今年は二度にわたって巣を撤去されるなど散々な目にあったハシボソ夫婦であった。 そして日々は過ぎ、今はもう5月中旬。本来ならば子ガラスを引き連れて賑やかで楽しい季節のはずだった。
そして巣があった鉄塔には謎のハシブトガラスの模型が設置されたのであった。
それからというもの、私は特に鉄塔を仰ぎ見ることもなくなっていた。
しかし・・・
久しぶりに見るとそいつは向きを変えていた・・・。
何だ? 一瞬、本物のカラスかと思ったぞ。
「あっ、元に戻った・・・。」
今まで気が付かなかったが、どうやら風を動力源にして回転させているようだ。 風の強いときに再び観察してみると、そいつは「グルン、グルン」と高速回転していた。 こうなるとカラスを模した形状である意味がないような気もするが?
まぁ、どうでもいいことだが気になったので・・・。
さて、ハシボソ夫婦の子育てはどうなったのかな?
鉄塔に作った巣を撤去されたあと心機一転、新たな出発点に選んだのが森の東のこの場所だった。 だがしかし、結局ここでハシボソ夫婦が子育てをする姿は見られなかったのだ。
その理由はおそらくこれだ。
4月の中旬あたりからハシブトのペアがこの場所に飛来するようになったのだ。
屈強なハシブトガラスだ。子育て中なのか神経質な様子で私の方を警戒している。 おそらくハシボソ夫婦はこいつらに追い出されたのだろう。 しかし元々ここはハシブトたちの縄張りだから仕方がない。
そしてハシボソ夫婦は再び枝を集めるようになった。どこかで新たに巣を作るつもりなのだろう。 これは4月25日に撮影したハシボソのお父さんの様子だ。
しかし、ハシボソのお母さんはいつからか枝を拾わなくなっていた。
そして枝を集めるのはお父さんだけになったのだ。
だが熱心に枝を集めるも、それを運んでいく方向が定まらない。 おそらく巣作りの場所が決まらないのだろう。 私は周辺の木や電柱を探したが、彼らの巣は見つからなかった。
巣の場所が定まらないまま5月に・・・。
5月の初旬には早くも気温が30℃を超える夏日となった。
エサ台にとまるハシボソのお母さんはとても暑そうだ。
暑さに負けて翼をだらりと下げ、口をあけている。
この様子を見ると最近はあまり体調が良くないように感じる。
小雨降りやまぬ5月10日。
どこからともなく「ビャー、ビャー」という小さな鳴き声が聞こえてきた。 これはハシボソの幼鳥独特の鳴き声だ。
「もしかして私の知らないうちに巣立ちを終えていたのか!?」
私は慌ててその声のする方を探した。
だが、どこにも子ガラスはいない。
いるのはいつものハシボソ夫婦だ・・・。
次の瞬間、私は驚きの光景を目撃した。
なんと! 子ガラスの声の主はハシボソのお母さんだったのだ。
おまけに両翼を軽くゆすり、幼鳥のように甘えた声を出している。
いったいどうしたのだ?
子育ての失敗が続きホルモンバランスがおかしくなったのか分からないが、思い通りにならない現実から逃避するかのようだ。
今年はもう子育ては無理なのかもしれない。
本物の子ガラスの声をきくことはないのだろう。
2020年5月16日 公開