10月27日。
私は三河湾内の港に来ている。 ここは私の第二のカラス観察場所である。
朝まで降っていた雨が上がり、天気が回復するとともに強い北西の風が吹き始めた。
港にあるこの謎の貯蔵施設は近辺のハシブトガラスの溜まり場になっている。
この辺りは魚介類が豊富なので餌に困ることもない。
カラスたちは概ね仲がよさそうだ。
使われなくなり廃墟となったこの施設はカラスたちの憩いの場。
栄養豊富な環境のためか体格がよく毛並みも良い。
しかしそんな彼らにも敵は多い。
まずは野良猫。この辺りでカラスとエサを奪い合う姿をよく目にする。
眼光鋭く屈強な黒猫だ。
そして上空にはトビ。
トビとカラスは仲が悪い。 それは縄張り内で共通の獲物を狙う競合相手だからだ。
今日は北西の風が強めに吹いている。こんなときはトビの独擅場である。
トビは強風でも自由に滑空できるのだ。まるで凧のように風をつかみ、 尾羽を左右に傾けてバランスを取る。 この三角形の長い尾羽を器用に使うことこそが、トビが強風の中で滑空できる理由である。
一般にはそういう認識だろう。
しかし・・・。
何となく一羽のトビに違和感を覚えカメラで追うと。
旋回した瞬間、衝撃の光景が。
そう、このトビには尾羽が無いのである。
それなのに他のトビに劣ることなく強風のなかを自由に飛んでいる。
風をとらえ右に左に旋回しながら地上の餌を探す。
背面への転回もご覧の通り。
まったくブレることなくスムーズに方向転換している。
この角度から見ると、何が飛んでいるのか分からない謎の飛行物体である。
スイ~っと、軽やかな旋回を繰り返す。
尾羽がないというハンディを全く感じさせない。
拡大してみよう。
そこに見えるのは折りたたんだ足のみである。
正常のトビと比べてみよう。
左の正常のトビは、折りたたんだ足の後方に三角形の構造が伸びているのが見える。 これは尾端骨とその周囲から生えている羽毛で構成されているものだ。 だが右のトビはその部分が全く無い。
単に尾羽が取れたのではなく、その周辺の組織全体を欠損しているように見える。
*正確にはレントゲンを撮ってみないと、どこから欠損しているのか不明。
鳥は尾端骨を骨折しても致命傷とならないこともあるので、 事故で骨折してそのまま取れてしまった可能性もある。
しかしトビについては同様の報告がいくつかあることから、 事故による欠損ではないと考えられる。 ということは、これは先天的に尾端骨を欠いた変異体が一定数存在するのかもしれない。
滑空するタイプの鳥にとって尾羽は重要なものであるが、 意外にも飛翔の力学的には無くても揚力に影響がないということだろう。 確かに鳥の種類によっては尾羽が無駄に長かったり、装飾的な意味を持っていたりする。
今回のように尾羽が無くても問題なく飛べるという事実を見せられると、
「尾羽とは何なのか?」ということを考えさせられる。
2018年10月28日公開