エサ台にとまるハシボソのお母さん。
視線の先にはドッグフードがあるのだが、食べる様子はない。
何やら言いたげな表情だが。
ドッグフードには手を付けず、そそくさと立ち去ってしまった。
いったい、どうしたのだろう?
エサ台に残されたドッグフード。
銘柄はロータスペットフード。 人用グレードの食材のみを使用し、余分な添加物は不使用の高級品である。
以前から何となく気が付いていたが、 ハシボソの夫婦はロータスに限らずドッグフードがあまり好きではないようだ。
そこで、ハシボソ夫婦の好みを調べるために、 実験をしてみよう。
いつも与えているペットフードを3種類用意した。 「キューちゃん」とは、九官鳥のエサの商品名である。
さて、どれを選ぶかな?
少し迷いながらもキャットフードを選んだ。
次はQちゃんだ。
そしてドッグフードを残したまま立ち去る。
最も好きなのがキャットフードで、その次はQちゃんのようだ。
次に、Qちゃんとキャットフードの二択で試してみよう。
ほとんど迷うことなくキャットフードを選んだ。
お父さんも遅れてやって来た。
Qちゃんに見向きもせず、キャットフードにクチバシが向く。
夫婦そろってキャットフードが好みのようだが、 それはおそらく味の問題だろうと私は考えている。
残されたQちゃん・・・。
我が家のカラスたちはどうだろう?
さっそく試してみよう。
さあ、どうだ?
この時点ですでにキャットフードの方を見ているようだが。
予想通り、まず最初にキャットフードを選んだ。
次は・・・。
視線がドッグフードに向いている。
分かりやすいヤツだ。
そして次に選んだのはドッグフード。
と、思ったら残ったキャットフードに戻る。
やはりキャットフードの方が好きなようだ。
キャットフードを完食後に再びドッグフードに戻る。
のど袋がいっぱいになってきたようだ。
Qちゃんを残して立ち去る。
ハシボソ夫婦と異なる結果になったが、
キャットフードが最も好きというのは共通するところだ。
そして1ヵ月の間、 ドッグフードとキャットフードについて、いくつかの種類を試した。 その結果はどれも同じである。 結論としては、カラスが好むドライフードはキャットフードである。
それではなぜ、カラスは猫のエサを好むのか。 野生動物なので体が要求する栄養素を積極的に選択していると思いたいのだが、 どうやらそうではないようだ。
おそらく味覚を基準にしていると考えられる。 それでは、これらのペットフードはどんな味なのか?
実際に食べてみよう。
まずは九官鳥のエサ。 お菓子のような甘い香りがして美味しそうだ。 一粒口に入れてみる。すると、甘い香りとは裏腹に味はほとんど無い。 まるで乾燥した麩(ふ)を食べているようで何の旨味も無い。 甘い香りとのアンバランスさが際立ち後味が悪い。 二粒食べてギブアップ。 このエサは本来はお湯でもどしてから食べるものだが、 これが水を吸ってブヨブヨになったらと思うと口に入れる気にはならない。
原材料は主に小麦粉、とうもろこし、脱脂大豆、肉類(チキン)、糟糠類、乾燥野菜。 さらにビタミンやミネラルが加えてある。 成分比率をみると原料の半分以上は炭水化物ということだ。
続いてドッグフードだが、まず臭いが有り得ない。 例えは悪いが、まるで動物のウンコのよな臭いだ。 口に入れる前から抵抗があるが、勇気をだして口に放り込む。 粒をかみ砕くと変な雑味が口いっぱいに広がる。 その食感はまるで段ボールを食べているかのようである。 しかしこれはロータスの高級品であり原材料の大部分がチキンである。 だが、元がチキンであることを微塵も感じさせないほどに不味い。 普通、肉を乾燥させると旨みが凝縮されそうなものだが、 まったくそういう感じはしない。 いったいどうすればこんなに不味いものをつくれるのか? そしてこれを旨そうに食べている犬たちは舌バカなのか。 味音痴の犬には旨み成分は不要ということだろう。 確かに犬のストライクゾーンは異常に広い。 与えたものは何でも喜んで食べる。
原材料はチキン及びチキンレバーに穀物をブレンドしたもので、 その他、様々な栄養素が添加されている。
そしてカラスたちに大人気のキャットフード。 先程のドッグフードですっかり口の中が濁っている。 これも味は期待せずに一粒口に入れてみる。 するとどうだろう。これが意外にも旨いのである。何というか噛むほどに味がしみ出す。 いや、旨いと表現するのは語弊がある。 先の二品に比べてマシということだ。 もっと正確に表現するならば、旨味成分が極めて強いということだ。 カラスたちが好んで食べる理由はそれだろう。 しかし、それはまるで化学調味料を加えたかのような不自然な旨みである。 いったい、何が原料なのか? パッケージの成分表を見てみる。 だがしかし、多くを占めるのはトウモロコシと小麦。 肉食動物たる猫のエサがこれでよいのか疑問であるが、 炭水化物を肉に見せかけるように旨味調味料でごまかしているのだ。 さらに、猫科の動物に必要な栄養素は別に添加している。 そしてそれに騙される猫とカラスたち。
「なんだ、結局、猫もカラスも味音痴だな」と、思ったあなた。 はたして彼らをバカにできるだろうか?
我々の身近にあふれるインスタント食品の数々。 旨味調味料のみで味を調えたカップラーメン。 そしてポテトチップを食べながら飲むのはインチキくさい第三のビールである。
カラスが好きなペットフードは猫のエサということは分かった。 しかしその理由はおそらく味付けによるものだろう。 栄養バランスを考えると、猫科特有の必須栄養素を多く添加したキャットフードは、 カラスの主食としては適切ではない可能性がある。
ならば、栄養バランスの観点からみたカラスに最適なペットフードはどれか?
まずは自然界のカラスをよく観察し、カラス本来の食性を見てみよう。 カラスは雑食性であるが、そのなかでもよく食べているものは、 昆虫やミミズなどに加えて動物の死体などだ。 これだけ見ると猫の食性に近いように思うが、 カラスは果実や硬い木の実なども食べている。 また、街のカラスを見るとパンなどの穀物も積極的に食べているので、 完全な肉食というわけではない。 体が要求する栄養素を植物等から得ている可能性もあるのだ。
結論としてカラスに与えるエサは、 ドッグフードと九官鳥のエサをブレンドしたものが最適だと考えられる。 だがしかし、舌の肥えたカラスたちはそれらは好みではない。 すると結局、自分で材料を吟味して手作りするのがベストである、 という結論に至るのであった。
2018年5月22日公開