車に揺られるピエール。
草むしり要員としてヤギを導入したものの、
草むしりどころではない事態となったのは前回の話。
前回のブログ
ピエールは牧場にお帰りいただくことになったのだ。
駐車場に到着すると、ピエールはいそいそと牧場に向かって歩き始めた。 やはり、たくさんの仲間がいる賑やかな場所が好きなのだろう。
ヤギを係留して飼うには子ヤギのうちから慣らす必要があるということだ。 これに懲りない私は牧場のスタッフに「子ヤギはいないですか?」と尋ねてみる。
するとスタッフは、
「今年はねー、もう子ヤギは残ってないよ。」と言う。
「じゃあ、あれはいったい何です?」と尋ねると、 まるで忘れていたかのように、
「あぁ、あれ? そういえば貰い手が決まってないね・・・。」
今年生まれた子ヤギは全てもらわれていったそうだが、 一頭だけ残っていたのだ。 なぜ、この子ヤギは最後まで残っているのか気になり尋ねてみるが、曖昧な答えだった。
少し不安になるが選択肢がこれしかないので仕方ない。
「ピエールのように大きくなったら困るのですが?」と、尋ねたところ、
「母親が小柄だから大きくなることはないよ。」とのことだ。
心配なのでもう一度聞きなおすと、
「あんなにデカくはならないはずだよ。たぶん・・・、おそらく・・・。」
要するに最終形態は保証できないということだろう。
ピエールに別れを告げた私は結局、この子ヤギを連れ帰ることにした。
今年生まれた、去勢済みの雄ヤギだ。
懲りもせずにヤギ生活の再スタートである。
子ヤギといってもすでに中型犬以上のサイズである。 しかし巨体のピエールと対峙してきた私にとって、こんなのはハムスターみたいなものだ。
名前は「モンジロウ」と呼ぶことにした。
連れ帰ったモンジロウを野良猫たちが興味深そうに見に来る。
まだ子ヤギなので、猫たちから警戒されていないのだろう。
モンジロウも猫に興味があるようだ。
前回作ったヤギ小屋はピエールに破壊されたので、別の小屋を作ることにした。
今度はタイヤがついた移動式の小屋にしよう。
床にはヒノキの板をはった。 ヒノキには防虫、防カビの効果があり耐久性も高いのだ。
完成。
ヤギが巨体になった場合はこれでは狭いが、 その時はまた作り直そう。
なんだか猫たちが嬉しそうだが、お前らの家ではない。
さっそく運用開始。
庭の適当な位置に杭を打ち込み、そこから伸ばしたロープを小屋に結びつける。 こうすることで、係留場所を移動すると同時に寝床も移動できるのだ。 急な雨にも対応でき、夜にヤギを小屋に戻す必要もなくなる。
移動式カラス小屋のノウハウを応用したアイデアである。 係留してヤギを飼うなら、最終的に行き着く理想のスタイルではないだろうか。
モンジロウはまだ甘えたい盛りだ。
ピエールにもこんな時期があったんだろうな…。
時々、ピエールのことを思い出す。
早くも近所の人気者となったモンジロウ。
訪れる人たちは皆、モンジロウの大好物のニンジンを手渡しで与える。
まるでふれあい動物園みたいだ。
しかし、
この状況をクチバシを噛みしめながら見つめる者が・・・。
「・・・。」
怨念のこもった視線を送る黒い影。
人気者の座を新入りの草食動物に奪われる・・・。
アディは私の手からニンジンを奪い取った。
ニンジンなんて普段は絶対に食べないのだが…。
ニンジンをザクザクと切り刻む姿からは怨念を感じる。
一方、バン君は特に気にしていない。
「べつにかまわんよ」
と、いうことらしい。
ピエールはリードを持って連れて歩くことができなかった。 だが係留で飼うにはそれでは困るから、モンジロウをリードに慣れさせるために散歩に出かける。
モンジロウのお気に入りは近所の公園。
公園に向かうときはリードをぐいぐいと引っ張り先導する。
いいぞ、これなら犬の散歩と同じだ。
しかし
帰りは足が重い。
公園で子供たちと遊んだのが楽しかったのか、 なかなか帰ろうとしない。
引きずるように連れ帰ろうとするも、駄々をこねアスファルトの上に座り込む。
座り込みといえばピエールの得意技だったが、今の私にとってモンジロウの体重などハムスターも同然だ。
抱きかかえて連れ帰る。
だがモンジロウが巨体にならないことを祈らずにはいられない。
子犬のようにかわいいモンジロウだが、ヤギを飼う目的はペットとしてではない。 あくまで草むしり要員である。 しかしそれについてはまったく心配はいらなかった。
ものすごい食欲で庭の雑草を食べている。 草の好き嫌いはないようだが、スイセンなどの毒草は避けているところが優秀だ。
体格を考えると期待以上だ。まさに全自動草刈り機。
ピエールのときにはなかった、ほのぼのとした風景。
モンジロウのこれからの活躍が楽しみだ。
2019年4月14日公開