カラスは賢くて愛嬌のある動物だ。しかもヒナから飼育すると人によく馴れる。そんなカラスを飼ってみたいと思う方もいるだろう。しかしカラスは犬や猫のように飼いやすい動物ではないのだ。ここでは、カラス飼育の現実について伝えていきたい。
排泄物の対策
カラスの飼育において、フンの対策が最も重要な課題となる。犬や猫と違い頻繁にフンをするのだ。しかも小鳥と違い一回に放出するフンの量は多い。フンのニオイは犬や猫に比べると低臭ではあるが、放置すると時間とともに雑菌が繁殖し独特の臭気を放つ。
トイレの躾はできるのか?
鳥は基本的にトイレの躾が難しい。それは知能が高いカラスでも例外ではない。飛ぶ寸前や、あるいは緊張した時などにフンを放出する習性があるためだ。しかしオウムなどはトイレの躾の成功例があるので、カラスも幼鳥期から根気よく教えたなら躾が成功する可能性はある。しかし、当サイトに寄せられる多くの飼育情報のなかでも、トイレの躾に成功した事例は無い。
カラスの声量
街中で聞くカラスの声はそれほど気にならないだろう。カラスの声は馴染み深いもので、もはや風景に溶け込んでいるからだ。しかしそれが室内で発せられると非常に大きな声に感じるのだ。さらに住宅密集地やマンションであると不自然さが際立つ。近隣住民とのトラブルになったり警察に通報されることもあるだろう。そのため住宅密集地でカラスを飼うには防音対策が必須である。
カラスは基本的によく鳴く鳥である。これは仲間との通信手段として発達したものだと考えられるが、仲間がいない飼育下のカラスにおいても寂しいときに鳴き続けることがある。また、野外のカラスの声に反応し、外に向かって大声で鳴き続けることもあるのだ。ヒナから飼育した個体では鳴き癖が全く無いカラスもいるが、それは親鳥から鳴き声を学習しなかったことが原因だと考えられる。
落ち着きがない
元々は活発な野生動物なので落ち着きがなく騒々しい。個々のカラスによって程度の差はあるが、多くの場合は喜怒哀楽が激しく欲求不満がたまると暴れたり鳴き続けたりもする。ただし、夜になって暗くなるとおとなしくなる。
物を壊す
特に三歳以下の若いカラスは好奇心が非常に強く、気になるものは家具だろうとカーテンだろうと引っ張りまわし破壊する。部屋の雑貨や小物を次々と壊していくのだ。ただし、これについては子犬や子猫も同じである。異なる点は、カラスは高いところにも手が届くということだ。
基礎代謝が高い
カラスに限らず鳥類は基礎代謝が非常に高い。基礎代謝とは、何もせずとも消費するエネルギーのことだ。どの程度の絶食に耐えられるかはその時の体調にもよるが、エサのやり忘れには注意したい。エサを手渡しで与えるなら一日に三回以上(成鳥の場合)。それが無理なら置きエサを用意する。また、水をよく飲むので水を切らさないように注意したい。
水浴びは必須
カラスは頻繁に水浴びをする。羽毛に付着した汚れやハジラミなどを落とすことが目的だと考えられるが、水浴び自体を楽しんでいるように見える。野外のカラスは気温が4℃以下の真冬でも水浴びをする。
カラスはきれい好き ←詳細
カラスの食性
ハシブトガラスとハシボソガラスは食性が異なると言われているが、飼育下ではどちらも似たようなものである。自然界の彼らは動物の死体をはじめ昆虫や蜘蛛、ミミズなどの動物性のエサを多く食べる。そうかと思えば木の実なども好むのだ。
さらに街中においては人間が出した生ごみが重要な栄養源となっていることから、許容できる食の幅は異常に広いといえるだろう。糖分、塩分、脂肪、腐肉など他の鳥が避けるべきものでも平気で食べているのだ。そのためカラスを飼育するにあたり、いったい何を主食にしたら良いのか迷うだろう。
カラスのエサ ←詳細
心は意外とデリケート
カラスといえば「図太い」「ずる賢い」など、ストレスとは無縁の生き物と思うかもしれないが、その屈強そうな見た目とは裏腹に心は非常に繊細である。特に自由を制限された飼育下では顕著であり、飼い主が変わるなどの飼育環境の変化に敏感で、些細なことに怯えたり、ストレスを溜めて毛引き(自分の羽毛を引っこ抜く)や、自咬症(じこうしょう=自分で自分を噛む)になったりする。飼育するにあたり、この繊細さが問題となることも多いのだ。
換羽と毛引き
犬や猫は春先から初夏にかけて冬毛が抜け落ちる。カラスも同様に6月から10月にかけてゆっくりと羽毛が抜け替わるのだ。そのとき、羽毛だけではなく風切羽も抜け落ちる。抜け方は個体差が大きく、ごくゆっくりと気が付かない内に抜け替わるものや、一度にごっそりと抜け落ち、ハゲた地肌をさらすものもいる。夏場に野外でハゲたカラスを見ることがあるが、あれは脱毛症ではなく単なる換羽である。
ただし注意が必要なのは、飼育下のカラスは時としてストレスにより毛引きをすることがあるのだ。その際はクチバシが届く範囲の羽毛を全て抜いてしまうことがある。換羽との見分け方は、抜けた羽毛に引き抜いた痕跡を見つけることだが、見分けが難しい場合がある。左下の画像のように、クチバシの届かない頭部の羽毛が抜けるのは毛引きではない。判定できない場合は監視カメラを設置して人がいない時の様子を観察するしかない。だがしかし、毛引き症に対して有効な治療法はなく、ストレスを取り除く以外に方法は無い。何がストレスになるかはそのカラス次第である。
カラスの換羽 ←詳細
カラスを飼うとカラスが寄ってくる?
