日没後のカラス

夕暮れ時、慌ただしく家路を急ぐカラスたち。 森の中の高い木などが彼らの寝床だ。 カラスは昼行性の動物であるため、 通常は夜間に活動することはない。

それでは、どのくらいの暗さになるとカラスは寝床に帰るのか?

日没後から徐々に低下する照度と、カラスの行動について観察してみよう。


夕暮れの庭

2018年5月24日

18時56分に太陽が沈んだ。 その5分後の照度は80ルクス。

日没後といっても辺りはまだ明るく、カラスたちも普通に活動している。

*ルクス(lx)とは照度(明るさ)を表す単位である。


夕暮れのカラス

日没から15分後、照度は30ルクスまで下がったが、 我が家のカラスたちは、まだ寝る様子はない。


夕暮れのカラス

日没から20分後、急激に暗くなり始める。

照度は5ルクスまで下がり、 センサーライトが点灯し始めた。



だいぶ暗くなってきたが、まだ足元は見える。 森の上空ではカラスたちが喧嘩を始めているが、 これはねぐらに戻る前のいつもの儀式のようなものだ。


夕暮れのカラス

照度計の値は止まることなく下がり続ける。

そして我が家のカラスたちも、寝床につく時間だ。 彼らはいつもこのタイミングで寝床につくので、 カラスの理想の就寝時間は照度でいうと、5ルクスを下回った時と考えられる。


夕暮れのカラス

日没から30分後、照度は1ルクスになった。

この時点でもまだ足元は確認できる明るさだが、 色が分かりにくくなってきた。

先程まで、外ではカラスたちの鳴き声が響いていたが、 この時点でぱったりと止んでいた。


夕暮れのカラス

地平線に沈んだ太陽から届く僅かな光により、 空が紫色に染まる。

だが、もうすぐそれも暗闇に包まれる。

森のカラスたちの声は一切聞こえない。

皆、寝床についたのだろう。


夕暮れのカラス

そして完全に暗くなったのは日没から50分後、 照度計は0.08ルクスを示している。

遠くの空が少し明るく見えるのは、 街の明かりを反射しているためだ。

この先、真夜中になるとさらに暗くなるが、 街明かりのおかげで夜中でも0.02ルクスをキープしており、 完全な暗闇とはならない。



これまでの観察によると、 カラスが家路につく時間は日没から30分前後で、その時の照度は1ルクスくらい。 その昔、電気の無い時代の人間社会を想像してみると、 遅くともこの暗さまでには帰宅しないと危険なはずだ。 よって、明るさに対する感覚はカラスと人間であまり差がないといえる。



夜に飛ぶカラス

カラスは日没後、暗闇に包まれる前にねぐらに帰る。 だが時に、真夜中にカラスの声を聴くことがある。

そう、例外ではあるがカラスは夜に活動することもあるのだ。

私が観察しているハシボソガラスの夫婦も、 夜に鳴き声を上げたり時には飛ぶこともある。 それは縄張り争いが盛んな時期に多く、 不思議なことに夜中に飛んでいるのはハシボソ夫婦の内、決まって夫である。 夜にカラスの個体の区別が付くのか?と、思うだろうが、 このハシボソガラスたちは夫婦間で声質が異なるので夜間でも個体を識別できるのだ。

