数年に一度の寒波が到来し、昨夜から街は雪景色。
玄関前の道も雪に覆われた。
天気予報によると、「数年に一度の寒波!」、ということだが、
何だか毎年そう言っているような気がする。
そして今朝。
夜通し断続的に降った雪は15cmくらい積もっている。
今日はカラス小屋の工事はお休みだ。
久しぶりに暇な日曜日・・・
カラスたちはこの寒さでも平気なようだ。
せっかくの雪なので、久々に運転の練習でもしてみるか。
そう、運転技術は放っておくと錆びつくのだ。
だから敢えて厳しい環境で練習するのだ。
車に乗り込み雪山を目指すが、
寒波は西から来たようで、東にある山には雪はあまり積もっていない。
麓から山道を上ること20分。
渓谷に巨大なダムの堰堤(えんてい)が姿を現す。
今日はあれを攻めるのだ。
とりあえず堰堤の駐車場に車を止める。
そして、そこにあるのは東屋…。
なぜか、日本人は場所さえあれば東屋を建てるのだ。
東屋の向こうに目をやると、先ほどの巨大な堰堤が間近に迫る。 落差100mを超える堰堤。この、湖をせき止めている感じがたまらなく良いのだ。 このダムは、堰堤からダム湖を一周する全長13kmの道路がある。
ここではかつて、70年代から90年代の後半にかけて、 深夜に公道レースが繰り広げられていた。 ピーク時には数百台の走り屋たちがこの堰堤に集結し、 速さを競っていたのだ。 箱根や日光いろは坂に次ぐ公道レースの名所だった。 だが、コースの高低差は少ないものの、複合コーナーや橋の継ぎ目などが無数にあり、 攻略するには難易度が高く極めて危険であり、一晩に何件もの事故が起きていた。 今では信じられないアウトローな話だが、そんな時代があったのだ。
道路にはガードレールはあるのだが、 それがとても脆い土台で、コースアウトした車を受け止められずあっけなく崩壊、 車ごとダムに転落して命を散らす若者が後を絶たなかった。
堰堤の駐車場にはトイレがある。
今ではこのように楽しげな絵が描いてあるが、
知らない人も多いけど実はココ、ヤバイのだ。
出るのです。
20年以上前の冬の夜。
車の免許を取ったばかりの私は友人を隣に乗せ、
深夜にこのダムにドライブに来た。
冬の夜は凍結の危険があるので、走り屋たちもいない。
ダムにいるのは私達だけ。
車を走らせていると助手席の友人が突然、
「腹が痛いからトイレに寄ってくれ」、と言い出した。
そこで私はこのトイレの前に車を止め、
友人はトイレに入っていった。
数分後、友人は怒りながら車に歩み寄ってくる。
「どうした?」と聞くと、
「人が用を足しているときにドアをガンガン叩くなや!」、というのだ。
聞くと、脱糞している最中にしつこくドアをノックされたのだそうだ。
だがその時、私は車内で待機していて、その間にトイレに入った人間を見ていないのだ。
もちろん、周囲には誰もいない、風の無い静かな夜だ。
その時は何だか薄気味悪かったが、
それほど気にもしなかった。
そして車を走らせると、友人はボソッと言うのだ。
「この車、ちょっと運転させてくれないか?」、
唐突に頼まれて戸惑ったが、
無茶するタイプではないので、快く運転を代わった。
そして、私を助手席に乗せた車はゆっくりとダムの堰堤を渡り、
コースのスタート地点へと移動する。
チラッと友人を見ると無表情で淡々と運転している。
すると友人は突然、アクセルを全開にし、
どう見てもオーバースピードでコーナーに突入していく。
もうだめだ、と感じた時、車はハンドルを切った方向とは逆側のガードレールに接触し、
弾き飛ばされスピンして止まった。
幸い、車は側面で広く衝撃を受けたためダメージは少なく、
二人とも怪我はなく、車も自走可能な状態だった。
なぜそんな無茶をしたのか問い詰めるも、
友人は黙り込んでいて会話にならない。
仕方ないので私は、「今度、一緒にこの車を直そう」、と言って運転を代わり、
帰路に就くがその後、異変は起こった。
山を下りた辺りで助手席の友人が突然、
寒気がして気分が悪いと言い出すのだ。
見ると本当に具合が悪そうで、グッタリしている。
まるで何かに取り憑かれたようにうめき声を上げている。
それから友人を家に送り届け、私も家に戻った。
この友人とはそれから疎遠になったので、今、どうしているのかは知らない。
だが、あの夜のことはあまりにも衝撃的だったので、今でも鮮明に覚えている。
すっかり話が逸れてしまったが、 気を取り直して次に進む。 先程のダムの中間地点から林道を抜けて国道に出る。 そしてしばらく走り、再び国道を逸れて林道を進む。 ここは標高が高く雪が積もっている。 ガードレールもなくその先は谷底だ。 山奥なので携帯の電波も届かない。
ホラーな出来事を思い出すと、
ついついホラーな場所に行きたくなるのが男のサガだ。
この林道は明治時代に使われていた旧道で、
その途中に100年以上前に造られたトンネルがある。
国内屈指の心霊スポットだ。
姿を現したのは、レンガ造りの古いトンネル。
意外と全長は長く、出口は遥か先だ。
前述のとおり心霊スポットとして有名だが、
実際に幽霊を見たという話は私は聞いたことがないし、
私も見たことはない。
そう、幽霊などこの世に存在しないのだ。
今、私は一人で車を運転しているが、別に怖くはない。
躊躇なくトンネルに進入する。
景気づけにサンルーフを全開にし、
トンネルの空気を体いっぱいに吸い込む。
その時だ。
私はついうっかり、ルームミラーを見てしまったのだ。
これがいけないのだ。
人は本能として、自分の背後に対して特に恐怖を感じるようにできている。
おそらく視野の死角を補うための能力だろう。
そしてゾワゾワと底知れない恐怖心が襲ってくる。
心を落ち着かせながら慎重に車を進める。もう写真など撮っている場合ではない。
以前、このトンネルの中で事故った奴を見たことがある。 そいつもおそらく、ルームミラーを見てしまったのだろう。 ミラーに特に何が写るわけでもないが、得体のしれない何かに背後をとられたような気がしてくるのだ。 そして、乱れた心は制御不能に陥り、アクセルを踏ませたのだろう。
無事にトンネルを通過し、後ろを振り返る。そして念のため後部座席をチェックする。
「無神論者なのに幽霊が怖いのか」、と言われるかもしれない。 だが、神仏に心の拠り所や救いを求めることと、 このような得体のしれない恐怖を感じることとは別の話である。 幽霊というものはこの世には存在しないが、 あるとしたら、恐怖心が生み出す虚像であり実像としては存在しないものだろう。 だがもし、現象として確認した、と言うなら、それは虚像を誤認した故の自らがもたらした結果だろう
ところで今日、このトンネルの入り口に私より先に車が通った痕があった。 使われていない旧道で、しかも雪の日に何だろうな?と、思っていたが、 トンネルを抜けた先に軽トラックが止まっていて、 何故か、おじさんがチワワを散歩させていた。 そのおじさんと、すれ違いざまに目が合ったが、 何とも釈然としない光景だった。
2017年1月15日公開