当サイトではこれまで、地方自治体(各地の役所)のカラスに対する扱いについて取材してきたが、どれほど酷い内容でも具体的な自治体名を出すことは控えてきた。しかし今回は例外的に、非常に悪質な行為を行っている自治体を実名をあげて紹介したい。
*当サイトで公開することは市の担当者からも了承を得ている。
それは以前から当サイトにも情報が寄せられていたが、今回はその実態を確かめるために札幌市役所に電話をして事情を聴いた。まずは札幌市のホームページに掲載されている市民向けの案内を見てほしい。
~ 冒頭 ~ <*札幌市HPから引用>
子ガラスが飛ばない・動かないのは、ほとんどの場合、ケガをしているわけではありません。時間がたてば飛べるようになるため、親ガラスの威嚇がない場合は見守ってください。
この文章の冒頭では一見、繁殖期のカラスに対して理解を求め見守るように呼び掛ける内容になっている。しかしその次の段落では一転する。
~ 中盤 ~ <*札幌市HPから引用>
札幌市では、子ガラスの巣立ち時期に親ガラスの威嚇が激しい場合に、威嚇を収めるために地面にうずくまっている子ガラスの捕獲を行っています。
このように、子ガラスを捕獲することで問題の解決を図る方針を示しているのだ。もちろん行政が捕獲したカラスは殺処分になる
ホームページの案内を読み進むと、後半部分では広く市民から子ガラスの目撃情報を募っており、積極的に子ガラスを捕獲していることがうかがわれる。
この点を市の担当者に質問したところ、「そのように受け取ってもらっても構いません。」ということだった。つまり札幌市では、子ガラスが地面にいたら積極的に捕獲するということである。
冒頭のカラスに対する理解を促す文言は、捕獲への批判を避けるために一応の「心遣い」のポーズを示したに過ぎない。しかも、この案内では子ガラスが捕獲後に殺処分になることは伏せられているため、通報した市民は子ガラスが殺されるとは知らない可能性がある。もちろん、殺処分までは望んでいない人もいるはずだ。むしろ普通の感覚ならば、親鳥に威嚇されたくらいで「あいつの子供を殺せ」とはならないだろう。
そこで市の担当者に殺処分の具体的な方法を質問したところ、以下の回答を得た。
「捕獲した子ガラスは離れた空き地等に放置している。」
これは明確な違法行為であるため念のため聞き直すも、担当者は「何か問題でも?」という反応だった。「子ガラスは餓死しますよね?」と、指摘すると、「そうですね、自力で動けないので餓死すると思います。」、「だから実質的な殺処分なのです。」と悪びれることなく平然と答えた。
いくら捕獲許可権限をもった役所であっても、自力で動けない野生動物の遺棄が許されるわけがない。そして殺処分をするにしても、むやみに苦痛を与えるような殺し方は現在の法律では許されないのだ。
子育て中の親鳥から子を取り上げ、それを別の場所に遺棄して餓死させるというやり方は、あらゆる苦痛の中でも最も酷い所業ではないだろうか?
それを指摘すると担当者は、「本当は親鳥を捕獲できればいいんだけどね。」と答えた。
鳥獣保護管理法では、捕獲した手負いの動物を遺棄することを明確に禁じており(*1)、また捕獲許可の指針には殺処分をする場合においても動物に苦痛を与えないよう定めている(*2)。そしてこれらは、法律以前に人間として当然持ち合わせているべき倫理観の問題でもある。
(*1) 鳥獣保護管理法 第十八条 鳥獣の放置等の禁止
(*2) 動物の殺処分方法に関する指針
鳥獣保護管理法による捕獲許可は目的別に条件が付いている。今回のケースは頭数管理の計画的な捕獲ではなく、被害回避のための捕獲許可だが、許可要件として「被害が現に生じているとき」と、「その恐れがある場合」に限定している。つまり、害鳥だからといってむやみに捕獲することはできない。
巣立ち前後の親鳥は非常に神経質になっており、通行人に激しい威嚇を繰り返すことがある。時に威嚇だけで済まずにカラスに頭を蹴られる人もいるが、大怪我を負うようなものではない。相手は猪や熊のような危険な動物ではなく、たかが体重1kgに満たない鳥である。被害を訴える人は、怪我をしたことよりも「カラスに襲われた」という精神的な衝撃がその後の大げさなリアクションに結びついているのだろう。そして、それを受けた市役所では、熊が市街地に乱入して市民を威嚇していることと同様の対処をしているのだ。これは要するに実害を回避するための対処ではなく、人間による「カラスが憎い」という感情にまかせた野生動物への制裁といえる。
カラスの威嚇は親鳥が子を守るための必死な行為であり、その状況で親鳥から子ガラスを取り上げることがどれほど酷な仕打ちか、少しでも想像できれば理解できるだろう。そして、一度そういう体験をした親鳥は次の年からはもっと過激に威嚇するようになるのは当然である。
役所として現状を放置できないという姿勢は理解できる。しかし、それは毎年同じ時期に繰り返されることであり、回避する方法はいくらでもある。例えば、普段捕獲を依頼している業者がいるのだから、捕獲ではなく親鳥の目の届く範囲内で子ガラスを安全なところに移動するよう依頼することも考えられる。あるいは、ボランティアを募り通行人に注意を促してもらったり、威嚇を避けるための傘を貸し出すなどの対処法もあるだろう。
「うるさい」「威嚇する」という野生動物の本能からの行動に対して、相手を殺すことで解決を図るというのはとても文明人の考えることではない。
今回、札幌市役所に対し、違法な行為及び必要のない捕獲はやめるよう意見を述べたが、聞き入れられることは無かった。しかし札幌市がカラスに対しておこなっている行為は違法であり、また人道的にも許されるものではない。これについて明確に意見がある人は札幌市役所へ直接伝えてほしい。カラスの捕獲を行っている部署には自浄作用は期待できないため、直接意見を述べても聞き流される可能性が高い。そのため、意見は市長あてのメールか、市政への意見窓口にメールをお願いしたい。
ただし、市役所の業務を妨害するような行為、例えば無言電話や罵詈雑言、事実と異なる誹謗中傷などは絶対に行わないよう約束をお願いしたい。 尚、今回問題視しているのはあくまで巣立ち雛の捕獲及び虐待死であり、頭数管理のためのカラス駆除は事情が異なるため、ここでは問題視しない。
[意見の投稿先]
市長宛のメール ←札幌市HPへのリンク
札幌市への意見 送り先 ←札幌市HPへのリンク
この問題に以前から取り組んでいる「NPO法人札幌カラス研究会」の活動への支援をお願いいたします。
『改訂5版 鳥獣保護管理法の解説』株式会社大成出版社, 2017年
2022年5月22日 追記1
2022年5月12日 公開