秋の陽ざしが低く差し込む午前。
カラス小屋の屋根に何か黒い物体が。
何だあれは?
「えっ!? カラスが死んでる!?」
よく見るとそれは日光浴中のハシボソのお母さんだった。
屋根の上にベッタリと座り込み両翼を広げている。
太陽に熱せられた屋根で体を温めているらしい。
先月の長雨のせいでダニが増えてきたのかな?
あ、立ち上がって歩き始めた。
今度は屋根の鉄板の部分に座り込んだ。
さらに熱い所を求めているのだろう。
両手を広げ背筋を反らした。
あっ! こ、これは・・・。
「出たっ! イナバウアー!」
「イナバウアー」を知らない人は画像検索すると同じポーズの荒川静香選手が見つかるはずだ。フィギアスケートの技であるが、凡人には習得不可能な奥義である。かつてのオリンピックにおいて荒川静香選手が起死回生の必殺技として放ったのだ。それをテレビで見て感化された人々が真似して腰を痛めたものだ。だから凡人には無理なのである.
あ、元に戻った・・・。
昨年末から半年以上も姿を見せなかったハシボソのお母さんだが、最近は頻繁に来るようになった。なぜ来なかったのか不思議だったが、おそらく夫婦で縄張りの守備範囲が変化するのだろう。
エサ台に置いたのは残り物の豆腐だ。ちょっと多すぎるのかな?
口からこぼれ出そうだ。どうやら一度に食べきれそうにない。
「ここに隠すかな・・・。」
「いや、ここはあのドラ息子に気付かれる。」
「この茂みの中に隠そうかな。」
周りを確認して中に入って行った。
「貯食完了」
翌日
エサ台にはすでにドラ息子が来て独り占めを狙っている。早朝のエサ台は早い者勝ちの状態であり、そこに親子の序列はない。
「そうはさせるか!」と、お母さんは掴みかかる。
毎朝、繰り広げられる親子のせめぎあいである。
残らず朝食を取られてしまった。
「仕方ない、水でも飲むか・・・。」
「ゴキュー、ゴキュー、」
「あっ! 思い出した。」
「昨日の豆腐があるじゃん♪」
「この中に隠しておいたのよ、昨日。」
茂みの中に入って行った・・・。
果たして豆腐は残っているのか?
「あった ♪」
あのドラ息子をいかにして追い出すか。それがお母さんの悩みである。
2021年10月10日 公開