全身に黒い羽毛をまとうカラスたち。 どうしてそんなに黒いのか?
街中では異様に目立つ黒く大きな鳥。 だが下の写真のように、森の中では意外にも保護色として作用するのである。
進化の過程で黒くなった理由はとりあえず置いておいて、 このコーナーではカラスの「黒色」を生み出す要素を解き明かしていこう。
全身を真っ黒な羽毛で覆われているカラスたち。
よくみると綺麗な黒色である。
この漆黒を生み出す元となる色素はいったい何なのか?
電子顕微鏡でカラスの羽毛を観察してみよう!
これは風切羽の羽弁を構成する枝軸の電子顕微鏡画像である。 左の画像は表面から観察したもので、右の画像はその内部構造を観察したものだ。
*風切羽については 「風切羽の構造」に詳細を記述した。
風切羽の内部を拡大してみよう!
枝軸の内部を透過型電子顕微鏡で観察すると、 無数に存在する黒い粒子が見えてくる。 これがメラニン顆粒という黒色を生み出す色素である。 カラスに限らず、多くの鳥は羽毛にメラニン顆粒を持っている。 皮膚に存在するメラノサイトという細胞がメラニン顆粒を生産し、 羽毛が伸びるときにこの顆粒を送り込む仕組みになっている。
メラニン顆粒はその組成や密度によって灰、茶、黒などの色を羽毛に与える。 ハトやスズメなどの地味な色は、このメラニン顆粒によるものだ。 そして、カラスの場合はこのメラニン顆粒を特に多く含むことで、 まっくろに見えるのだ。
ちなみに、アジア人の髪が黒いのも、このメラニン顆粒を多く含むためである。
まっ白なアルビノのカラスが話題になったことがあるが、 あれは神秘的でも何でもなく、 先天的にメラニンを作れない遺伝子疾患である。 それは目立つゆえの外敵からの攻撃や、また、紫外線の入射など、 あらゆる場面で身を危険にさらすのだ。
*透過型電子顕微鏡とは、 薄くスライスした標本から内部構造を観察する電子顕微鏡のことである。
さらに拡大すると、メラニン顆粒の周りに微細な線維が確認できる。 これはケラチン線維というタンパク質からできた頑丈な線維の束である。 この線維によって羽の強度を高めているのだ。 ケラチンは皮膚にも網の目のように存在し、 また、クチバシや爪などもケラチンからできている。
これらは元々は皮膚の細胞から生み出されたものだが、 すでに血液や神経は通っておらず、生きた細胞ではない。
カラスが黒い理由はこれまでに説明してきた通りだが、その他の鳥はどうだろう?
世界には様々な色彩の鳥が存在するが、 それらの色を作っている色素は主にメラニン(黒、茶、灰)、 カロテノイド(黄、橙、赤)、ポルフィリン(赤紫)などがある。 それらの色素の量や組合せ、分布によって色の濃淡や模様を生み出しているのだ。 それに加えて緑や青の光沢を放つ鳥もいる。 これは色素によるものではなく、構造色という発色の原理によるものだ。
例えばこの鳥は、頭から背中にかけて煌びやかな色彩をまとっている。
特に緑や青に輝く部分は構造色である。 そしてお腹の部分はメラニン顆粒。尾の先のオレンジ色はカロテノイド色素だろう。
まさに、頭から尾の先まで多種多様な発色要素を含んでいる鳥である。
色素のなかでもメラニン色素が生み出す模様は特徴的である。
例えばキジバトは首筋や背中に模様があるが、 これは各部位でメラニン顆粒の組成や密度が異なるためだ。 さらによく見ると、1枚の羽毛のなかで異なる色が混ざっているところがある。 羽毛ごとに色が異なるのは理解できるが、 一枚の羽毛のなかでどうして模様ができるのか?
これは羽毛が伸びてくる過程で、 皮膚のメラノサイトがメラニン顆粒の注入量を増減させているからだ。 そう、まるでプリンターのようにメラニン顆粒を注入したり止めたりを繰り返し、 1枚の羽毛に模様を入れていくのである。
そして、不思議なのはその正確さである。
アルビノのようにまっ白な個体はいるが、 意外にも模様がデタラメな個体はいないのである。 そして毎年、羽毛が生え替わるときも同じパターンで模様が「印刷」されてくるのだ。
カラスはまっくろ。
だが、時として青く見えるような気がする。
でも、よく見るとやっぱり黒一色・・・。
いったいあれは何だったのか?
そう感じたことのある人もいるだろう。
そう、カラスは実際に青く輝くことがある
この写真のカラスは、一部に青い羽毛をまとってる。 だが、これは特別なカラスではなく、そこらにいる普通のハシブトガラスだ。
日光の入射角などの条件がそろった時に、このように青い光沢を放つのだ。 よって、普段の彼はただの黒いカラスである。
「これはいったい、どうなっているの?」
一定の条件がそろった時にだけ青く輝く。 これは色素によるものではなく、構造色という羽毛表面のミクロの構造に起因するものだ。 構造色とは、入射した光(波長)が微細構造によって散乱や回折、 干渉することによって生じる色のことである。
例えば、コガネムシのような金属光沢や、 鮮やかなシジミ蝶の羽がそうである。 これらの発色の要因は、肉眼では見えないほどの微細な表面構造に起因する。 薄い多層膜構造や、あるいは規則的な凹凸によって生じる光の干渉や散乱の結果、 特定の波長(色)を発するのだ。
カラスの羽が青く輝く現象は、この電子顕微鏡画像が示すように、 薄膜と微細構造が組み合わさった複合的なものと考えられる。
では、カラスの進化の過程が少し異なっていたら・・・?
もしかすると、カラスの体は瑠璃色に輝き、現在の街中を彩っていたかもしれない。
だとしても、その瑠璃色がゴミを漁ることに変わりはない。
<この記事を引用する際の注意>
このページに掲載されている画像は全てカラスブログのオリジナルであり、著作権があります。無断引用は固くお断りします。
2023年9月14日 「この記事を引用する際の注意」を追加
2023年9月14日 「カラスの構造色」へのリンクを追加
2018年1月28日改訂版を公開 改定前はこちら
2016年12月3日公開