昔から「カラスを飼うと近所のカラスが集まってくる」という話があるが、その通りである。その場所が他のカラスの縄張りだった場合、窓越しに部屋の中にカラスを見つけると、周囲のカラスが集合し騒がしくなる。屋外の鳥小屋で飼育しているなら尚更である。これは彼らの本能からの行動であり抑止する方法は無い。威嚇して追い払うことも避けた方が良い。事態が悪化する可能性があるからだ。数日間は煩いのを我慢し、外のカラスたちが興味を失うのを待つしかない。しばらくすると妥協して「目障りだが害は無い存在」として受け入れられるはずだ。それにはある程度の日数が必要である。
鳥類全般に言えることだがヒナから飼育すると人に良く懐く。さらにカラスの場合、ある程度は人間の指図を理解できるため犬と同様に躾が可能である。
躾をするときには注意が必要で、叱る際に大声で怒鳴ってはいけない。あたりまえだが体罰は論外である。どんな駄ガラスだったとしても褒めて育てるのがベストである。
成鳥の躾は難しい
成鳥のカラスを保護して飼い始めた場合、躾は難しい。野生のカラスは本来、非常に警戒心が強く高い自尊心を持っているからだ。そのため人に馴れていないカラスの場合、人間との過度な接触は非常にストレスになる。カラスをよく観察し、ストレスのサインを見逃さないようにしよう。
「ケガをした子ガラスを保護したから自宅で治療し、元気になったら放鳥しよう。」 カラスの巣立ちの季節によく聞く話である。だが、放鳥には注意が必要だ。成鳥を保護した場合は、飛べるようになったら元の場所に返せばよいのだが、問題は子ガラスである。人間の手で育てられたカラスは、カラス界の常識やルールを知らないため、野生のカラスとコミュニケーションを取ることが難しい。周囲のカラスの群れに快く受け入れられることはほとんど無く、また、自力で食べ物を確保することも困難である。さらに、放鳥した場所が他のカラスの縄張りだった場合、侵入者として猛攻撃を受け追い出されるか、最悪の場合はケガをして死に至る。これでは何のために保護して治療したのか分からない。
飛べるようになったからといって、安易に放鳥するべきではない。 放鳥するならカラスとしての基本的な姿勢を学ばせ、さらに周囲のカラスの縄張りにも気を遣う必要がある。
放鳥できる条件とタイミング
放鳥できる条件は「飛翔力が備わっている」「自力で昆虫などを捕まえることができる」「自立心がある」。この三つが備わっていることに加えて、放鳥できる場所があれば問題はないだろう。自立心は意外に重要であり、これが欠落している状態で野に放つのは、ペットを遺棄することに等しい行為である。
放鳥する季節は夏から初秋にかけてが最も良いと考えられる。これは多くのカラスが独立する季節であるため仲間を作りやすいことと、昆虫や果実などのエサが豊富であるためだ。逆に冬に放鳥した場合はエサに乏しいため、非常に厳しい状況になるだろう。また、冬に室内飼育していたカラスを突然野外に放つと温度変化に対応できない可能性がある。
寄生虫など
野生のカラスを保護した場合、腸内に様々な寄生虫を持っている可能性がある。条虫や回虫はその種類を同定したうえで駆虫することが望ましい。腸にはコクシジウムなどの原虫も共生しているが、これは健康であればそれほど神経質になる必要はない。しかし室内で他に鳥を飼っている場合は感染する恐れがあるので、完全に駆虫する必要がある。その他、羽毛にはハジラミやダニがいることがある。
病気やケガ
成鳥のカラスが病気になることは少ないが、傷病救護したカラスは注意が必要である。保護した時点で栄養不足の可能性があり体力を消耗していることが多いのだ。そのような状態では病原体に対する抵抗力が弱く、適切な処置をしなければ短期間で死に至ることがある。
ケガについては、ポタポタと血が出たくらいなら放置しても問題ない。たいていの場合は病院に着く前には自然に止血しているだろう。ただし、骨折した場合は可能な限り早く治療する必要がある。
動物病院について
ケガをしたカラスを動物病院に連れて行っても「野鳥は診察しない」「カラスは害鳥だからダメ」と言われて断られるケースが多い。診察を拒否する理由に多いのは「カラスの飼育を禁止だと誤解している」「野生動物はどんな病原体を持っているかわからない」などの理由もあるが、最も多い理由は「そもそも鳥類に対する治療技術がない」ということだろう。なぜなら、獣医学部において鳥類の診察についての教育がほとんどされていないためだ。
鳥類の治療を得意とする動物病院においてもカラスの診察を拒否されることがあるが、これには正当な理由がある。それは、獣医師法で定められた診療対象の動物種にカラス科の鳥は含まれないからだ。つまり獣医師としての診療の義務を果たす必要がないのである。
犬猫専門の動物病院でも親切な獣医師であればカラスの診察をしてくれることもある。しかし緊急時以外にはあまりお勧めできない。鳥類の診察及び治療は他の哺乳類に比べ難易度が高く、体の構造も異なるためだ。
診察してくれる動物病院が見つからない場合は、自分で治療を行うしかない。人間相手の治療と違い、飼育下のペットを自分で治療する行為は合法である。さらにカラスは獣医師法の対象外であるため、他人が飼育しているカラスの治療を獣医師以外が請負う行為も合法となる。
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2018年5月22日 リンクを追加 カラスとペットフード
2017年8月27日 公開 旧カラスの飼育法はこちら