4月28日
ハシボソ夫婦の子育ては順調だ。それは給餌の頻度を観察していれば分かる。徐々に回数が増えているのだ。先月のブログで巣立ちは5月10日と予想したが、おそらくその辺りになるだろう。
ひとつ残念なことだが、今年は巣の位置が塔体内の南東側(左奥)に作られたため、ここから最も観察しにくい場所なのだ。
お父さんが戻ってきてヒナたちにエサを与えるが・・・。
いまだにヒナの影すら見えない。
粘り強く観察を続けるも・・・。
やっぱり見えない。
5月1日 ようやくヒナのクチバシが見えた。
すでにヒナは大きく成長しているようだ。
ヒナが立ち上がるようになれば、もう少し観察しやすくなるだろう。
5月6日
ヒナたちは急成長し姿が見えるようになった。今年も三羽のヒナが育ったようだ。
5月8日
ヒナたちは巣の中で羽ばたき運動を始めた。翼に白い筋が見えるが、あれは風切羽の羽鞘である。羽鞘が残っているということは、まだ羽が完全に成長していないことを示している。しかしカラスの場合はこのくらいで巣立つことが普通である。
5月9日
巣立ちは近い。その瞬間を観察するため二階の窓際に三脚を設置し、超望遠カメラを据え付けた。狙うは250メートル以上先の鉄塔だ。
5月11日朝
私が予想した巣立ちの日を過ぎたが、おそらく今日か明日が巣立ちだ。ヒナたちの動きは活発で、早朝から鉄塔のアームを行ったり来たりしている。
向かい風をうけながら羽ばたき運動をしている。
巣立ちに向けて気合十分だ。
左のヒナは今にも飛び立ちそうだが、あれはまだ巣立たない。本当に巣立つときは緊張感が漂うものだ。
もう一羽のヒナが見当たらないが、活発な兄弟を横目に巣の中にこもっている。おそらく育ちの遅い末っ子だろう。
観察を続けたが午前中に巣立つことはなかった。
午後は用事があるので観察を中断し、外出することにした。
夕方に帰宅し、さっそく鉄塔を観察するとヒナはまだ残っていた。しかし一羽足りない。鉄塔の下の方ではお父さんの鳴き声がするので、私がいない間に一羽が巣立ったようだ。おそらく、先ほどの気合十分なヒナだろう。
5月12日朝
昨日、一羽が巣立ったというのに残りの兄弟たちはやる気がない。もう朝の6時を過ぎたが、巣から出てくる様子がないのだ。
昼を過ぎてもヒナたちは動く様子がない。お母さんが時々給餌に来るが、お父さんは全く来ない。おそらく先に巣立ったヒナの世話をしているのだろう。
動きがないまま一日が終わった。
5月13日午前4時50分
今日は気合を入れて早起きをした。状況からして今日は必ず巣立ちだ。
曇っているが風は無く、巣立ちに適した朝だ。
さっそく観察を始めると、お母さんが鉄塔の下の方にとまっている。そして下の方からはお父さんの鳴き声が響いている。未明にもう一羽が巣立ったらしい。どうやら私よりもヒナの方が早起きだったようだ。しかし末っ子はまだ巣に残っている。
午前5時37分
いつまでも起きてこない末っ子を、お母さんが起こしに来た。
お母さんは巣の下の枝をグイグイと引っ張り、末っ子をたたき起こす。
ようやく顔を上げた末っ子。
お母さんは飛び去ってしまった。
それ以来、両親はまったく給餌にこない。先に巣立った二羽の世話で忙しいのだろう。そろそろ覚悟を決めなければならない時だ。
末っ子は鉄塔のボルトをガジガジして遊んでいるが、空腹を紛らわせているのか。
「あっ、コケた。」
なんとも頼りないが、大丈夫か?
午前6時31分
巣に戻った末っ子だが、落ち着きなくキョロキョロと辺りを見渡している。昨日まで一緒にいた兄弟はいないし、両親もエサを運んでこない。ようやく自分の置かれた状況が分かってきたようだ。
午前6時47分 末っ子は再び巣から出てきた。
地面を見て小刻みに羽ばたきの動作をしている。
まるで、着陸地点を確認しているかのようだ。
動きがとまった。
緊張感が漂う。
「覚悟を決めたようだ。」
私は急いでカメラのズームを戻し視野を広げた。
次の瞬間・・・、
「飛んだ!」
力強い跳躍のあと、バサバサと羽ばたく。
目指すは両親が待つ池の南岸。
「いいぞ、順調だ。」
この後カメラの視界から外れたが、池の南岸に無事着陸したようだ。
最初に巣立った兄弟に遅れること2日、最後に末っ子は立派な姿を見せてくれた。
今年も無事に三羽のヒナが巣立っていった。しかし彼らにとって巣立ちは最初の一歩。本当の生存競争はこれから始まるのだ。
2023年5月14日 公開