日本におけるカラスの立場というのは非常に面白い。人間社会のなかで巣を作り、巣立った後も街中で子育てをしている。多くの人はカラスの存在を受け入れているのか、そこらにいるカラスを気に留めることもない。よく考えると不思議なもので、あんなに大型の鳥がバサバサと街を飛び交っているのに、多くの人はあまり気にしていないのだ。もはや共存関係にあるといってもよいかもしれない。
こうして街中で自由に活動しているように見えるカラスたちだが、時として過酷な状況に追いやられることもある。特に子育ては非常に危険を伴うのだ。
例えば鳥類の巣の撤去などは巣の中に卵やヒナがいる場合は基本的に禁止されているが、なかには無許可で平気でカラスの巣落としをする人がいるのだ。それを役所が把握しても「どんまい」な感じで軽く注意して終わりである。これがオオタカだったらただでは済まない事態となるのだが、法の下に平等ではなく感情的なもので判断されることが多い。
さらに、巣立ち直後の飛べないカラスの幼鳥が街をウロウロしていると、保健所や役所の職員が回収に来ることがある。そして回収された幼鳥は生きたまま焼却炉に入れられ殺処分となるのだ。その理由はたいてい住民からの苦情によるものだが、苦情の内容は「親鳥に威嚇された」など些細なことである。全ての自治体がそのような酷いことをしているわけではないが、確実に存在する事実である。このようなことは捕獲許可権限の濫用にあたるはずだが、誰も指摘しないので今でも平然と行われているのだ。
東京都では熱心にカラスの駆除作業が行われているのだが、罠による捕獲の他に営巣時期に狙いを定めて巣の撤去が行われている。巣の撤去はわざわざヒナの巣立ち前に行われ、親鳥の目の前でヒナの捕獲が行われているのだ。子育て期のカラスは非常に神経質になっていることから、これは親鳥に対する精神的なダメージは大きい。こうして捕獲したヒナは先ほどと同様に焼却炉行きとなるのだ。安楽死ですらないのである。役所には「害鳥のカラスには何をやっても許される」という雰囲気があるのだろう。行政としてカラスとうまく付き合おうなんていう努力は全く無く、安易な駆除に頼っている。
ここまで残酷な仕打ちを受けている野生動物は他にいるだろうか?
これは私が時々訪れる某大学に建てられた慰霊碑である。これまでに動物実験の犠牲となった動物の魂を鎮めるためのものだ。
研究者にどれほど動物愛護の精神があるのか分からないが、彼らの中にも心を痛めている人がいることは間違いない。また、動物実験は非常に印象が悪いものであるため、これまでに動物愛護団体などから圧力を受け、倫理規定が厳しくなったという背景もある。そして今では動物実験のネズミでさえ、無意味な苦痛を伴うような実験は倫理規定で禁止されている。
このように様々な場面で推進されてきた動物愛護の取り組みと比較しても、行政のカラスに対する扱いが異様なものであることが分かるだろう。それと同時に、良くも悪くもしょせん動物愛護というのは人間のエゴであり、人間の都合で動物に優劣をつけるようなものだ。
当サイトは動物愛護団体ではないので、動物の駆除や動物実験などに頑なに反対する立場ではない。ただ「無意味な殺生は控えるべきだ。」ということは強く主張したい。
それでは最後に、これまでに実際に寄せられた相談のなかで印象に残ったものを紹介していきたい。
*相談者の了承を得たうえで当サイトが相談内容を要約し、解説を加えた。
ケース1 西日本にお住いの方からの相談
近所の公園に大きなケヤキの木があった。そこでは毎年子育てをするカラスの夫婦がいて、今年の春もケヤキの高いところに巣を作った。親鳥の愛情賢明さは凄いと感心しながら子育てを見守るなか、孵化したヒナは順調に育っていた。ところが、しばらくして公園に行くと巣があったケヤキは根元から切り倒されていた。近所の人に伐採の様子を聞いたところ、作業に来た業者は迷いもなく木を切り倒し、大きく育ったヒナが4羽、全て投げ出されて死んでいたそうだ。ショックと怒りでいっぱいになりながら役所に電話をするも、軽く受けながされた。後日、役所に対して正式に苦情を入れたところ、「近くの住民からケヤキが邪魔だから切ってほしい」という要望があり、巣があることを承知で伐採したということが判明した。
