私は毎朝、決まった時間にカラスたちに朝食を与えている。
それに便乗するように野良猫たちも朝食を待つ。
最初はミケだけだったが、ハクホウもここで朝食をとることを許されたのだ。
ハクホウはミケに対して一方的に想いを寄せている。
しかし、私の観察結果によるとその想いが受け入れられた様子はない。
いや、むしろ嫌われていると言ったほうが適切だ。
唐突にビンタを浴びせるミケ。
合計三発のビンタをもらったハクホウだが、身じろぎ一つせず顔面で受け止めた。
これがハクホウなりの愛の表現である。まさに無償の愛。
彼は最近、毎朝のようにビンタをもらっている。
しかし今の彼にとってはそれも喜び。
彼のミケに対する熱い想いは、 凡人には到底理解できない領域に入ったといえよう。
不器用で一方通行ではあるが、 彼は心優しい男であることは間違いない。
ハクホウは幸せな野良猫生活を手に入れたのだ。だから何としてもこの縄張りを死守しなければいけない。
幸い今はスネ夫とウシは行方不明で、強敵のホワイティは飼い主によって外出を制限されたようだ。 そして残る敵はボスだけとなった。 しかしそのボスが最強なのである。
鉢合わせたボスとにらみ合い、互角の威嚇を見せるハクホウ。
実は先日、ハクホウとボスが喧嘩をしているところに私が介入し、加勢してやったのだ。 そのせいで今のハクホウは強気になっている。
私の存在に気が付き両者こちらに顔を向ける。
しかし、今日の私は加勢はしない・・・。
おや? ハクホウが視線を落とした。だがボスは余裕の表情を浮かべている。
やはりボスにとっては格下の相手ということだろう。
あれれ? ハクホウがゆっくり、ゆっくりと前足を下した。
ソロ~っと、ボスを刺激しないように注意をはらい・・・、
ゆっくり、そしてゆ~っくりと一歩ずつ困難から遠ざかる。
けして振りかえることなく・・・。
敵前逃亡完了。
「・・・、」
フリーズ状態のボス。まさに不完全燃焼状態。
発射直前にエンジンが停止したロケットのようだ。
昼下がり、ウッドデッキで熟睡するハクホウ。
はたして彼は、この縄張りを守り続けることができるのか?
2019年6月17日公開