ちょうど二年前のこと。 自宅から歩いて15分くらいのところに公園があり、そこではあるハシボソガラスの夫婦がヒナを育てていた。
そして6月、一羽のヒナが巣立っていった。しかし巣立ったヒナはある朝、車にはねられてしまった。そして無情にもその上を何台もの車が通り過ぎる。親鳥はすぐ近くの電線にとまり、車が通るたびに悲痛な鳴き声を上げている。
その日の夕方、再びその場所を通ってみると、がっくりと肩を落とし電線にとまったままの親鳥の姿があった。まだその場を離れられずにいたのだ。無数の車に轢かれペシャンコになった我が子は元の面影もない。親鳥は当然、我が子は死んだという認識はあるはずだ。
さて、今年もカラスの子育ての季節は続いている。この時期になると「動けないカラスのヒナを見つけたがどうすればよいか?」 という問い合わせが多くなる。今年はすでに数十件の問い合わせを受けている。
巣立ち前のヒナが巣から落ちてきた、というものから、飛べないヒナがいるのだが親鳥がまだ近くにいる、などである。
巣立ち前に巣から落ちてくるヒナというのは、発育が遅すぎたりして親鳥からつまみ出されることもあるのだろう。その場合は、保護できる余裕のある人は拾えばよいのだが、問題は後者である。
飛べずに地面にいるヒナの上空を、親鳥が諦めずに旋回している場合だ。巣立ち直後のヒナはまだ飛べないことが多く、数日を地面で過ごすこともある。親鳥が見守る中で飛行訓練させている、という場合もあるが、カラスの場合はそうでないことが多くある。ヒナがケガを負っていたり、衰弱している場合もあるのだ。
通常は巣立ちに失敗してケガをしたヒナなど、親鳥はあっさりと見捨てるものである。だが時に、回復の見込みがない場合も親鳥が諦めずにいる場合もあるのだ。その違いはおそらく、そのヒナが兄弟もなくひとりっ子だったり、あるいは初めて子育てをする若い親鳥だったりするのだろう。
私は、親鳥が諦めていない場合は親鳥の意向を尊重するべきだと考えている。それは冒頭の、死んだ我が子に寄り添う親鳥の姿が脳裏を離れないということもある。例えヒナが死んだとしても、我が子の死を見届けることは親鳥にとって最も納得のいく結末だからだ。
しかし視点を変えれば立場も変わる。死ぬか生きるかの瀬戸際にいるヒナにとって、自分を助けてくれるのなら相手が親鳥でも人間でもどちらでも構わないのだ。だから、必要なら親鳥と引き離してでも救護することも間違いではない。
そんな時、どのタイミングで人間が介入するかというのは非常に判断が難しい。弱っていそうに見えても、ヒナが回復して飛べるようになることもあるからだ。
これは正しい答えのあるようなものではない。だから悩んだ末にどのような判断を下したとしても、どれも間違いではない。だが一つ言えることは、ヒナを救助した苦労よりも、何もできなかった後悔の方がはるかに大きいということである。
2019年6月30日公開