このケースはカラスの駆除ではなく樹木の伐採が目的だったため、指示した役人及び作業員には捕獲許可が無かった。そのため鳥獣保護法が禁じる無許可の違法捕獲に該当するが、罰則は適用されなかった。
ケース2 北海道地方にお住まいの方からの相談
いつも自宅の周りにいるハシブトガラスの夫婦が、今年の春先に送電鉄塔に巣を作った。それ以来、双眼鏡で観察していたが、雛が日々大きくなってきて巣の中でバタバタし始めている様子が見えた。「来週あたりには巣立ちになるかな」と思っていたところ、突然、作業員が鉄塔に登っていき巣を撤去してしまった。走って駆け付けて「何とか雛を引き取らせて欲しい」と懇願したが、そのような前例が無いという事で雛を引き渡す事は無理と説明された。どうしても気になり、電力会社に連絡をし詳細を聞いたところ、住民からの苦情で「毎朝カラスがうるさい」「子供が襲われる」という内容の苦情が入ったため撤去したと説明を受けた。その時の、鉄塔から降りてきた作業員が抱えた袋の中で鳴いてる雛の声と、親鳥の声が何とも悲しくて、何もできない自分が無力で苦しくなった。
このケースは鉄塔の塔体内への営巣であるため本来は撤去の必要がないのだが、住民からの苦情に応えるかたちで巣を撤去し雛を殺処分にしたものだ。その苦情の内容は些細なものであり通常は我慢するべきであるが、対象がカラスということで気軽に要望に応えたようだ。頭数管理の駆除ではないので本来は捕獲許可の要件を満たしていないはずである。仮に苦情に応えるにしても、あと一週間ほど待てば巣立ちであることを考えれば巣の撤去が妥当である理由はない。
ケース3 関東地方にお住いの方からの相談
長年、自宅の庭でカラスを飼育していたが、ある日突然、役人がカラスを見に来た。どうやら近所から通報されたらしい。後日、役人がカラスを接収して野山に放鳥すると通告した。そのカラスは片翼を骨折して以来全く飛べないため、放鳥は不可能な状態だった。「大切な家族なので放鳥なんてできない」「飛ぶこともできないのに死んでしまう」と、泣きながら助命を懇願するも聞き入れられず、放鳥の日程まで決められてしまった。役人の行為があまりに悪質であるため当サイト管理人が介入し、役人に抗議した。まず「放鳥の措置命令が要件を全く満たしていないこと」、「現状に違法性がないこと」、「無理やり放鳥した場合は動物愛護法違反であること」を追及したところ、役人は法律を確認し自らの誤りを認めたうえで放鳥命令を取り下げた。そして本人への謝罪がなされ一件落着となった。
このケースは役人に法的知識がほとんどなく「カラスの飼育が違法である」という間違った認識から生じた事件であったが、もし放鳥命令が執行された後に相談を受けていた場合、その役人の立場は厳しいものとなっただろう。
ケース4 中部地方にお住いの方からの相談
今年の夏の終わりごろ、片翼を根元から骨折したカラスを見つけ動物病院に連れて行った。応急処置の後、獣医さんに促されるままに役所に保護したことを届け出た。すると対応した役人は「今すぐに元の場所に戻してください」と言った。骨折が治るまでは放鳥はできないので待ってほしいと懇願するも、役人はさらに「あなたがやったことは犯罪です」「刑事処分を与えますよ」「後日、職員を差し向けてその場で放鳥する」と言った。相談を受けた当サイト管理人が仲裁し、この件は完全な傷病救護であることと、獣医師からも放鳥は無理と言われていることを告げたところ「当県ではカラスは傷病救護の対象になりません」と定番のセリフが出た。そこで、指針に定められた傷病救護は特に野鳥の保護を目的にしているのではなく、救護の精神を尊重するように定めたものであることを指摘した。同時に放鳥命令が要件を満たしていないことを指摘したところ、命令は撤回され一件落着となった。
このケースはよくある役所の対応であり、カラスを救護して役所に電話するとこのように言われることが多い。しかし本件は、保護主への脅しが度を越していたので当サイトが仲裁した事例である。役所はこの件を違法捕獲として扱ったのだが、そもそも法律でいう違法捕獲とは密猟を想定している。傷病救護が違法捕獲とされないよう、指針にはしっかりと傷病救護の精神を尊重するように記載されているのだが、指針を完全に無視した対応である。
2021年11月6日 公開