そして、夜中にカラスの声を聞くたびに照度を計ってるが、 そんな時は例外なく明るい夜だ。 それは月夜の晩か、あるいは厚い曇に街明かりが反射しているときである。

それでは実際に夜の明るさを測ってみよう。


満月

雲のない満月の晩。 辺りは月明かりに照らされ、手元の新聞の字が読めるほどに明るい。

照度は0.20ルクス。 足元は十分に確認でき、木々の枝も識別できる。

カラスはこれくらいの照度があれば飛行は可能であり、 森の中のねぐらに戻ることもできるということだ。


曇天の夜

次に雲に覆われた夜だが、街の明かりが雲に反射して辺りは明るい。 まるで間接照明のようだ。

照度計は0.25ルクスを示しているので、実際に満月の夜よりも明るいのだ。

雲に覆われている限り、夜通しこの明るさが続く。 自然界ではあり得ない現象である。


新月の夜

そして雲のない新月の夜。

照度は0.02ルクス。 これまでの観察では、 この照度でカラスが活動することは確認できなかった。

この暗さは、懐中電灯なしで外を歩くのは危険である。



カラスは人間と同じくらいの夜間視力を備えており、 夜に活動することも不可能ではない。 だが、基本的には夜間に活動することはなく、 安全な場所を確保し、そこから動くことはない。 昼行性の動物にとって夜間の活動は危険を伴うからだ。 例えばフクロウなどの夜行性の動物に対して劣勢になる他、 木の枝などに羽を接触させケガをする危険性が高まるためである。


番外編


カラス小屋に電灯をつけた

我が家のカラスたちも寝床に戻り、辺りはすっかり暗闇に包まれた。

小屋の中からは物音ひとつしない。

さて、ここで小屋の明かりをつけたら一体どうなるのか?


ライトをつけてみよう

カラス小屋に電灯をつけた

カラスたちが寝たタイミングでいきなりスイッチオン。

そして闇夜に浮かぶカラス小屋。


カラス小屋に電灯をつけた

カラスたちは少し驚いた様子だが、 ゆっくりと活動を始めた。


カラス小屋に電灯をつけた

窓の外は暗いのに部屋の中は明るい。 この不思議な状況にテンションが上がり、修学旅行の子供たちのように興奮気味だ。

つまり、カラスの就寝のタイミングは「夜になったかどうか」ではなく、 「周囲の明るさ」を基準にしているのだ。

室内でカラスを飼育する場合、夜は消灯したほうが良い理由がこれである。


ここで突然消灯してみる。

カラス小屋に電灯をつけた

すると、小屋の中からは「バサバサ」と慌ただしく動きまわる音がする。

カラスたちは慌てふためき、寝床に戻ろうとしているのだろう。


カラス小屋に電灯をつけた

この時の小屋の中の様子を赤外線カメラで見てみよう。

寝床に戻り遅れたアディは焦っている。

突然暗くなったため、まだ眼が馴れていないのだろう。

辺りがほとんど見えていないのか、止まり木に顔を近づけて慎重に確認している。


カラス小屋に電灯をつけた

ようやく寝床に戻ったアディ。

ここに戻るまでに数十秒もかかった。

悪戯のような実験だと思うだろうが、ここから重要なことが読み取れる。

「カラスは一定の照度を下回ると寝床に戻る習性がある」ということだ。

危険を回避するための本能であると考えられる。



昼行性と夜行性の違い

鳥類には昼行性のものと夜行性のものがいるが、 それらは眼の様々な構造が異なっている。 その中でも網膜(もうまく)に並ぶ視細胞の違いは顕著である。 網膜にはイメージセンサーのように高密度に視細胞が並んでいるが、 それらはどれも同じ細胞ではない。 「光」に対する感受性の高い杆体(かんたい)細胞と、 「色」に対する感受性の高い錐体(すいたい)細胞があり、 夜行性と昼行性の鳥ではこれらの細胞の比率が異なる。

フクロウなどの夜行性の鳥は杆体細胞の割合が多いため、 夜間にも高い視力を発揮するが、 色彩に劣る杆体細胞に頼るため彼らの目に映る景色はモノクロに近いはずである。
(*注)夜行性の鳥は、視細胞以外にも暗闇に特化した眼の構造を持っている。

逆に昼行性のカラスは色を感じる錐体細胞の割合が多く、 さらに近紫外領域の波長も色として認識できるため、 彼らが昼間に見ている景色は非常に色彩豊かなはずだ。 だが、夜間には錐体細胞はあまり役に立たたず、 比較的数の少ない杆体細胞に頼ることになり、夜間の視力は低下する。 我々人間もその点は同じであり、暗闇では視力が大幅に低下するとともに、 色覚はほとんど無くなる。 ただし、暗闇で色覚が無くなるのはどの動物も同じである。


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2018年6月17日公開

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