昼間から我が家の庭でタヌキがウロウロしている。 この辺りに生息しているタヌキたちだ。 下を向いて餌探しに集中しているようで、 撮影している私に気が付いていない。
ユーモラスな顔立ちは古くから日本人に馴染みがある。
こちらのタヌキは体毛が一部ハゲている。 この地域で流行している疥癬(かいせん)に罹っているようだ。 疥癬はダニが原因だが、抵抗力が弱った時に皮膚全体にダニが繁殖し、 防御力を失った皮膚から他の病原体が侵入し、死に至ることもある。
彼らは夜間の活動が多いが、冬になるとエサが減るためかこうして昼間にも姿を見せるようになる。
いつもあの辺りから現れ、同じ道を帰っていく。
森の中には彼らの獣道が形成されている。
しかしここはタヌキだけではなく猫も通るものだから、 時に向かいから来た猫とタヌキが鉢合わせし、ケンカになることもある。
タヌキと猫はこの地域ではエサを取り合う競合関係にあるのだ。 そして、意外にもタヌキはケンカが強い。 しかし、そんなタヌキも敵わない相手がいる。
深夜、猫の叫び声がこだまする。
いつもと様子が違うと思い、声のした方を探してみるとそこに…、
タヌキかな?
いや違う。こいつはアライグマだ。 さっきの猫の叫び声は、 侵入してきたアライグマに遭遇した時の恐怖の叫びだろう。
アライグマとタヌキは分類上もだいぶ離れているにもかかわらず、 外見がそっくりだ。
しかし、こうして写真を並べると別物だということがはっきり分かる。
物置の奥からもう一匹が出てきた。合計三匹いるようだ。
次々と顔を出すアライグマの家族。 こいつらは警戒心が弱いのか、 あるいは好奇心がそれに勝るのか知らないが、 目を輝かせながら近寄ってくる。 私に対して敵意は無いようだが、これ以上近づくのはやめておこう。
アライグマといえば、かつてテレビアニメでブレークした人気者である。 だがしかし、そんな彼らも今ではお尋ね者であり追われる立場の悪者だ。 特定外来生物に指定され、根絶に向けて捕獲作業が進んでいる。 この地域も例外ではない。 昨年末も、近所の爺さんが一匹捕獲し保健所に引き渡したところだ。 その後はおそらく殺処分となっただろう。 しかし、このように細々と捕獲作業をしても定着した外来生物の根絶は不可能だろう。 覚悟を決めて日本全土でローラー作戦でもやらない限り根絶は無理だ。 かつて、大量にペットとして輸入されたアライグマだったが、 あの時に妥協して国産のタヌキでも飼って我慢すればよかったのである。
時すでに遅し・・・。
しかし、この状況を放置したからといって、 野山がアライグマで埋め尽くされ不毛な土地に成り果てるなどあるはずもない。 他種や同種の間で競合し最終的には適当な頭数に落ち着くはずだ。 実際、彼らはすでに数十年もかけて日本の地に定着し、 現在ではアライグマを含めた生態系が出来上がりつつある。 確かに入植以前とは異なる生態系に変化するが、 アライグマの存在を前提とした生態系が新たに確立するということだ。
これはもう、アメリカザリガニやブラックバスと同様に、 諦めて受け入れるしかないだろう。
そもそも、アライグマをはじめとした外来種たちは侵略者ではなく、 日本人が自ら持ち込んだものだ。 「ペットを野山に離す奴が悪い」という意見を耳にする。 確かにそれはあるが、本当の原因はそこではないだろう。 「では、販売したペットショップが悪い?」 それもちがう。 あたりまえだが、そんな生物の輸入と販売を許可している行政が悪いのである。 メジロの飼育は厳しく制限するかとおもえば、 海外産の亜種の輸入は認めている。 禁止するべきは国内種の飼育ではなく、外来生物の輸入であるはずだ。
外来生物の脅威が認識されていない時代のことはともかく、 現在に至るまで規制は緩く、外来種専門のペットショップまで存在する。 輸入規制は強化されるどころか1999年にはさらに緩和され、 カブトムシなどは外国産が堂々と売られるようになった。 あんなに機動性が高く繁殖力もある生物を生きたまま輸入するなんて、 歴史から何も学んでいないとしか思えない。
2019年1月13日公開