カラスの換羽

鳥の体表を覆う羽毛。 これらは消耗品であり一定の周期で新しいものに生えかわっている。 このように羽毛が新しく生えかわることを換羽(かんう)という。

生えかわる周期は鳥の種類によって様々であるが、カラスの場合はどうだろうか。 今回はカラスの換羽を観察してみよう。

換羽前のカラス

我が家で飼育しているハシブトガラスのアディ。

この画像は今年の冬のものだ。 羽毛は整い艶もありきれいな状態である。

クチバシの周囲に細長い毛が生えているように見えるが、 これらも全て羽毛であり哺乳類の体毛とは構造が異なる。 ちなみに、羽毛というとフワフワのものをイメージするが、 鳥の体表から生えているものは風切羽も含めて全て羽毛である。


カラスの換羽

2018年8月4日

最初にクチバシ周辺の細長い羽毛が抜け始めた。


カラスの換羽

その頃から元気がなくなり、呼び掛けても反応しないことが多くなった。

顔の辺りが気になるのか、柱に顔を擦りつけている。

こういう時はあまり構わずにそっとしておこう。


脱毛が始まった日を起点に換羽の様子を観察してみよう。

カラスの換羽

3日経過

眼の周りの羽毛がごっそりと抜けた。


カラスの換羽

そして抜け方は左右均等である。


カラスの換羽

8日経過

眼の周りに続き、クチバシの上から頭部にかけてハゲ上がっていく。


カラスの換羽

この頃になると鼻の穴は丸見えになる。これがカラスの鼻孔だ。

遮るものが無くなり風通しが良さそうだが、 彼自身は落ち着かない状態だろう。


カラスの換羽

ついに耳の穴も丸見えになった。

換羽の時期は、普段は見ることができない耳の中を観察できるようになるのだ。


カラスの換羽

10日経過

羽毛が抜けると同時に新しい羽毛が顔を出す。

これは、皮下の新しい羽毛に押し出され、古い羽毛が抜け落ちているのだ。


カラスの換羽

ツンツンと尖ったものが見えるが、これが新しい羽毛である。

哺乳類の体毛と違い、鳥の羽毛は最初にストロー状の羽鞘(うしょう)が伸びてくる。 その中から畳まれた羽毛が伸びてきて、やがて展開する。


カラスの換羽

13日経過

最初に生えてきた羽毛はすでに展開している。 頭頂部は一度にごっそり抜けるのではなく、 こうして順番に抜ける。 しかし、抜け方にはそれぞれ個性があるので必ずこうなるわけではない。

