7月中旬から続く猛暑。
外のカラスたちも何だかいつもと様子が違う。 猛暑が始まったあたりからハシボソの家族がエサ台に来なくなったのだ。
いや、正確にいうとハシボソの夫婦は来ないのだが、子ガラスは毎日来ている。
なぜハシボソ夫婦は来なくなったのか? 周辺で鳴き声は聞こえるので近くにいるのは間違いないのだが、 我が家の庭には全く来ない。
これが最後に我が家に来た時のハシボソ夫婦の姿だ。 7月22日のことである。
この時も彼らの好物の卵黄をエサ台に置いたのだが、 何かを警戒している様子でまったくエサ台に来ない。
まあ、今は夏だし昆虫などの食料も豊富だ。 エサ台に頼らなくても平気なのだろう。
それに、エサ台に来なくなるのはよくあることだ。
直近では昨年末に二週間以上、姿を見なかったことがある。 その時は縄張り争いが原因だった。
だが子ガラスだけは頻繁に来る。
定点カメラの画像を確認すると、一日に三回はエサ台に来るのだ。
エサ台に何も無くてもとりあえず来る。
エサ台の巡回が彼の日課になっているようだ。
もう、両親と行動を共にしていないのか?
この日の子ガラスは羽毛がフンで汚れている。
これはおそらく、就寝時に上の枝にいるカラスから落ちてきたものだろう。
つまり、この子ガラスは寝るときはまだ親鳥と一緒だと推測できる。
カラスが減ると、増えるのがスズメ。
彼らも子育て中だ
最近の定点カメラに写っているのはほとんどスズメ。
スズメたちは何か勘違いしているようで、 私が庭に出ると家族そろって集まって来るようになった。
「私はお前らにエサを与えているのではない…。」
ハシボソ夫婦が来なくなってから三週間が過ぎた。
もう彼らは縄張りを移してしまったのか?
そうだとすると残念なことだ。
来なくなった原因はいったいなんだろう?
何か手がかりがないかと私は観察記録をたどる。
すると、そこにはあったのだ。ハシボソ夫婦が来なくなった決定的な原因が。
コレだ ↓
そう、猛暑が始まった折に設置した扇風機である。 ハシボソ夫婦が来なくなったタイミングと、 扇風機を設置した日がピッタリ一致していた。
これがグルグルと回転しながら不気味に首を左右に振る姿に恐れをなしたのだろう。
カラスは動体視力が人間よりも数段良い。 だから高速で回る扇風機の羽がギラギラと、まるで凶器のように見えていたのだろう。
それは子ガラスも同じはずだが、子ガラスは新しいものを恐れないのだ。
8月17日
一ヵ月も続いた猛暑だったが、 この日の朝は急転直下に気温が下がり秋のような涼しさとなった。 するとカラスたちも活発になるのだが、そのような時は決まって縄張り争いが始まるのだ。
ハシボソ夫婦と、街の方から来た他所のハシボソガラスが喧嘩を始めた。
合計6,7羽で集団になっているが、それぞれ鳴き声が特徴的であるため個体の識別は可能だ。 その中には子ガラスの姿もある。
喧嘩といっても激しいものではなく互いに威嚇しているだけだ。
カラスの喧嘩は大まかに分けて三段階ある。
レベル1: 空中で相手を追いかけて鳴き声で威嚇する。
レベル2: 空中で相手に接近して足を伸ばして攻撃する。
レベル3: 空中で掴み合いになりそのまま落下して地上で寝技に持ち込む。
レベル3は猛禽類の狩りの仕方と似ているがカラスの場合は通常、とどめを刺すまでには至らない。
その前に、たいていの場合はレベル1か2で収まる。
気性の荒い動物だと思うかもしれないが、人間同士の喧嘩でも似たようなものだ。
余談だが、最近の人間社会ではあまりレベル3に相当する殴り合いの喧嘩を見なくなった。 それは人間として成熟した結果なのか、はたまた生存本能が衰えたのか? どちらにしても感情を表に出す人が減ったようで、レベル1すら見なくなった。 街中でキレているのはたいてい古いタイプのオジサンだ。 だが、相手に対して心の底で感じていることは皆似たようなものだろう。
電柱に止まるのはハシボソ夫婦と、それに対峙するよそ者だ。 よそ者が図々しくお父さんの隣に迫っている。
ところで、子ガラスが争いに参加していることを意外に思うかもしれないが、 成長した子ガラスが縄張り争いに加わることは珍しいことではない。 これも勉強なのだろう。
このよそ者が、ちょっと変わり者なのだ。
何度も威嚇されては立ち退くのだが・・・、
すぐに戻ってきては、ふざけた態度で近寄ってくる。
カラスの縄張り争いにはいくつかの方法がある。 力技で攻めることもあるし、今回のようにジリジリと浸食してくることもあるのだ。
ハシボソのお父さんが空中から激しく威嚇する。
派手に羽毛が舞うがこれは接触した結果ではなく、 単に今が換羽期で羽毛が抜けやすいだけである。
この喧嘩は3日間続いたが、ある出来事がきっかけで終息する。
8月18日の夜。
真夜中にもかかわらず森にハシボソのお父さんの声が響く。 そしてその声が特定の木の周囲を行き来しているのだ。 どうやら、付近の木で眠るよそ者のカラスをけん制しているようだ。
以前からハシボソのお父さんが夜に鳴くことがあったが、 そのような時は決まって縄張り争いの時期である。
ハシボソのお父さんにとっては長年暮らしてきた地元であるため、 森の木々の配置も全て頭に入っている。 だから暗闇ではよそ者に対して圧倒的に優位だと考えられる。
この夜間の威嚇行動は効果てきめんのようで、 次の朝にはよそ者のカラスのいなくなっていた。
8月19日早朝。
エサ台にいるのはハシボソのお母さんだ。昨日まであれほど警戒していたのに、 何事も無かったかのようにエサ台に戻ってきた。 久しぶりに見るハシボソのお母さんは換羽でハゲまだらになっていた。
ハシボソ夫婦は縄張り争いの最中はエサ台に来なくなるが、 争いに勝利するとその翌朝には必ず来るのだ。
来なくなった直接の原因は扇風機にあることは間違いないが、 戦いの勝利によって気が大きくなり、それも気にならなくなったようだ。 実に不思議な心境の変化だが、彼らの立場で考えれば理解できなくもない。
すぐにお父さんと子ガラスもやって来た。
右がお父さんだ。
実に1ヵ月ぶりにそろった親子三羽である。
しばらくの間、エサ台を独占していた子ガラスだったが、今は両親を前にして遠慮している。
そしてお決まりのカメラ目線。
久しぶりに見るおねだりのポーズだ。
もう自力でエサを取れるようになったはずだが?
甘えているのだろう。
結局、自分で食べる。
森に帰っていくカラスの親子。
暑い夏も、もうすぐ終わりだ。
2018年8月19日公開