これは先日、私が保護したハシボソガラスだ。
2月9日の早朝、近所で犬の散歩をしていた女性が「上空で鳥が鳥を襲った!」と慌てふためいた様子で叫んでいた。
この時期はオオタカが頻繁に出没するので、どうせまたキジバトが襲われたのだろうと思った。
詳しい状況を聞いてみると、「白っぽい翼の鳥が自身よりも大きな青い鳥を襲った。」「青い鳥は民家の庭に墜落した。」というのだ。
「青い鳥? 何それ?」
私は気になって墜落地点へ見に行った。
すると、そこにいたのはこのハシボソガラスだったのだ。
これが青色に見えるのはどうかと思うが、衝撃の光景というのは時に記憶が変換されるものだ。このカラスを襲ったのは一回り小さく白っぽい翼だったということなので、おそらくハイタカだと思う。
上空で襲われたハシボソ君は塀で囲まれた民家の狭い裏庭に落ち、運よくハイタカの追撃を逃れたのだろう。
墜落の衝撃で脳しんとうを起こしているようで、立っているのもやっとの状態にみえる。
私は家主に事情を説明して庭に入らせてもらい、ハシボソ君を保護した。
おとなしく抱かれているように見えるが、彼は今、抵抗する気力もない状態なのだ。
風切羽の様子から、このカラスはまだ一歳に満たない若鳥である。
墜落の衝撃で鼻血が出て危険な状態だ。しかし、こういう時には動物病院に連れて行かない方がよい。今、これ以上のストレスを与えると本当に死んでしまうからだ。
今はとにかく安静にする。
ということで、ケージに入れて倉庫の中に置いた。
ストレスを与えないように、一日三度のエサの時間以外は接触しないようにする。
両翼と両脚に問題はないので、元気になれば再び飛べるはずだ。
二日後・・・。
当初は危険な状態だったハシボソ君だが、すっかり回復し食欲も旺盛。もう放鳥しても大丈夫だ。
この二日間、存在感の無さから倉庫のカラスを忘れそうなときもあった。
ノラ猫のミケも様子を見に来た。
ハシボソ君は「ギャーッ、ギャーッ、」と叫んでいる。
まずは外の空気を吸って、心の準備をしてもらおう。
ミケも放鳥に立ち会うらしい・・・。
そして扉を開けた。
さあ、再び大空に戻るのだ!
「あれ? 出てこない・・・。」
おじさんとヤギとノラ猫に見られていては、出るに出られないのだろう。
仕方ないので強引に出そうとしたら、驚いてひっくり返ってしまった。
あまり知られていないことだが、カラスは極度の恐怖や緊張にさらされると、全身の筋肉が硬直してフリーズすることがあるのだ。
10分以上経過したが、出てくる様子はない。
とりあえずケージから出てもらわないと始まらないので、ケージを持ち上げて揺すってみた。
次の瞬間、我に返ったハシボソ君は勢いよくケージから出た。
そして力強く羽ばたき・・・、
振り返ることなく、あっという間に視界から消えた・・・。
なんの感動もない放鳥の瞬間だった。
元気に飛んで行ったのならそれでよいのだ。
2024年2月12日 公開