大晦日に二年ぶりに姿を現した野良猫のウシ。
すっかり衰弱している様子だった。
これは1月2日の画像である。
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首筋周辺の毛は抜け落ち、皮膚は岩のようになっている。
その原因は疥癬(かいせん)である。
この病気は、ダニが皮膚の角質の奥まで入り込み大繁殖し、 皮膚の機能を失わせてしまうのだ
これはかなり重症である。放置すればいずれ死ぬだろう。
疥癬には内服の特効薬があるのだが、 今は正月なので手に入らない。
だが食欲は旺盛だ。野生動物というのは、食欲さえあれば何とかなるものだ。
彼は何度もエサをおかわりするのだが、 食べている途中で力尽き、今この状態で眠っている。
「ブフー、ブスー」と、寝息が聞こえてくる。
早く治療を開始したいところだ。
1月4日
正月休み明け一番に薬を入手し、 エサに混ぜて飲ませる。
薬を盛ったことがバレるかと思ったが、 なんの疑いもなく完食した。
無事に一回目の投薬完了。
これを一週間ごとに合計4回続ける。
この薬はダニの卵には効かないので、間隔を空けて投与するのだ。
1月5日
まだ薬の効果は薄いはずだが元気になってきた。 栄養価の高い食事のおかげだろう。
それにしても不気味な面構えになったものだ。
猫のゾンビ役として、このままホラー映画に出演できそうだ。
和牛を食べさせてやる。
正月だからではない。ご馳走を与えて、ここから離れないようにするためだ。
今、他所へ行ってしまったら治療にならないのである。
雨のあたらない場所に寝床を作ってやった。
1月10日
薬の効果が見えてきた。
岩のような皮膚が少しずつ剥がれ落ち、健康なピンク色の皮膚が現れる。
1月16日
目の周りのただれも収まり、 少しずつ元の顔に戻りつつある。
暖かい昼間はウッドデッキで休む。
二週間もの間、栄養のあるものを腹いっぱい食べたためか、 少し太ってきたようだ。
だが、それくらいが今の彼にはちょうど良い。
ウシの寝床をのぞくと、剥がれ落ちた皮膚がたくさん落ちていた。
それを拾い集め、顕微鏡で検査してみよう。
顕微鏡を覗くと、驚くほど分厚い角質が見える。 これがあの岩のような皮膚の正体だ。
角質には毛が束になって絡まっている。
ダニの影響は角質の最深部まで及んでいるのだ。
さらに拡大してダニを探してみるが、見つからなかった。
どうやらダニは投薬開始後、間もなく死滅していたようだ。
あとは皮膚の正常な代謝と発毛により、この病気は完治するのだろう。
1月21日
この日で投薬開始から18日目である。
もうあとは、毛が生えそろうのを待つばかりである。
早く元の顔が見たいものだ。
だがしかし・・・、
この日を最後にウシは姿を消したのだった。
私は付近の森を探してみたのだが、その影すら見つけられなかった。
またタヌキに追われたのか?
あるいはオス猫同士の縄張り争いか。
一つ心当たりがある。
我が家では二階で猫を飼っているのだが、 時々、一階に降ろすこともある。
ウシがいなくなる日の昼、 我が家で飼っている猫と窓越しに初対面したのだ。
その時のウシの表情といったら、 まるで隠し子を見つけたかのような様子だった。
この家を自分だけの居場所だと思っていたのかもしれない。
だがよく考えてみれば、ちょうど今は猫の発情期だ。 そしてウシはオス猫である。 こんな所でいつまでも寝ているわけにはいかない。 「俺にはやることがあるのだ!」と、いったところかもしれない。
理由はどうあれ、ウシは再びさすらいの旅に出た。
それが野良猫の定めである。
2019年2月9日公開