今年はハシボソ夫婦の子ガラスたちが三羽も巣立ち賑やかだった。 しかし、そんな賑わっていた風景は過去のもの。 夏が終わり9月下旬になると子ガラス三兄弟は姿を消したのだ。 正確に言うと姿を消したのは兄弟のうち二羽で、一羽はまだここに残っている。
11月24日 ハシボソのお父さんを見つめる一羽のカラス。
出戻りの子ガラスである。
お父さんが卵黄をついばむ様子をじっと見つめている。
そして、お父さんのあとを追って飛んでいく。
ボロボロになった風切羽がこれまでの苦労を物語る。
~ 遡ること一ヵ月前 ~
10月18日
この日は昨夜からの雨が止まずに朝を迎えた。そこには久しぶりに戻ってきた子ガラスの姿があった。
しばらくの間、縄張りの外で冒険をしてきたようだが再び親元に戻ってきたのだ。
屋根に飛び移り、お父さんに食べ物をねだる。
しばらく姿を見なかったのだが、他のカラスの群れから追い出されたのか?
いずれにしても他所に馴染めずに戻ってきたのだろう。
今年の子ガラス兄弟はどれも同じ姿をしている。だから今年は子ガラスの個体識別を諦めたのであった。 今、ここにいる子ガラスはおそらくあの最後に巣立った一羽ではないだろうか。
11月4日
朝早くからハシボソのお父さんと子ガラスが庭に来ている。左上が子ガラスだ。
そこに勢いよく登場したのはお母さん。
お母さんは今朝もイライラしている。
イライラの原因はもちろん我が子。出戻りのニートだ。
お母さんは子ガラスを威嚇しては追い払おうとしているが、お父さんは無関心。 子ガラスを追い払う役目はお母さんの仕事になったのだ。
晩秋の朝焼けに染まるハシボソ親子。これは結局、昨年と同じ状況である。 他の兄弟たちは立派に独立していったのに…。 するとこの子ガラスは落ちこぼれで生存能力が低いように思うだろうが、カラスの場合はそうとも言い切れない。 先に独立した兄弟たちが今も元気に生きている確証はないのだ。むしろ今頃は毎日リスクを感じながら苦しい日々を過ごしているだろう。結局は要領良く最後まで生き残った者の勝ちである。
こうして両親から冬の過ごし方を教わることができるのは彼の強みでもあるのだ。
11月11日 エサ台に来たのはハシボソのお父さんだ。
おや? 後ろから子ガラスもついてきた。
大きな口を開けて朝食をねだる。 お父さんはこの後に森の方に飛んで行ったが、そこで子ガラスに給餌しているのだろう。
森の中から子ガラスが給餌を受ける時の「アババババ、」という独特の声が聞こえてくるので間違いない。
しかし甘えているばかりでもない。
11月13日
いつもの時間にエサ台に朝食を置くがハシボソ夫婦は取りに来なかった。 この日は早朝からカラスたちの声が騒がしかった。森のハシブト集団とハシボソ夫婦が激しい争いを展開していたのだ。
まさにその最中に子ガラスはエサ台の卵黄をゲット。
両親に見つからないうちに急いでこの場を離脱。
こうして両親の縄張りで居候しながら、したたかに生きる子ガラスであった。
2019年11月24日公開