6月9日
巣立ちから1か月以上が過ぎた。 子ガラスは順調に育っているようだ。
ところで、今年は二羽のヒナが巣立ったはずだが、 いくら探しても一羽しかいない。 もう一羽の兄弟は事故にあったか、あるいは他の動物に襲われて死んだのだろう。
「どこかで生きているのでは?」
残念ながらそれはあり得ない。 カラスのヒナは成長が遅く、自力で採餌できるようになるまでにある程度の期間が必要になる。 その間に親鳥とはぐれたら生きていくことは不可能である。 唯一の例外は人間に救助されることだ。
キウイのアーチにとまる子ガラス。
彼はこの場所がお気に入りだ。
一緒に遊ぶ兄弟もなく、いつもひとり遊びである。
伸びたキウイのツルを右足で器用に掴んでいる。
カラスは足が器用なのだ。
ここのハシボソ夫婦は例年、二羽のヒナを育てている。
昨年のこの時期は、兄弟でじゃれ合う姿をよく見たものだ。
6月22日
子ガラスはずいぶん成長し体格も立派になった。
だが、鳴き声はまだヒナのまま。「ビィー、ビャー」という小さな声だ。
飛ぶのは上手になったが、まだ飛翔力が弱く風の強い日にはフラフラして頼りない。
そして今年の子ガラスは、なぜかお父さんになついている。
このように、いつもお父さんと一緒にいるのだ。
お父さんは例年になく教育に熱心なようだが、
今年は一人っ子だから溺愛しているのだろう。
お母さんは少し距離をおいて、見張りに徹していることが多い。
今年は巣立ち以来、お母さんが給餌しているのをあまり見ない。
お父さんを追い、子ガラス(写真上)が小屋の屋根にやってきた。
そろそろ自分でエサをとることを覚えなければいけない。
子ガラス(左)は入念に安全確認をしている。
これもお父さんの教育のおかげだ。
だが、クルっと向きを変えてお父さんに食べ物をねだる。
だけどお父さんは、自分で餌を取ってくるように促しているようだ。
さすがは親子だ。言葉はなくとも意思の疎通はできている。
それに応えて子ガラスはエサ台にジャンプ。
だが、エサ台を踏み外して地べたに着地した子ガラス。
お父さんは温かく見守っている。
仕方なく自らエサ台へ。
エサ台の上には大好物の卵黄だ。
子ガラスもワタワタしながらエサ台にたどり着いた。
しかし、目の前にある卵黄を取ることはなく、 お父さんにねだる。体は立派になったが中身はまだヒナのままである。 巣立ち後の子ガラスは、しばらくの間は目の前にあるエサも拾えないのだ。
「そんな簡単なこともできないのか?」
と、不思議に思うかもしれないが、 子ガラスにとってそれは意外にハードルが高く、 それができるかどうかが成長の指標の一つとなる。
お父さんはエサ台の上では子ガラスに給餌しない。
卵黄をくわえて立ち去った。
遠くに持っていって木の枝に隠れ、そこでゆっくりと子ガラスに分けてやるのだ。
お父さんを追いかける子ガラス。
この間、ハシボソの妻は屋根の上で見張り番をしていたが、 例にもれず妻の分のエサは残っていない。
例年ならあまり好かれないはずのお父さんである。 だが今年の子ガラスがベッタリな理由。
それは単に、いつも美味しいものを持っているからであった。
2018年6月24日公開