ミーン、ミンミンミン、ジー、ジージー・・・・、
猛暑のなかでこの周波数の音を聞き続けると思考能力が低下する。そして夏の思い出に刻み込まれるセミの声。
梅雨明けに一斉に地上に這い出してきたセミたちは夏の主役だ。この昆虫を嫌う人はあまりいないだろう。
そして力尽き、屍を晒すセミたち。
セミの命をはかなく感じるのは、元気に夏を彩った主役が力尽きた姿に哀愁を感じるからだろう。
セミの寿命は近年の研究において1カ月も生きるという報告もあるが、私の観察によると概ね10日間前後である。その年に最初にセミが鳴き始めてから、自然死したセミの死骸を見るようになるまでの期間がだいたい10日間なので、従来の説が正しいのである。生物の寿命は平均で見るべきで、例えば、100歳まで生きた人間が一定数いるから人間の寿命は100歳となるわけではないのだ。
いずれにしても、彼らが地中で暮らした年数をおもうと、華やかな地上での時間は短いものである。しかし寿命尽き転がっているセミは、彼らのなかでは歴戦をかいくぐった勝者なのだ。なぜなら、安全な地中から太陽のもとに飛び出したセミにとって、周囲は敵だらけなのだ。
私はいつも、この窓から見える鳥たちを観察しているのだが、ヒヨドリやムクドリがせっせとセミを追いまわす場面をよく見る。なかでもカラスはセミ捕りが得意で、高確率で狩りを成功させている。
つまり、多くのセミは寿命をまっとうすることなく鳥のエサとなるのだ。その年に巣だった幼鳥にとって、ドンくさいセミはちょうど良い狩りの練習相手であると同時に、鳥たちにとっては重要なタンパク源なのだ。
このハシブトガラスは今年の初夏に巣立ったばかりのまだ子供であるが、早くもセミ捕りをマスターした。木陰で暑さを避けながらキョロキョロと周囲を見渡してセミを探している。
さっそく、飛んでいるセミを追いかけ地面に降り立った。
こうして、いとも簡単にセミを捕らえるのだ。まあ、セミなんて幼稚園児でも捕獲できるので、カラスにとってはテーブルのポテトチップに手を伸ばすくらいの感覚だろう。
一方、こちらでも。
アディが夢中になっているのはアブラゼミ。
不運にも迷い込んだ先は鬼の巣窟。
鳥にとってセミは美味らしく、胴体だけでなく翅に至るまで丸ごと完食する。
鳥だけではない。最近では昆虫食愛好家の間でも「セミは旨い」ということが知られてきて、夏になるとセミを捕食する人間が現れたのだ。昆虫食愛好家のなかでも達人になると特大の蛾を食べる人もいるそうだが、セミはそれに比べればハードルが低く初心者向けといったところか。
この地上に、セミにとって手強い敵がまたひとつ増えたのだ。
2023年8月27日 公開