9月2日。「今度の台風は伊勢湾台風並み」
大型台風の接近を知らせるニュースがテレビから流れていた。 天気図をみると確かに今回の台風はヤバそうだ。
そして台風を迎える9月4日朝。
大型台風が来るとは思えないほどの静けさだ。
ハシボソ夫婦はいつものようにエサ台に来ている。
我々は天気予報で正確な台風の進路を知るが、 カラスたちはどうだろうか?
おそらく風向きと気圧の変化である程度の状況を理解するとは思うが。
次第に風が強くなる
午前11時。
森の木々が右に左に大きく揺れる。
そんな強風のなか、子ガラスがやって来た。
後ろの木々はブンブンと大きく揺れている。
コイツはいったい何を考えているのか。
外を飛んでいる鳥はすでに自分だけだと気が付いてほしい。
午後14時 暴風はMAXに到達。
家の雨戸を閉めるが外からの轟音が響く。
二階の窓から外を見ていたその時、何と! 最大級の突風が吹く中、一羽のカラスが南から飛んで来るではないか。 いや、正確にいうと飛んでいるというよりも吹き飛ばされている。 そして我が家の屋根を超えて北東の方角に飛ばされていった。
私は何となく、ハシボソの子ガラスではないかという予感がした。
そして暴風域が過ぎた後、恐る恐る定点カメラの記録を見てみる。
9月4日14時の定点カメラの画像。
画像では分かりにくいが台風の風がピークとなり、 外出が危険なほどの暴風である。
だがエサ台には子ガラスの姿が…。
なぜ今ここに?
羽毛がめくり上がるほどの暴風だが。
今回の台風は、数十秒の周期で暴風のやみ間があったので、 その間に移動していたようだ。
そしてこの画像の後、森に戻る途中で暴風に巻き込まれたのだろう。
彼はいったいどうなったのか?
そして翌日
倒れた庭木が暴風の凄まじさを物語る。
我が家は森に囲まれているため風に強いが、 唯一の弱点は南西の風である。
左のクスノキは南西の風の矢面に立っていたが、 何とか持ちこたえた。
しかし、ちょっと傾いたような気がする。
同じく南西の風の直撃を受けたカラス小屋だったが、 びくともせず持ちこたえた。
この小屋は風の抜け具合を考慮した造りになっているのだ。
エサ台とパーゴラも無事。
ハシボソの夫婦も無事だ。経験豊富な彼らはこのくらいの暴風雨も馴れたものである。
だがしかし、そこに子ガラスの姿はない。 定点カメラをチェックしてみるのだが、あの暴風雨の最中の画像が最後である。
やはり暴風に巻き込まれたのだろうか。
それから五日後
9月9日14時。
「おっ! 子ガラスが戻って来たではないか!」
ケガもなく無事のようだ。
あれ以来、5日間も定点カメラに映っていなかったが、 どこでどうしていたのか? もしかすると台風の突風で遠く北の方角へ飛ばされていき、 そこから数日かけて戻ってきたのかもしれない。 真相は全く不明である。
台風の季節になると、鳥が暴風に巻き込まれて迷鳥になることもある。 だが街のカラスが迷鳥になったのは聞いたことがない。
いずれにしても、彼はバカだけど屈強ということは確かだ。
子ガラスがお父さんに何か話しかけている。
だがしかし、エサをねだる仕草をしなくなっていた。
これは独り立ちが近いということだ。
暴風で飛ばされながらも生き残る強運と体力の持ち主。
まだ口の中は赤いが、近い将来、強くて立派なカラスになるだろう。
2018年9月16日公開