カラスといえば思い浮かぶのは、ハイエナのように集団で動物の死骸を片付けるとか、 同じく集団でゴミを漁る姿だろう。 勇敢に獲物を仕留める「強い」イメージは彼らにはない。 昔から物語によく登場するものの、そこにも彼らの武勇伝は見つからない。
「ずる賢い」、「卑怯」などと言われたい放題な彼らである。
それでは、実際にカラスはどの程度の攻撃力があるのか? ハシブトガラスを中心に検証してみよう。
まずは鳥としての基本である飛行能力について、 カラスはどの程度の水準にあるのだろうか。 「空の王者」タカと比べてその能力を比較してみよう。
ハシブトガラス(左)とハイタカ(右)が翼を広げたところを比べてみよう。 タカ科の鳥はだいたい右の画像のようなシルエットだ。 飛行に特化した進化を遂げ、効率のよさそうな形状である。 しかしここで重要なことに気が付く。 カラスが翼を広げたシルエットが、何となくタカと似ているということだ。 しかし分類上、カラスはスズメ目(もく)であり、ハイタカはタカ目であるため、 進化の過程で互いに遠く離れた存在である。 それでも飛行能力に優れた形態は力学的に決まっており、 空の覇権を求めて進化するうちにおのずと似た形になるのだろう。
カラスの特徴としては風切羽が長く翼面積が広い。 つまりこれは、カラスの方が低速飛行向きということだ。 胴体はハイタカのほうが太いが、おそらく翼を動かす筋肉がより発達しているのだろう。
空中戦においてはトップスピードこそハイタカに敵わないものの、 カラスの旋回半径は非常に小さい。
どんなに速度の出る猛禽類でも、 攻撃相手に小刻みにターンされては速度は生かしきれず、 そのペースに巻き込まれる。
猛禽類の「速さ」が生かされるのは、背中を見せて逃げる相手を追うときである。
相手が逃げずに向かってくる場合、「速さ」はたいした武器とはならないのだ。
これはカラス同士が空中でつかみ合いをしている場面。
猛禽類と同じように飛びながら足を長く伸ばし、相手をつかむことができる。
カラスの空中での武器は主に脚であり、 空中でクチバシを使った攻撃をすることは基本的にはない。
カラスが集団でタカを追う姿をよく見かけるが、 注意深く観察していると、最後には一対一の空中戦になることもあるのだ。 その争いはときに30分間に及ぶこともあり、 カラスの持久力や飛翔能力も侮れないということがわかる。
鳥同士の空中での争いも最後はもつれ合って落下し、 地上での戦いとなる。 その時、猛禽類にはないカラス特有の武器が登場する。
地上では足蹴りの他、長く鋭いクチバシから繰り出される「突き」が強力な武器となる。
クチバシの先は鋭く、少し下を向いているが、 これは動物の死骸から肉を引きちぎるためのものである。
先端以外もまるでペーパーナイフのように薄く丈夫だ。
地上においては、このクチバシを積極的に攻撃の道具にするのだ。
カラスのクチバシは肉を食いちぎることもできれば攻撃の道具にもなる。 さらには物をくわえて運ぶこともできる多用途設計なのだ。
大きなクチバシで相手をつかみ、ブンブン振り回す。
そして足で締め上げながら同時にクチバシで突きまくる。
噛みつくよりも「突き」の方が効果的なようだ。
足の力は猛禽類に全く及ばないものの、 クチバシとの合わせ技があるのだ。
猛禽類の頂点であるオオタカと比べてみよう。
オオタカのクチバシは鋭く尖っているが、 先端は大きく下を向いており全長も短い。 これでは攻撃の道具には適さないだろう。 これは専ら仕留めた相手の肉を食いちぎるためのものだ。 カラスのクチバシと比べるとその差は歴然。 クチバシだけでケンカをした場合はカラスの勝ちだろう。
しかし、オオタカの武器は屈強な「脚」と「爪」であり、 それをもって一撃で相手を締め上げ、あるいは鋭利な爪を刺し込み致命傷に至らしめる。 狩りをするのにクチバシは必要ないということだろう。
ハシブトガラスがクチバシで挟む力は強力である。
この角材は重さ3kgだが、クチバシで挟んで簡単に動かすことができるのだ。
カラスのクチバシによって何度も噛まれた角材は、このように削り取られる。
無数の小さな穴が開いているが、 これはクチバシで突いたものだ。
カラスに噛まれた経験がある人は少ないと思うが、 本気で噛まれると一瞬で皮膚が切れてケガをする。
しかし、肉を一発で噛みちぎるほどの鋭さはないため、それほど怖がる必要もないだろう。
ここまで見てきたように、カラスにもある程度の攻撃能力があることは理解できる。 おそらく、猛禽類を除く鳥類のなかでは最強ではないだろうか。 実際にカラスの天敵はオオタカくらいしか存在しないのである。
そんなカラスだが、ハンターとしての能力に優れているか、といえばそれは疑問である。 ハンターとしての素質は、一撃で相手に致命傷を負わせる能力にあり、 自然界ではそれこそが「強さ」である。 カラスにはそこまでの能力はない。 それが食物連鎖の頂点に君臨する猛禽類とカラスとの立場の違いである。
結論としては、カラスはハンターとしての攻撃力はたいしたことはない。 しかし、多くの場所で猛禽類をも追い払い縄張りを維持している。 これを適切に表現するならば、カラスは「ケンカが強い」ということである。
2019年2月3日公開