地面に横たわる倒木と、その隣で「ビヨ~ん」と伸びる竹・・・。
マヌケな写真だが、想像力豊な人が見るとゾッとする光景だろう。
映画のワンシーンならばこの後、近くにいた人間の首がへし折れる・・・。
危険予知の教材に最適な一枚である。
これは2019年7月、先ほどの木が倒れる直前の様子である。
自重に耐え切れずに根元が裂けてきた。もう長くは持たないだろうと思っていたが、この写真を撮った数日後に力尽きた。
偶然にも倒れるところを見ていたが「バキバキバキ」と轟音を立て、周りの竹を巻き込みながら倒れ、息絶えた。
まだ樹齢20年程度のコナラの木がなぜ倒れてしまったのか、私は知っている。
犯人はズバリ「竹」である。
元々ここは豊かな雑木林だったのだが、東の方から徐々に竹が侵略してきたのだ。
竹は周囲に地下茎を伸ばしながら春に一斉にタケノコとして姿を現し、樹木の間を遠慮なく伸びていく。
そして竹に囲まれた樹木は下の方の枝に陽が当たらず、枝が枯れ落ちていくのだ。そして樹木の重心位置が異常に高くヒョロ長い不安定な状態になり、やがて自重を支えきれなくなり倒れるのである。
現在では庭に植えてはいけない植物ワーストワンとして認知される竹だが、昔の日本人はそこらに竹を植えまくったのだ。
竹は農業の材料や建築資材になる上に春にはタケノコも収穫できるなど、昔の人にとってはまさに生活を支えてくれる万能な植物だったのだ。そのため当時は、竹林を増やしつつも適切に管理されていたのである。
ところが現在、金属加工品やプラ製品の出現により竹の用途がほとんど無くなり、当時の竹林は放置されてしまったのだ。こうして人間から管理されなくなった竹は、地下茎を伸ばしながら周辺の森林を侵略していったのである。森に侵入した竹は何年もかけて周囲の木々を倒していき、気が付けばオセロのように雑木林が竹林に置き換わっている。上空写真で見ても元と同じ緑色なので気が付きにくいが、日本の森林は竹のおかげで確実に減少しているのだ。
「竹林でもいいじゃないか?」「何の問題があるんだ?」と思うかもしれないが、生物多様性を考えたとき、竹林の増加は好ましくないのだ。竹が非常に排他的な植物であることは先の通りだが、それは植物に対してだけではない。竹藪の中は薄暗く地面に雑草もない。竹以外に草木も生えない環境であり、そんな場所には昆虫も少なければ野生動物も少ない、緑の砂漠といってもよいだろう。豊かな雑木林こそが生態系の基礎を支えているのだ。
そういうことで、私は数年前から竹林を元の雑木林に戻すボランティアをしている。 大変な作業であるが、どのように森が復活するのか興味がある。
<注意>
竹は森林法で定められた伐採届の対象外であるため伐採に際して申請は不要だが、当然、土地所有者の許可が必要になる。
春先に竹を切ると、切り口から甘い香りの液体が染み出てくる。
森全体に甘い香りが漂い、コバエが集まってくる。コバエが集まるということは、おそらく甘くて美味だと思うが私はまだ試していない。
竹の伐採を始めた最初の春、陽当たりが良くなった地面からは、さっそくコナラの芽が顔を出した。これは冒頭で息絶えたコナラの子どもかもしれない。
竹から解放された木々は陽当たりが良くなったが、下の方の枝が枯れ落ちて不安定だ。
しかし樹木の生命力は凄まじい。
自らのバランスを安定させるため、幹から次々と枝が成長してきたのだ。
あと数年で立派な枝になるのだろう。
そして地面からはクスノキ、エノキ、ケヤキ、モミジなど、沢山の新芽が伸びてきた。
これらは生存競争を繰り返しながら、やがて立派な雑木林を形成していくのだ。
2023年1月22日 公開