早いものでカラスブログを開設してからもうすぐ7年になろうとしている。この間に当サイトの主役であるハシボソ夫婦の子育てを6回も観察し、その様子を発信してきた。長期間にわたり特定のカラスを対象にした記録というのは珍しいので、これについては一番の成果だったと自負している。その勢いでカラス研究に邁進するつもりだったのが、徐々にカラスの保護やそれに関連するトラブルの相談を多く受けるようになり、サイトは現在のような姿になった。
カラスは街で暮らす人々にとって最も身近な野生動物である。それ故に街で怪我をして保護される野生動物もカラスが多いのだ。また、保護される原因が交通事故や巣の撤去など、人間の活動に起因することが多いことも特徴である。しかし怪我をしたカラスを保護する人が多い一方で行政の対応はほぼ期待できず、動物保護施設においてもカラスを受け入れるところは少ない。さらに、サイトの開設当時はネット上の情報から役所の認識にいたるまでほぼ全てが「カラスの飼育は違法」とされていたため、カラスを保護した人は頼れる人もなく途方に暮れていたのだ。
そのような状況だったため、当サイトの活動も徐々にカラスの保護や飼育のアドバイス、さらに役所に対してカラスの保護に理解を求める陳情などが多くなっていった。もうひとつは、インターネット上に多くあったカラスと法律についての間違った情報についても、是正してもらえるよう啓蒙活動を続けてきた。そしてこの数年でカラスの飼育法や法律についてはSNSでも共有されるようになり、ネット上の間違った情報は明らかに減少した。さらに、役所への陳情の効果なのか、各地の役所での対応も柔軟になってきたように思う。一方、いまだにデタラメな情報を発信しているサイト(大手ニュースサイトも含む)もあるが、これらはそもそも情報の裏どりをする気がないか、法律を読んでも理解できない方々であるため説明しても無駄である。これについて私はもう充分な仕事をしたと思っているので、この辺りで区切りとしたい。
サイトを開設して一番驚いたことが、以前から日本にはカラスの飼育経験者が多くいたということだ。読者から送られてくるメールの中に「自分が子供のころ、父(あるいは祖父)がカラスを飼っていた」という事例がとても多いのだ。確かに、昭和時代の小説やエッセイなどでもカラスを飼っていたというエピソードを幾つも読んだことがあるし、アニメなどにもカラスが登場していた。カラスは本来、人間と親和性のある動物だったのだ。現在のようにカラスが忌み嫌われるようになったのは、平成時代になってからではないだろうか。私の記憶では、昭和時代に生ゴミを漁る主人公は専ら野良猫か野犬だったが、それらと入れ替わるようにカラスが増えて嫌われ者になったように思う(これは地域によるかもしれない)。
現在では再びカラスへの理解が進んだのか、一部ではちょっとしたカラスブームのようになってきた。SNSやYoutubeなどで人馴れしたカラスが活躍していることもあり、サブカルチャー的な人気を得てきたのだろう。だがそこはやはり、変わった動物を飼いたい動物マニアに受けているように思う。実際に、私が数百人に及ぶカラスの里親希望者から聞き取った飼育環境から、そのような傾向がみられる。動物マニアの方々は輸入物のヘビやトカゲから、同じく輸入物の猛禽類、そして聞いたこともない海外の鳥など、実に多種多様な動物を飼っている。なぜ、そのような動物マニアが平凡なカラスに魅力を感じるのか知らないが、おそらく種としての希少性ではなく、飼い鳥としての希少性が魅力なのだろう。現に、人工繁殖したとされる国産のカラスが数十万円の価格で売られているのだ。
一方で、怪我をしたカラスを保護する人というのは、元はカラスに何の興味もなかった人がほとんどで、鳥にすら興味がないという人も多い。つまり、保護する人にとってカラスとの出会いは突発的なものなのだ。そのため、カラスブームだからカラスを保護する人が増えたわけではない。
ところで先程の人工繁殖のカラスだが、この二年くらいの間に読者から幾つも情報提供があった。「そんなことが許されるのか」「倫理に反する」「インチキではないか」など、読者の皆さんは概ねネガティブな意見だったが、私としては人工繁殖が事実であれば非常に興味深いことである。ぜひともその様子を見てみたい。事実ならば。
英国のロンドン塔で飼育するカラスは人工繁殖に成功したようだが、本来は非常に難易度が高いとされている。野生のカラスは繁殖のために縄張りを持ち、相性の良い相手を見つけて初めて繁殖ができるからだ。それを人間の飼育下で行おうとすれば動物園並みの大型施設と、互いに相性の良い雌雄を用意するところから始めなければいけない。実際に売られているカラスの人工繁殖個体はどうなのかというと、狩猟期間につがいのカラスを合法的に捕獲し、春に繁殖したことになっている。しかし、そんなことが可能なのか? その前に、用心深い野生のカラスを夫婦そろって捕獲することは至難の業だろう。
それならばどうやってカラスを用意したのか?
インチキをしようと思えば極めて簡単だ。希少種の鳥ならともかく、カラスなんて駆除業者と結託すればいくらでも卵やヒナが手に入る。あとは両親役として成鳥の雌雄を用意しておけば、誰でもすぐに商売を始められるだろう。そのようなカラスを高値で買う人もどうかと思うが、平凡なカラスに何十万円も支払う人がいるから商売が成り立つのだ。もし私が想像したようにインチキな商売だったとしても、私はこの件を追及するつもりはない。なぜなら、私がこれまでに調べてきたカラス駆除の悲惨さに比べれば、こんなことは実に可愛いものだからだ。
さて、今日のブログではカラスを保護する人や飼いたい人がいかに多くいるかをお伝えしたが、それは当サイトの里親募集を見ても、公開した分だけで135件に達したことが示している。カラスを嫌う人からすると「こんなにもカラスを飼う人がいるのっ!?」と、驚愕するだろうし、「今後もこのペースでカラス飼いが増えるのか!?」と心配になることだろう。
しかし、このような状況が長く続くことはない、というのが私の見立てだ。実際に昨年の夏までには、カラスを飼える環境の人の元にカラスが全て行き渡ったようで、里親希望者は減ってきた。そもそも、カラスを飼うにはそれなりの環境と覚悟が必要なため、そのような家庭環境がそんなに多くあるとは思えないのだ。そして今後、今年の夏あたりにカラスの里親募集はついに限界を迎えると、私は予測している。そのため、これからは保護したカラスを訓練して自然界に戻す、という方向で活動していくしかないと考えている。
2023年4月30日 公開