木々が芽吹くこの季節。冬眠から覚めた虫たちは活動を開始し、
鳥たちは子育てをする。
まさに生命の目覚めである。
この鮮やかな新緑の今こそが、四季の内で最も美しいと私は思う。
だがしかし、世の中では新緑を愛でる習慣は意外と少ない。
世間の関心は新緑よりも秋の紅葉である。
なぜ生命湧き上がる初夏よりも、去りゆく晩秋を愛でるのか。
それは例えば、
黄昏に感動する人はいても、朝焼けはそうでもないことと似ている。
さらに例えると、学生時代に感動をおぼえるのは入学式よりも卒業式。 そして極論をいうと、人生において最大のイベントは誕生よりも死…。
つまり人間の感情を揺さぶるものは希望や未来ではなく、 思い出と哀愁なのかもしれない、と、 これから始まる「生命の季節」を前に思うのであった。
新緑の季節に少し遅れて芽を出し始めるのがコレ。
ツル植物の葛(クズ)である。
ヤブガラシと双璧をなす、ツル性雑草のキングである。
実は、これを放置すると大変なことになる。
どうなるかというと…、
↑ こんな状態になるのだ。これは整備する前の我が家の庭。
森を覆いつくす見事なクズ林である。 クズは自力で立ち上がることはできないので、 周囲の木に巻き付きながら上へ上へと昇っていく。 そして大きな葉を広げ宿主の木を覆いつくす。 巻き付かれた方の木は日光を遮られ元気を失うが、 多くは枯れずにギリギリのところで踏みとどまる。
クズにはまるで意思があるかのように、 生かさず殺さずの絶妙な加減をコントロールしているのだ。 なぜなら宿主の木が枯れて倒れてしまったら自らも倒れるからである。
そんなクズにも昔は様々な利用価値があったようだが、 今ではただの雑草である。 よって、健全な森を維持するためにはクズを除去する必要がある。
まずは遠くから森を見渡し木々の上にクズの葉を見つける。 そして森に分け入りクズの茎(赤矢印)を探す。
巻き付かれた木(黄色矢印)はまだ幼木だったらしく、 クズの勢いに負けて枯れてしまった。 そして行き場を失ったクズは隣の木に移動したらしい。 まるで生き物のようだ。
地面の方に茎をたどってみる。
何年かけてこうなったかは分からないが、
ずいぶん横方向に移動したようだ。
そこらじゅうの木に蛇のように巻き付いている。
ようやく根もとにたどり着いた。
根もとと言っても、この地中に地下茎とよばれる芋づるのような根を走らせ、
ゲリラ的にそこら中から生えてくるのだ。
よって、この根を抜いても再び他から生えてくるだけ。
まるでゾンビのようだ。
そこでこれを使う。
ケイピンエースというクズ専用の除草剤だ。
一般的な液体の除草剤と違い爪楊枝のような形状だ。
黄色と赤の部分が目立つが、これは単なる目印である。
薬剤は白い部分に染み込ませてある。
他の除草剤のように薬剤を散布するわけではないので、
場所を選ばずに使用できる。
これをどうやって使うかというと…、
まずはクズの茎を根もと付近で切る。
根もとにドリルで2.5mmの穴を空ける。
そしてケイピンエースをブスッと差し込む。
茎の太さに応じて1から3本程度刺す。
本来は地下茎の枝分かれの所に刺すのだが、
これでも効果はある。
尚、今回は茎を切断したが、切らなくても除草は可能である。
森の地面に横たわる木の枝。
これは2年前にケイピンエースを刺したものだ。
クズは腐りやすい。
たったの2年でボロボロになった。
もうじき土に還るところだ。
クズを除去する理由はもう一つある。
これは今年の2月。
真冬の庭に放置された断熱材。
断熱材をめくると・・・。
テントウムシと同じくらいの大きさの虫が点々と…。
そう、時に大量発生して異臭を放つマルカメムシである。
今ここで仕留めることは簡単だが、寝込みを襲うような真似はしたくない。
それよりも、もっと効果的な方法があるのだ。
彼らの食べ物は専らクズだ。
クズが芽吹くころに彼らも冬眠から覚め、活動を再開する。
そしてセミのように口から管を伸ばして茎に突き刺し、クズの養分を吸収する。
もうお分かりだろうが、クズを除去するもう一つの理由はこれだ。
だが今ではない。
今、クズを除去しても機動性の高い彼らはすぐに他の場所に移動するだけだ。
じゃあ、いつやるの?
彼らの生活環にその答えがある。 害虫に悩まされたときは、まず害虫たちのことを知ることから始めるのだ。
カメムシの世界をのぞいてみよう
色以外はテントウムシと同じような格好だ。 テントウムシは万人に愛され、 昔から「テントウムシのサンバ」なんて歌にまでなっている。 だが、嫌われ者の彼らにはそんなものは無い。
そこで今日は、そんな彼らの日常を「テントウムシのサンバ」ならぬ、 「カメムシのレクイエム」にのせてお届けしよう。
「ながーい、冬を乗り越えてー♪ おいらの季節がやって来た~♪」
「あ~、出逢いー♪」
「ビビッときて~、次の瞬間~、恋に落ちるー♪」
「あ~、抱きしめたいョ~♪」
「二人だけの秘め事ぉ~♪」
「そして別れー♪ 旅路を急ぐ~♪ ヤバくなったら屁をかます~♪」
「ウォ~、振り向かずー、おいらは去り行く♪」
「あぁ~、おいらの生きた証~、未来への希望ぉ~おー♪」 -完ー
以上、特に何のドラマもないカメムシの日常を見てきたが、 最後に産卵したところがポイントである。
越冬から目覚めたマルカメムシはこの季節に一斉に活動を始め、そして交尾、産卵する。 そして産卵を終えたカメムシは程なくして死を迎えるのだろう。
クズを除去するのはまさにそのタイミングだ。 次世代を担う幼虫たちのエサを絶つことで、 秋にマルカメムシが大量発生することを妨げるのだ。
活動するタイミングが揃っているからこそ大量発生するのだが、 逆にタイミングを計ってエサを断てば根絶できるということだ。
2018年5月13日公開