管理人ブログ2020年4月13日 カラスと法律2020

二度にわたり巣を撤去されたハシボソ夫婦であったが、産卵前に巣を撤去することで育てたヒナを殺処分にされるという悲劇は回避できた。

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カラスの巣

いろいろ大変だったが危機が過ぎ去るとそのエネルギーも失せていくもので、その後の経緯をブログに書くのを怠っていた。 その情報を必要とする方もいると思い、今回は当時調べた内容を紹介することにした。 内容は特に面白くないので興味のある人だけ読んでもらいたい。

渦中の二月下旬、ヒナの助命について県と交渉していたが進まない状況のままだった。そんな中、この件について私は環境省に見解を求めた。 なぜ環境省かというと、元はといえば「飼養のための捕獲を認めない」という環境省の指針が今回の事態を生んでいるという認識だったからだ。 それもあり私は半ば苦情をいうような姿勢で質問をしたのだが、対応した担当者は少し語気を強めてこう言った。

「逆に聞きたいけど、そのケースでなぜヒナを殺す必要があるんですか?」

「その場合はヒナの飼養も譲渡も特に問題ないですよ。」

予想外の答えに私はすぐに理解できなかったが、何度も聞き直してようやく理解した。 それを簡単に説明するとこういうことだ。

カラスに限らず野生動物に共通することであるが、まず、指針が目指すところは「野生動物の乱獲を防ぐ」ことであり、そのために「飼養目的の捕獲許可を出さない」ということである。 しかしこの法律では野生動物の飼育自体を禁止しておらず、逆に飼養(飼育)登録の制度が定められているのだ。 そのため適法に捕獲された野生動物は飼養登録ができることになっている。 ここでいう「適法」とは、愛玩飼養以外の何らかの目的で捕獲許可が下りた場合だ。 さらに狩猟鳥獣であるカラスは飼養登録の制度から除外され譲渡と飼養に規制が無いため、環境省のいうように「特に問題ないですよ」という答えになるのだ。

なんだか禅問答のような感じがするが、法律を正しく解釈するとこのようになるのだ。 これは私自身も理解が不足していた点である。

もう一つ付け加えると、 危険回避のための捕獲なのに殺処分前提の駆除許可で対応していることが問題だ、ということである。

このように環境省と県の認識に隔たりがあるのだが、その原因は実際の法律の運用が地方自治体に任されているためである。 そしてたいていの場合、自治体は法律や指針をより厳しい方向に運用する傾向があるのだ。

ところで、「野鳥の飼育は禁じられている」と、多くの人がこんな印象をもっているだろう。 しかし先ほど述べたように、鳥獣保護管理法では野生動物の飼育を禁ずる条文は存在しない。

  • *特定外来生物のように別の法律で飼育が禁止されている動物種があるので注意。
  • 「それなら、メジロの飼育はなぜ禁止なの?」という疑問が出てくるだろう。

    カラスの巣

    これも同様であり、実際にはこの法律でメジロの捕獲と飼育は禁止されていない。 しかし飼育を始めるには捕獲しなければいけないわけで、捕獲の許可が下りないため飼育が不可能ということである。 それを無視して勝手に捕獲すると、無許可捕獲(違法捕獲)に加えて無登録飼養(違法飼養)となるので罪は重くなる。 そしてメジロはこの指針の象徴のような存在であるため取締りも積極的なのだ。 これが「メジロの飼育は禁止」というイメージが定着した理由である。

    実際に役所のポスターやホームページにも堂々と「メジロ(又は野鳥)の飼育は禁止です」と書かれている。それを最初に書いた人は法律を理解したうえであえて強い表現で「飼育禁止」と書いたのだろう。正確に説明しようとするとこのブログのように長々として面倒だ。しかし後に続く者にはその真意が伝わらず、現在では一般人はもとより当事者であるはずの役人に至るまで誤解が定着してしまったのだ。 それがさらに拡大解釈され、狩猟鳥獣であるカラスにまで間違った認識が広がっている。 ちなみに、カラスの飼育に対してそれが違法捕獲されたものであっても「違法飼養」という罪は適用できない。「違法に捕獲した鳥獣の飼養禁止(第27条)」という条文はあくまで非狩猟鳥獣(飼養登録対象)に対するものと解釈されるからだ。

    このような現在の状況は、日本野鳥の会が目指す「野鳥の飼育=悪」という世間への刷り込みに成功したと言えるだろう。

    当サイトは発足以来、これらの誤解を解くため独自の活動をしてきた。 その成果は少しずつ現れ始め、サイトが発足した2016年以前には間違い一色だった世間の認識が、現在ではずいぶん改善されてきたように感じる。 特に「カラスと法律2017年5月改訂版」は掲載して以来、常にアクセスの多いページである。 当時は誰も言及しなかったことを大胆に発信したつもりだ。 今の知見で読み直すと言葉足らずな点や幾つかの細かい誤りが見られるが、そのページを引用している方も多いのであえてそのままにしている。

    今後はさらに、日本野鳥の会が求める「野鳥の飼育禁止」が法律の条文に反映されることが無いよう、それを阻止するために努力を続けていきたい。


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    参考文献

    『改訂5版 鳥獣保護管理法の解説』株式会社大成出版社, 2017年

    更新履歴

    2020年4月13日 公開

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