夏が終わった・・・。
今年もまた、夏らしいことを何もせずに過ごした。
あんなに騒々しかった蝉の声も今は懐かしく、 過ぎ去った夏を想う。
だが、実際の夏の日々はその暑さにバテて、 夏を肌で味わうことなど望みもしないのだ。
そう、夏のイメージは都合よく美化されるのである。
そして何もしなかった夏の日々を取り戻そうと、むやみに焦るこの季節。
すでに秋の気配が漂う高原に、カラスの観察に向かう。
ここは奥三河では最も標高の高い茶臼山の山頂付近。標高は1400メートル。
人里離れたこの山奥は、ハシブトガラスの本来の姿を見ることができる。
待つこと30分。カラスの声は聞こえるのだが一向に姿を見せない。 街中とは縄張りの広さが桁違いであり、カラスの生息密度が極めて低いのだ。
ここでカラスを観察するのは非常に難しい。 せっかくここまで来たのだが、もう少し標高の低いところを探すことにする。
山の頂上から少し降りたところに川の水源がある。
積み上げた岩の間に竹筒がさしてあり、そこからチョロチョロと水が湧き出ている。
さらに山を下る。
かすかに聞こえる川のせせらぎ。
さっきの水源から流れてくる川だ。 川幅はまだ1メートルもない。
この辺はさびれた観光地である。
車が数台停められる公園のような場所があるが、 人が訪れた痕跡も無い。
荒れ放題の公園の奥にあるのは東屋。
そして車を走らせ、麓へと向かう。
やがて川は立派な渓流となる。
そして川はダムによりせき止められ、豊かな水をたたえる湖となる。
ここは下流域の広大な地域に水を供給する重要なダムである。
土手側に目をやると、動物らしきものの影が見える。
ウサギかな?
ニワトリだ。
ニワトリと言っても養鶏場にいる白いヤツではない。
名古屋コーチンという高級種だ。
肉も旨いし卵も旨い。
柵も無く自由に歩いているが、もちろん野良ではなく近所の住人が飼っているのだろう。
ブロイラーのニワトリと違い、完全に自由な彼ら。
二羽で仲良くウォーキングしているが、
これらは夫婦ではなく両方とも雌である。
名古屋コーチンは雌雄まったく異なる形態をしており、
雄はトサカが大きく、尾羽は煌びやかなドレスのようであり、
一見して分かるド派手なスタイルなのだ。
雌はこのように普通の姿をしている。
再び湖畔を歩いていくと、打ち捨てられたプレジャーボートがある。 船のデザインから、80年代以前のものだろう。
錆びつき放置された鉄パイプ。
平穏そうに見えるこのダム湖だが、実は深刻な問題を抱えている。 近年の豪雨により上流から流れてきた土砂が湖底に堆積し、 このまま放置するとダムとしての機能が半減してしまうのだ。
そこで20年ほど前から湖底の土砂を取り除く作業が進められ、 湖畔にはこうして作業場が用意された。
ダラダラと続く退屈で終わりのない公共工事。
予算が厳しいのか、トラックや重機、ボートに至るまで20年前の物をそのまま使用している。 まるで東南アジアの工事現場のようだ。 とても稼働中の現場とは思えない哀愁が漂う。
そして奥矢作湖を一望できる高台に到着。
ここは愛知県の東の山中にある奥矢作湖。
この辺りの山中にはハシブトガラスの縄張りが点在している。 都会のカラスとは違い彼らの縄張りは広大であり、カラス本来の姿を見ることができる。
さっそく、ハシブトガラスの声が聞こえてくる。
4羽のカラスが空を舞う。この日、ようやく間近で見ることができた。
子ガラスの声も混じっているので、おそらく家族だろう。
カラスは街中では人間の次に多い身近な動物だが、深い山の中では意外と少ない。 食物連鎖のなかで適切な個体数を保っているのだ。
上空を行ったり来たりして喧嘩をしているように見えるが、 警戒音を発していないことと、 飛行速度が遅いことから本気の喧嘩ではない。
子ガラスを交えて飛行訓練、というよりも遊んでいると言った方が適切だ。
後ろを飛んでいるのが子ガラス。
軽く流しながらのドッグファイト。
追いつき、追い越され・・・。
後ろからもう一羽も合流。
上のカラスがふざけて羽をぶつけたおかげで、下のカラスはバランスを崩した。
おそらくこの二羽は今年生まれの子ガラスだ。 鳴き声がまだ幼く、互いにジャレ合うように飛んでいる。
本当の喧嘩の場合、この状態で足蹴りの攻撃に移る。
子ガラスらしく非常にきれいなシルエットだ。
子ガラスは羽の黒色がやや薄く、 太陽に透かすとこのように灰色に見える。
この山奥に暮らすカラスたちは、都会で人間に依存するカラスたちとは違う。 太古の昔から脈々と続くハシブトガラス本来の姿である。
2017年10月3日公開