまでカラス等の狩猟鳥獣に限ったことであり、例えば保護した鳥がメジロやウグイスであった場合は無登録で飼育すること自体が重大な法律違反となる。
ネット上のデマに注意
「カラス、飼育、法律」などのキーワードで検索するとカラス関連のサイトが多く出てくるが、そのほとんどが情報系まとめサイトであり、内容が間違っていたりデマを含むので注意が必要である。鳥獣保護管理法は一つしかないにもかかわらず様々な言説が飛び交っているが、法律に沿っていない情報は信用してはいけない。特に「保護許可の取り方」や「飼育許可の取り方」という情報は悪質なデマなのでご注意願いたい。
「ネット上のデマに注意」 ←関連ページ
「カラスと法律」 ←関連ページ
2020年6月27日 こんな国に誰がした? ←関連ブログ
カラスは野生動物であるため、ダニやシラミは当然のように羽毛に潜んでいるし腸内には条虫などの寄生虫も共生しているが、これらは宿主特異性があるため人間に感染しない場合が多い。鳥と人の間での共通感染症は意外と少ないためそれほど神経質になる必要はないが、アレルギーがある方や免疫が弱い方は注意が必要である。
ただし、すでに鳥類を飼っている場合は鳥類同士の感染は容易に起こるので、保護したカラスを検査、隔離する必要がある。
「ケガをしたカラスを一時的に保護し、完治したのちに放鳥したい。」こう考える方も多いと思うが、それには注意が必要である。カラスの成鳥を保護した場合は、飛べるようになったら元の場所に返せばよいのだが、子ガラスの場合はそんなに単純ではない。
人間の手で育てられたカラスはカラスの世界の常識やルールを知らないため、野生のカラスとコミュニケーションを取ることが難しい。そのため、周囲のカラスの群れに快く受け入れられることはほとんど無く、侵入者として猛攻撃を受け追い出される。さらにオオタカなどの外敵から身を守るすべもなく、また、冬季に自力で食べ物を確保することも困難である。人に馴れたカラスを放鳥しても、おそらく最初の冬を越せずに死ぬことになるだろう。
これでは何のために保護して治療したのか分からない。人間にべったりと馴れてしまったカラスを野に放つのは「放鳥」とは言えず、場合によっては単なる「遺棄」である。飛べるようになったからといって安易に放鳥するべきではない。「飛べる」と「放鳥できる」とは意味が異なるのである。
放鳥を目指すのであれば、室内での飼育は避けてなるべく屋外の小屋で飼育し野外の環境に慣らすべきである。さらに昆虫などのエサを自ら捕ることができるように訓練する必要がある。初夏に保護した子ガラスの放鳥を目指すならば、その年の夏の終わりごろまでには放鳥した方が良い。夏は野外に昆虫などのエサが豊富にあり食べ物には困らない。そして秋になると同年齢の若いカラスたちが親元を離れて独立するため、その仲間に入ることができれば野生として生きていける可能性は高い。これがもし冬に入ってから放鳥した場合、自力でエサを取れないため冬を越すことは難しいだろう。
「野の鳥は野に」「ヒナを拾わないで」などのキャッチフレーズにあるように、 野生動物を保護するのはやめましょうという意見もある。確かにその通りでありケガをした野生動物は自然界の定めに従い淘汰されるべきである。しかしそれはあくまで自然界においての話である。例えば野山において、ケガをして瀕死の状態の子ガラスは他の野生動物に捕食され糧となるが、一方、街でケガをして横たわるカラスは道路の清掃員や役所の人が拾って捨てるだけである。そこには自然界の掟も食物連鎖のような循環もなく、ただのゴミとして扱われるだけなのだ。さらにいうと、街で保護されるカラスは、その原因は人為的なものが多い。例えば交通事故であったり木の伐採による巣の落下などである。
人間社会に溶け込んで生活しているカラスを「自然界の野生動物」とよぶには無理がある。カラスは良くも悪くも都会で人間と共に暮らす存在なのだ。いつもはゴミや糞をまき散らす厄介な存在かもしれないが、 目の前にある助けられる命があるのなら手を差し伸べる。そういう考え方も間違いではない。
巣立ち前のヒナ
孵化したばかりのカラスのヒナは全身が肌色である(ハシブトガラスは灰色)。それから羽毛が生え始めるが、その途中の姿はハリネズミのようにみえる。
そして羽毛が生えると同時にクチバシが黒くなり始める。
その後もクチバシの根元は赤色が残り、その部分がダブついている(矢印)。風切羽はまだ完全に伸びきっておらず、飛ぶことはできない。
巣立ち前であっても、何らかの原因で巣から落下することがある。
子ガラスが落ちていた場所の付近を見上げると、近くの木に巣があるはずである。
しかし、巣から落ちたヒナは親鳥からも見捨てられ行き場を失うことになる。
この時期のヒナは人をまったく恐れないので、保護した人を親と認識してしまうこともある。
巣立ち直後の幼鳥
巣立ち直後は事故が多く、この時期の保護事例が最も多い。
眼は少し青みがかりクチバシの付け根が少し赤い。そしてまだ、人を恐れることを知らない。
巣立ち後もしばらくは親鳥からの給餌に頼っているので、例え近くに親鳥がいなくてもしばらくすると親鳥は餌を与えに戻ってくる。
巣立ちから1ヵ月以上経過した幼鳥
成鳥とほぼ同じ体格で眼も黒くなっているが、口の中はまだ赤い。
人間に対する警戒心には個体差があるが、人を恐れない場合もある。
口の中の赤色はまだしばらくそのままである。
巣立ちから10ヵ月経過した子ガラス
赤色だった口の中は、巣立ちから10ヵ月ころには完全に黒くなる。しかし風切羽は幼鳥のころのままであり、その黒色が少し薄いのが特徴である。
この時期になると幼鳥期を脱したと言えるが、まだ未成熟である。
瀕死の子ガラスを救助したものの、飼育を続けることが難しい。しかも、べったりと懐いてしまい放鳥も困難になってしまった。そのような場合は無理して飼育を続けることなく、当サイトの里親募集をご利用ください。
「カラスの里親募集」 ←関連ページ
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2022年4月29日 2022年改訂版を公開 改定前はこちら
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2019年4月21日 2019年改訂版を公開 改定前はこちら
2016年12月3日 公開