カラス保護の統計 2020年5月版

当サイトには普段からカラス保護の相談が多く寄せられている。巣立ちに失敗したヒナだったり交通事故で重傷を負うなど事情は様々だ。そこで今回は2017年4月から2020年5月までの3年間に寄せられた保護情報の中から有効な70件のサンプルを用いて、保護当時の状況を調べることにした。

保護されたカラスの年齢

まず最初に保護されたカラスの年齢を調べてみると、下のグラフのように巣立ち直後のまだ飛べない幼鳥が多いことが分かる。

グラフ1

「まだ飛べない幼鳥」とはこの場合、飛べるまでに成長していない状態のことであり、「飛べる幼鳥」とは、巣立ちして飛べるようになった幼鳥のことを指す。 これらを合わせると、保護されたカラスの実に90%近くが巣立ち前後の幼鳥であることが分かる。 そのような幼鳥は本来ならば死ぬ運命にあることから、カラスの子育ては成功率が低いことがうかがえる。 逆に成鳥のカラスが保護されることは少ないため、幼鳥期を乗り越えたカラスはその後、事故にあうこともなく安定した生活を送っていると推測できる。

*保護される成鳥のカラスは飼育されていたと思われる個体が多い。


なぜ、幼鳥の保護が多いのか?

その理由はカラスの巣立ちの様子を観察することで理解できる。 それでは、代表的な二つの巣立ちの例を見てみよう。

カラス

これは高さ30メートルほどの送電鉄塔に作られた巣から、まさに巣立ちする瞬間を捉えた写真である。 この幼鳥はフラフラしながらも遠方まで自力で飛んでいった。

このような高所に営巣した場合、ヒナの成長を待ち飛べるようになってから巣立ちをする傾向があるのだ。 こうして余裕をもって巣立ちをした幼鳥は、その後の生存率も高いと考えられる。


だが逆に、低い位置や周囲に木が生い茂っているところに営巣した場合、飛べない状態でも巣立ちを急いでしまうのだ。

カラス

この幼鳥は風切羽がまだ完全に成長しておらず、ほとんど飛べない状態である。 しかし、巣の位置が低い分だけ恐怖心も少ないのか「早すぎる一歩」を踏み出してしまうのだ。 こうして巣立ちを急いだ幼鳥には様々な試練が待ち受けている。


保護が必要となった原因

グラフ1

保護が必要となったその原因を調べてみると、最も多いのが「交通事故」である。 街中で子育てをするカラスにとっては車との接触が最大の脅威となるのだ。 続いて親鳥からの「育雛(いくすう)放棄」が多い。 ここでいう「育雛放棄」とは、巣立ち後にいつまでも飛び立たない我が子を親鳥が見捨てることである。 もう一つの育雛放棄のケースは、ヒナに発育の見込みが無いと判断されると親鳥によって巣から放り出されることである。

「原因不明」が多くあるが、この中にも交通事故と育雛放棄が相当数含まれるものと考えられる。


保護されたカラスにみられる症状

グラフ1

保護されたときのカラスはどんな様子だったのかを調べてみると、「衰弱」が最も多い。 この場合の「衰弱」とは、目立った外傷が無いものの衰弱している状態のことを指す。 続いて多いのが脚や翼の骨折である。骨折した原因は巣からの落下も考えられるが、それよりも車との接触の方が多いと推測している。 「脳振とう」や「神経系の麻痺」もやはり物理的な衝撃を受けた結果であり、これらも交通事故が原因である可能性が高い。

そして次に多いのが「クル病」である。


カラスの幼鳥に多発する骨の形成不良「クル病」

保護された幼鳥にクル病の症状が見られることが多い。 クル病とは、成長期の栄養不足により骨の形成がうまくいかず関節部分が変形したりする病気である。 その場合は骨が脆くなっているので骨折もしやすくなる。 鳥類のヒナは骨と周辺組織の成長速度が著しく速く、さらにカラスは大型であるため成長に必要な栄養の要求量も多い。そのためヒナの時期に栄養が不足すると高い確率でクル病を発症するのである。

クル病のカラス

このハシボソガラスの幼鳥は右足にクル病を発症し関節が変形している。 骨折しているように見えるが骨は折れていない。 右足の握力はほとんど無い状態であるが、動く方の左足で体を支えている。 右足以外に症状は見られず比較的軽度であるが、これが両足に症状が出ると立ち上がることができなくなる。


脚の関節が外れる「ペローシス」

ペローシスのカラス

この画像の幼鳥のように、大腿骨の付け根の腱が外れ脱臼したような状態となる。 幼鳥期なら両足をバンドで止めるか簡易なギプスのようなもので固定すれば、症状の改善は期待できる。 しかし成鳥になってからでは手術が必要となる。


頭部(脳)や脊髄の損傷による中枢神経の麻痺

関節の変形や固着もなく骨折もしていないのに動かすことができない場合、神経麻痺の可能性が高い。 例えば左側の翼と脚が動かない場合や、両足が動かないなどの症状は中枢神経の麻痺が疑わしい。 巣から落下したり交通事故にあった際に、打ちどころが悪いと脊髄を損傷し麻痺が残ることがあるのだ。 事故以外にも、重度のクル病では脊椎骨にも症状が出る場合がある。 脆くなった脊椎骨が脱臼や骨折などでズレることがあり、その際に神経を圧迫し麻痺を生じるのである。


保護されたカラスたちのその後

さて、こうして保護されたカラスたちはその後どうなっているのか? 病気を抱えていたり極度に衰弱した状態で保護されるカラスたちだが、実はその多くが助かっている。 瀕死の状態から息を吹き返し、凄まじい回復力を見せてくれるのだ。

グラフ1

しかし、放鳥できる事例は意外に少ない。 回復しても飛べるようになるとは限らないためだ。 さらに言うと、たとえ飛べるようになったからといって放鳥できるとは限らないのだ。 カラスは感情豊かな動物であるため、幼鳥のころから自分を育ててくれた人間を親と認識し、とてもよく馴れる。 これではとても放鳥などできない。

保護した野鳥は放鳥するのが理想的であるのは確かだ。 しかし放鳥するにはカラスへの教育が必須となる。自然界で生きていくための教育だ。 しかし保護した人は、ケガをした幼鳥を苦労して治療し育てている。 そんな状況でさらに自然界への復帰のための教育を施すなど、保護した人にそこまで求めるのは酷なことである。


ハシボソとハシブト 保護されるのはどちらが多い?

最後に、保護されたカラスの内、ハシボソとハシブトのどちらが多いのかを調べてみよう。

グラフ1

するとなぜかハシボソガラスの方が多いという結果になった。 この傾向はハシブトガラスの勢力拡大が著しい関東地方においても同様である。 この結果だけを見ると、ハシボソガラスの方が子育ての失敗が多いように思えるが、はたしてそれはどうだろう? 例えばハシボソガラスの方が人間と距離の近いところにも営巣するため、人間に保護される確率が高くなるのではないかと推測できる。


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2020年5月13日 公開

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