カラスといえば普通は黒一色である。 だが稀に白い羽が混ざった個体も存在する。
黒い羽と白い羽はどう違うのか?今回は白い羽の秘密を解き明かしていこう。
↑この白い羽は我が家で飼育しているカラスから抜け落ちたものだ。
昨年の11月のこと。
←ケガをしたところから突然、白い羽が伸びてきた。
アルビノではなく後天的に白くなったものである。
白い羽はそのまま順調に伸長し、ついには立派な白い風切羽になった。
その後は隣の風切羽に隠れて見えなくなっていたが、 翼を広げるとこの通り白い羽が目立つ。
その羽が今年の6月下旬に抜け落ちた。
これだけ鮮やかに白くなるのは珍しい。
「見たことある!」
という方もいると思うが、
それはおそらくコレではないだろうか?
↓
このハシボソガラスは、両翼の一部と胸の部分がまだらに白くなっている。 遠くから見ると白黒模様のカラスのように見える。
ハシボソガラスは羽毛の内側にある綿羽が白いため、 換羽の時期になると表層の羽毛が抜けて内側の白い綿羽を晒すことになる。
これは正常な現象である。
それでは、抜け落ちた白い羽を観察してみよう。
白い羽を持つカラスは仲間のカラスからどのように見えているのか? 人間の目から見ると単に白い羽に見えるが、 カラスは紫外線も見ることができるので、 もしかすると何か他の色に見えているのかもしれない。
白色は全ての可視光の波長を反射するから白く見えるのだが、 白く見えるものでも紫外線のみを吸収しているものもあるのだ。
紫外線写真で確かめてみよう
さて、どう見えるかな?
これは太陽光の元で撮影した紫外線写真である。
結果は、白い羽は紫外線写真でみても単なる白であった。 紫外線領域の色を持っているのではないかと予想したが、 それは無いようだ、
もし紫外線領域の色を持っていると、 可視光で白く見えていた部分が紫外線写真では灰色や黒に見えるのだ。 逆に黒い部分は白や灰色に見える。
例えばこの花 ↓
通常の撮影では白く見える花びらが、右の紫外線写真では黒く見えている。
これがカラスにはどのような色として見えているのか? それは全く不明である。 紫外線は人間が識別できない波長であるため、 その色を想像すらできないということだ。 だが、単なる白色ではないということだけは言える。
ついでにカラスの黒い羽についてだが、紫外線で見ても一様に黒であった。 それが示すことは、人間がカラスを見た時の印象と、 カラスが仲間のカラスを見た時の印象は同じであるということだ。 これにはもっと検証が必要なので、次の機会に説明したい。
白い羽をさらに詳しく見てみよう
肉眼で観察できる限界はこれくらいだが、羽軸から斜めに規則的な構造があるのが見える。
*風切羽の微細構造の解説は コチラ
続いて実体顕微鏡で拡大してみよう。
白い羽が光を乱反射して分かりにくいが、 特に正常の羽と違いはないようだ。 黒い点々が見えるがこれは付着したゴミである。
矢印の部分を電子顕微鏡で拡大してみよう。
この画像は羽の内部を電子顕微鏡で観察したものである。
一見してメラニン顆粒が無いことがわかる。 そう、羽が白く見える直接の原因はメラニン顆粒が無いためだ。 これは度重なるケガによるダメージによって、 真皮層のメラノサイト(メラニンを作る細胞)が無くなったか、 あるいは全く機能していないのだろう。
羽小枝の間に見える物は全てゴミである。実体顕微鏡で黒く見えていたのはこれだろう。
正常の羽と比べてみよう
右の正常の羽には無数のメラニン顆粒が存在するのが確認できる。 黒く細長い粒子がそれである。
さらに拡大してみよう。
すると線維状のものが見えるが、これはおそらくケラチン線維の束であると考えられる。 その間を埋めている部分もケラチンであるが、 それとはタイプが異なるものと推定される。
*ケラチンとは、羽毛や爪、角質などを構成するタンパク質である。
今回はカラスの白い羽について検証したが、 メラニン顆粒が無いこと以外には特に異常はみられなかった。 全身が白いアルビノは寿命を全うすることが難しいだろうが、 部分的に白い羽があるという程度の場合、 カラスとして生きていくうえで特に問題は無いと考えられる。
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白髪のカラス(白い羽が生えてきた時のブログ)
2018年9月2日公開