カラスは鳥としては大型の部類であり、 その大きさの割に体重は軽く軽快な飛行を可能にしている。 攻撃力と機動性を両立させたきわめてバランスの良い鳥といえる。
そんなカラスたちに天敵は存在するのだろうか。 都市部においては人間が彼らにとって最も脅威であるが、 自然界では一部の猛禽類に限られるだろう。
猛禽類といっても様々なので、 その中でカラスの天敵となりうる鳥を見ていこう。
日本人にとって最も身近な猛禽類といえばトビ。海沿いの町には必ずいる。
「ピー ヒョロロロ・・・」と、きれいな声で鳴く鳥である。 端正な顔立ちに美声をも兼ね備え、 しかも体格はハシブトガラスよりも明らかに大型で、見るからに強そうだ。
その勇ましい姿からは「狩りの名手」を想像させる。 しかし実態は期待を大きく裏切るものである。 浜辺の漂着物を漁ったり、 時にはカラスと一緒になってゴミ捨て場を荒らす姿が目撃される。 果ては人間からエサをもらう有様だ。
「イケメンだけど中身がダメ」といったところだ。
トビのいるところにはたいていカラスもいるが、彼らは仲が良いわけではない。 むしろライバルであり、時にはカラスとケンカをすることもある。
トビは気流をつかみ滑空するのが得意であるが、 小回りがきかないためか空中でカラスにからまれる姿をよく見かける。
カラスの天敵とはなり得えないが競合関係ではある。
次にハイタカ(画像上)。
サイズはハシボソガラスよりも小型であるが、 カラスたちはこの鳥に対して異常なほどの警戒心を見せる。
ハイタカが飛来すると森のカラスたちは一斉に迎撃のために飛びかかる。
そして時に1対1の空中戦になるのだが、 その様相は狩りというより、もはや単なるケンカである。 この画像はハシブトガラスとハイタカの空中戦の様子である。 両者一歩も引かず、30分間にわたる無駄な争いを展開したのであった。
本来は飛行能力で優位なはずのハイタカだが、 空中戦を見る限りハイタカとカラスは互角である。 カラスの低速アクロバット飛行にすっかり乗せられているのだ。 それにハイタカはカラスよりも一回りも小さい。 よって、ハイタカが積極的にカラスを狙うことはないだろう。 しかしカラスがこれほどまでに執念を燃やしハイタカを追い払う姿をみると、 おそらく過去に巣立ちのヒナなど弱い仲間を狩られた経験があるのだろう。 ハイタカは天敵というよりも因縁の相手といったところだ。
続いてオオタカ。
白いゼブラ模様のお腹に、ねずみ色の背中が特徴である。
「オオタカ」という名前からは巨大な鳥を想像するが、 実際はハシブトガラスと同等のサイズである。
こうして木にとまり周囲を見渡す。
右に左に首を振り静かに獲物を探しているのだ。
この画像の中央にオオタカがとまっているのだが、意外に見つけにくい。 この時は冬で落葉しているからまだ見つけられるが、 夏季、森に潜むオオタカを探すのは至難の技である。
こうして身を潜め、射程圏内に獲物が来るのをじっと待つのだ。 典型的な待ち伏せ型の狩りである。
今、右下にいる水鳥に狙いを定めたところだ。
獲物を見つけると一瞬、緊張したそぶりを見せる。
そして、それと同時に脱糞する。
心の準備を整え・・・、
獲物めがけて急降下!
オオタカに狙われたら逃げられないようなイメージがあるが、 意外にも狩りは失敗に終わることの方が多い。
その際は獲物を深追いせず、再び木に戻って次の獲物を待つのだ。
調子の悪い日は朝から狩りを始めて、夕方まで続けていることもある。 この日も15時を過ぎても獲物を捕らえられず、焦りと疲れが見受けられる。 だんだん動きが雑になってくるのだ。
オオタカの狩りは体力を消耗するのか、 狙う相手を厳選している。 そのため積極的にカラスを狙うことは少ない。
逆に、この写真のようにカラスがオオタカを追い回す姿を頻繁に見かける。
カラスを狙っても逃げられる可能性が高いことに加え、 反撃に遭うこともあるのだ。
しかし、時にはカラスを襲うこともある。
画像の左下に、カラス小屋に遊びに来たハシボソガラスの夫婦がいる。
カラスたちはすっかり油断しているように見えるが…。
すると突然、カラスが警戒音を発しながら飛び立つ。
森の中から突如現れたのはオオタカだ。
茂みに隠れて狙っていたようだ。
オオタカの加速力はすごい。
一つ前の画像からオオタカが右端に消えるまでのタイムを計測したところ、 わずか1.2秒だった。
(*改定前は3秒となっているが計測する起点が異なる)
だが、カラスも本気を出すと意外と速いということが分かる。
それよりも、カラスの反射神経はたいしたものだ。 反応速度が人間とは桁違いである。
しかも、遊んでいるときにも周囲への警戒は欠かさないのだ。
定点カメラの視野から外れ、その後どうやって振り切ったのか分からないが、 カラスだけが戻ってきた。
興奮しているようでエサ台の上で絶叫している。
このように、ベテランのカラスがオオタカに捕食されることは少ないのである。
弱ったカラスや、若く経験の浅い幼鳥が狙われるのだろう。
いずれにしてもオオタカはカラスにとって手強い天敵といえる。
いたるところで繰り広げられるカラス同士のケンカ。 彼らの縄張り意識は非常に強く、 仲間を引き連れて他のグループと乱闘になることもある。
混戦状態になると、どのような原因でどの派閥と争っているのか、 じっくり観察していても分からなくなる。
ケンカは時に数日間に及ぶこともある。 人間には理解できないカラス同士の深い確執があるのだろう。
しかし、そこで致命傷になるようなケガを負うことは少なく、 どちらかが身を引いて争いは幕を閉じる。
日頃の勢力争いの相手は主に同種のカラスであり、 カラスが最も警戒する相手はオオタカよりも隣の縄張りのカラスだろう。
カラスの敵はカラスであるともいえる。
2019年1月20日 2019年改訂版を公開 改訂前の記事はこちら
2016年12月3日公開