さらに、飼育下と野生では抜け方が異なる可能性もある。


カラスの換羽

今、彼の皮下組織の細胞たちはフルに活動しているのだろう。 毎日すごい勢いで次々と羽毛が生えてくる。

換羽の時期は非常に体力を消耗するのだ。


カラスの換羽

15日経過

まだらにハゲた姿は少し不気味である。 だが、カラスの場合はハゲが違和感なく似合う。

ところで鼻の穴に何か詰まっているように見えるが・・・。

実は彼は今日、風邪をひいて具合が悪いのだ。 さっきからグスグスと鼻水の音がする。

換羽の時期はデリケートなのだ。


カラスの換羽

17日経過

先日の風邪は治ったようだ。

頭頂部から順に羽毛が生え揃い、モヒカンのようになってきた。

これはこれで様になる。なかなか迫力のある風貌だ。


カラスの換羽

頭頂部に比べると鼻元の羽毛は生え揃うのに時間がかかる。


カラスの換羽

18日経過

毎日観察していると変化がないように見えるが、確実に羽毛は成長している。


カラスの換羽

21日経過

ハゲた部分を徐々に覆い隠していく。


カラスの換羽

23日経過

鼻元の羽毛はようやく鼻の穴に届き、眼の周りの羽毛も整ってきた。

もう、ハゲを脱したと言っても差し支えないだろう。


カラスの換羽

しかしまだ、耳の穴は透けて見える。

眼の後ろもなかなか整わない。もう少しだ。


カラスの換羽

24日経過

元通りに生え揃ったように見えるが、 まだ眼の後ろと耳の周りが薄い。


カラスの換羽

30日経過

ついに換羽が完了した。すっかり元の姿である。

換羽おつかれさま。


カラスの換羽

ハゲのピークだった二週間前と比べると、別の鳥に見えるほどの変化である。

まるで育毛剤の広告みたいだ。



換羽の時期

新緑の季節になり暖かくなると、まず最初にフワフワした綿羽が抜ける。 この綿羽は保温の役割があるので気温の上昇とともに不要になり、 真っ先に抜けるのだ。

抜けた羽毛

このようにある日突然、大量の羽毛が抜け落ちる。

この時注意したいのは、 ストレスで自分の羽毛を引き抜く「毛引き」と見分ける必要があることだ。

大量に羽毛が落ちている場合は念のため確認しよう。



その後は少し間を置いた後、7月になると再び羽毛が抜け始め換羽のピークを迎える。 その後も初秋にかけて少しずつ生え変わっていく。 上で紹介したように顔の周りの羽毛がごっそりと抜ける時期が換羽のピークである。

子育てが終わり、気温も高くエサも豊富な夏場は換羽には最も都合のよい季節である。


風切羽の換羽

抜け落ちたカラスの風切羽

風切羽は最も重要な羽毛である。 カラスの場合、風切羽は一度に大量に抜けることはなく春から秋にかけてゆっくり生えかわる。

風切羽が一度に多く抜けたら飛べなくなってしまうためだ。


抜けた羽毛

だが、このハシブトガラスは風切羽と尾羽が多数抜けてしまっている。

風切羽がいくつ欠損すると飛翔に影響が出るのか分からないが、 この程度ではまだ問題は無いようだ。

こんな状態でも活発に空中戦を展開している。


抜け落ちたカラスの風切羽

私は飼育しているカラスの風切羽が抜けるたびに記録している。

初列と次列の風切羽、さらに尾羽を区別してカウントしているが、その結果、 風切羽が抜ける順序に決まりはないが概ね左右交互に抜けている。 これは左右のバランスを保つためだろう。

そして抜ける本数を数えた結果、一年で全て生えかわるわけではないことが分かった。


ハシボソガラスの換羽

ここまではハシブトガラスの換羽を観察してきたが、 ハシボソガラスと何か違いはあるのだろうか。

ハシボソガラスについても観察してみよう。

換羽期のハシボソガラス

いつもブログに登場しているハシボソガラスのお母さん。 7月下旬からゆっくりと換羽が始まり、9月に入ってピークを迎えた。

首筋や胸の辺りに白い綿羽が非常に目立つ。 ハシボソガラスは綿羽の部分が白いのだが、普段は隠れていて見えない。 しかし羽毛が抜け始めると根本の白い綿羽が目立ってしまうのだ。


換羽期のハシボソガラス

拡大してみよう。

くちばしの周囲や頭部もハゲていて、 よく見ると鼻や耳も確認できる。

この状態では雨が降ると地肌が濡れて不快だろう。

だが、気温の高いこの時期なら大丈夫。


彼らは例年、7月から9月下旬にかけて、ゆっくりと羽毛が生えかわっていく。 換羽期にみられる白いまだら模様が特徴的ではあるが、 それ以外はハシブトガラスと大きな差はないようだ。


換羽のまとめ

鳥の換羽は、短い期間に全て完了すると思われがちだが、 羽毛の種類や部位によって生えかわる時期が異なり、それらを含めると意外に長い時間をかけている。 また、同じ地域に生息しているカラスにおいても、個体によってそれぞれ換羽の様子が異なるのだ。

さらに、ここでは主に飼育しているカラスを例にとって観察してきたが、 小屋の中で栄養豊富な環境で生活しているカラスと、 日頃から風雨にさらされ栄養状態も安定しない野生のカラスでは、 換羽の時期やスピードが異なる可能性も考えられる。


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2018年9月12日公開

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