管理人ブログ2017年10月15日 神島

街はもうすっかり秋になったが、海はまだ夏の気配を残している。

気候も安定し、ボートに乗るには最も良い季節だ。 だがまもなく秋雨前線が南下する予想で、この日を逃すとしばらく海には出られない。

今日はここから直線距離で40km先に浮かぶ三重県の神島に向かう。

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2017年10月12日早朝

マリーナを出航し最短距離で神島を目指す。 暖気運転を終えアクセル全開で急行! 

待った、その前にもう一度エンジンを点検する。 もちろん出航前にも点検するが、 ある程度走らないと分からないこともあるので、 海に出てから再度点検するのだ。


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すると、エンジンオイルが大量に漏れているではないか。

エンジンを停止し原因を探すと、 右舷エンジンのオイルフィルター付け根から漏れていることが発覚した。

左舷のエンジンのみでゆっくり航行しマリーナに戻る。 幸い部品があったので交換し、エンジンオイルを充てん、 船底に溜ったオイルを掻き出した。


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迅速に修理したつもりだが、再度出航したときはすでに10時。 大幅に時間をロスしてしまった。

朝からテンションが下がるが、外洋に出る前に不具合が発覚してよかった。

気を取り直して一路、神島を目指す。


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船を走らせること40分。

そろそろ神島が見えてくるころだが、 沖合には霧がかかっていて前方が見えない。

この状況ではGPSを頼りに進むしかない。


神島

ようやく見えてきた。

向こうに見える小さな島が神島だ。

次第に海が荒れてくる。

神島付近の海域は荒れやすい。 特に冬場は波が高く、小型ボートでは近づけないことが多い。


神島

船は大きく揺れ、波を浴びる。

神島を目指すもここで断念して引き返す船もいるが、 経験上、これくらいなら大丈夫。


神島

荒れた海域を抜け、ようやく島に辿り着く。 北から眺める神島だ。

古来より神の支配する島と信じられてきた。

ここは伊勢湾の入り口に位置し、周辺は岩礁で囲まれ海流は速く、南側からは外海の荒波を受ける。 港は北側にしかない。


神島

ごく小さな島ではあるが無人島ではない。

民家は漁港を見下ろす北側の山肌に集中している。

島内には川や池などの真水が少なく、断崖絶壁に囲まれ、人が住むには適さない環境である。 ただし海の幸は豊富。


神島

漁港の一番奥にボートを着ける。

ここの岸壁は高さがあるので、小型ボートの場合は小潮の日しか上陸できないのだ。

例えば大潮の満潮時に着岸すると、 干潮時にはボートに降りられないほど海面が低くなってしまうのだ。


トビ

出迎えてくれるのはトビ。

海沿いの町には必ずいる。すっかり人間に依存した猛禽類だ。


神島

漁港沿いのここが、この島のメインストリートだ。

といっても娯楽施設は一切無い。

この島は三島由紀夫の小説「潮騒」で有名だ。 彼は作品を手掛ける前に各地の漁村をリサーチし、 最終的にここ神島を舞台に選んだのだ。

パチンコ屋や大衆酒場が無く、昔そのままの素朴な漁村。 そこに原風景を感じた彼は、この島をたいそう気に入ったのである。 街の喧騒とは無縁の昔ながらの生活スタイルがの残るこの島は、 まさに「潮騒」の舞台にふさわしい。

現在では電気や上水も通り、ケーブルテレビが敷かれインターネットも可能であるが、 その頃の雰囲気を今も残している。


神島

道端にはナンバープレートの無い車やバイクが置いてある。

この島では車検など必要ないのだ。 免許だって無くてもだれも咎めないだろう。 おそらく死亡事故ゼロの島。

だって道が一本しかないから・・・。


神島のカラス

間抜けな声で鳴くハシボソガラス。

トビがいるところにはカラスもいる。

お互い仲は悪いが住むところは同じだ。


神島のカラス

背後から迫る仲間にいきなり背中を蹴られる。


神島

メインストリートを抜け、坂道を上る。

島を左回りに一周するコースだ。


神島

振り返ると海が見える。

さっきまでの霧は消え、青空が見える。


神島

森の中の所々に小さな畑がある。

この島では大規模な農業はできず、 このように小規模な畑が点在している。

基本的には漁業で成り立つ島であり、農作物は自分たちで食べる分だけ作るのだろう。


神島

丘を登ると南側の海が見えてきた。

沖に見える岩礁がこの島の最南端だ。


神島

島唯一の車道を歩く。


神島

さっき見ていた最南端の岩礁だ。手前が弁天岬。


神島

誰もいない砂浜。

向こうに見える景色は三重県の鳥羽。


神島

浜からさらに進むと、この場に不釣り合いな立派な建物が現れる。


神島

小学校と中学校が合体したものだ。

この島の人口の割には大きな建物である。

今日は平日なので子供たちは授業中だろう。


神島

校庭から見下ろす東側の景色。


神島

校舎付近から西側を見ると鳥羽の風景。

ここは日本一、景色の良い小学校だ。


神島

小学校の東側からは急な山道になる。


神島

山道をしばらく登ると、森の中にコンクリート造りの廃墟が現れる。


監的哨

この建物は第二次大戦末期に作られた監的哨(かんてきしょう)という施設である。

対岸の伊良湖岬から大砲を試射し、その着水位置を確認するための櫓である。

じゃあ、ここから大砲を撃って同時に観察すれば良いではないか?となるが、 弾道は横から見なければ分からないのだ。


監的哨

鉄筋コンクリート2階建だが、屋上の作りから実質は三階建てともいえる。

放置された廃墟のように見えるが、 全体的に近年の補修痕がある。

歴史的な観光施設として永久保存するつもりだろう。

ところで、この手の廃墟には必ず落書きがあるものだが、 ここには一切ない。この島はそのような連中が訪れることが無いのだ。


監的哨

観光案内には詳細な解説があるようだが、内容のほとんどは小説の解説である。

そう、ここは「潮騒」の最も有名なシーンの舞台なのだ。


監的哨

その内部は観光施設とは思えないほど不気味・・・。

一人で入るのを躊躇するくらいだ。

そういえば島のメインストリートを離れてから誰にも合っていない。

今日、この島を観光しているのは私一人だけだ。


監的哨

内部に入ってすぐ左にトイレがある。

あの形状の便器は戦前の物だ。


監的哨

後年の便器と違い開口部が大きい。 大人でも足を滑らせると落下の危険がある。

このトイレも含めての遺跡だろうが、 このトイレ、使用禁止とも書いていない。

この辺はトイレが無いので、我慢の限界に達した観光客が使う可能性も考えられる。


監的哨

奥に進むと床のド真ん中に囲炉裏のようなものがある。

小説「潮騒」にはこの施設で焚火をするシーンがあるが、 これかな?

私は映画版は見ていないので映画を見ると分かるかもしれない。


監的哨

そして階段を上って二階へと進む。

ごく狭い幅の階段だ。


監的哨

二階まで森に囲まれているが、戦時中は周囲の木を伐採していたはずだ。


監的哨

窓から見る景色は素晴らしい。

当時の軍人たちもこの景色に癒されたことだろう。


監的哨

各階には部屋が仕切られている。

おそらく当時は木製のドアや窓枠があったのだろう。


監的哨

さらに屋上へと進む。


監的哨

説明の要らない絶景である。


監的哨

向かって左側、つまり東の方は伊良湖岬だ。

確かに大砲の弾道が良く見えそうだ。


監的哨

西側を見ると三重県の沿岸部を一望できる。

これほどの絶景はなかなか無いであろう。

この空を滑空するトビやカラスたちが羨ましい。

鳥に憧れる瞬間である。


監的哨

そして足元を見ればそこは断崖絶壁だ。

はじめて自分が崖の端にいることを知る。


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2017年10月15日公開

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