カラスと法律 2020年10月改訂版

鳥獣保護管理法について

日本に生息する野生の鳥類と哺乳類は鳥獣保護管理法により保護されている。 この法律は元を辿れば狩猟の規則を定めたものだったが、現在では狩猟というよりも野生動物の保護と増えすぎた有害鳥獣の駆除に重点が置かれている。

狩猟と保護に加え駆除という目的が混在し非常に複雑な内容となっている。 そのため誤解が多く、専門家や役人に至るまで間違った認識をしているのが現状である。 役所によっては独自の解釈でこの法律を運用しているところも見受けられるが、それよりも鳥獣保護管理法が優先されるのは当然のことである。 この法律が複雑といえども、環境省監修の解説書として「鳥獣保護管理法の解説 改訂5版」が一般にも販売されている。 そこにはこの法律の条文をはじめ、分かりにくい部分の解説から法解釈まで盛り込んでいる。

今回は余計な考察や解釈はなるべく控え、カラスの保護と飼育に関連する部分を解説書の原文を引用しながら紹介していきたい。


*以下、「法律」とは鳥獣保護管理法のこと。
*以下、「解説書」とは鳥獣保護管理法の解説 改訂5版のこと。
*「カラス」とは野生のハシブトガラスとハシボソガラスに限定する。
*飼養とは飼育のことである。
*括弧内のページ番号は解説書のページ番号である。


カラスの捕獲

この法律でいう「捕獲」とは鳥獣を捕獲又は殺傷する行為をいう(p.64)。 そしてこの法律では原則としてこれを禁止している。

第8条「鳥獣の捕獲等及び鳥類の卵の採取等の禁止」 ←リンク

しかしこれには例外があり、簡単に説明すると下記の三つだ。

1.「事前に捕獲の許可を受けた場合」

2.「狩猟鳥獣の捕獲」

3.「モグラやネズミの捕獲」

そしてハシブトガラスとハシボソガラスはこの法律で狩猟鳥獣に指定されているため、狩猟期間と狩猟方法、区域を守れば許可を得ることなく捕獲が可能である。 こうして捕獲したカラスは食べようが飼おうが自由であり、報告の義務も無い。 猟法によっては狩猟の免許も不要である。 狩猟期間は北海道以外の地域においては、毎年11月15日から翌年2月15日までと定められている。 ただし、自治体によっては禁止区域や期間が別途定められることがあるので、注意が必要である。

カラスを狩猟期間外に捕獲する場合は、管轄する役所への許可申請が必要である(第9条1項)。 どのような場合に許可が下りるかについては都道府県により判断が異なるが、飼養を目的とした捕獲は現在は許可が下りない。

しかし街中では堂々とカラスの巣が撤去され、ヒナが殺処分にされることがある。 それらは個別の捕獲許可ではなく、電力会社や駆除業者には包括的な許可が事前に与えられ、その場の判断で捕獲できるようになっているのだ。


捕獲と救護

これが最も問題となっているのだが、この法律には捕獲の規定はあるが「救護」という概念は存在しない。 そしてこの法律で定義する「捕獲の成立」は「当該鳥獣を自己の支配下に入れた時」と解釈されているため、救護を捕獲とみなすこともできるのだ。

捕獲の成立時点 ←リンク

解説書によると、捕獲の成立は未遂も含めると非常に広く解釈されていることが分かる。これでは実際の狩猟の現場は大変であるが、意図しない捕獲や誤射などはある程度は免責とされている。例えば営巣に気が付かずに樹木を切り倒した、というような理由である(p.65)。つまり明確な意図をもっていることが捕獲行為の基準になるのだ。


傷病救護の指針

「ケガをした野鳥を保護したら役所に届けましょう」と、役所のポスターに書いてあるのを見かけるが、これは先ほどの捕獲の規制からすると矛盾したものだ。なぜなら法律を厳密に適用すればそれは許可を得ない捕獲行為だからだ。それを役所に届けることは、違法捕獲した証拠をもって自首するようなものである。

しかし「役所に届けましょう」という言葉には根拠がある。この法律には条文とは別に指針が示されており、そこには「傷病鳥獣救護に対する考え方(p.508)」及び、「傷病鳥獣救護への対応(p.468)」が明記されているのだ。

傷病救護についての指針 ←リンク

そこには命を大切に想う心の尊重と、傷病動物の保護やリハビリなどの体制を構築するよう記されている。

しかし法律上、捕獲の許可は事前にしか出せないため指針の建前としては「ケガをした野鳥を見かけたら役所に連絡をし捕獲の許可をもらう」という流れになる。しかしそれは現実的ではない。例えば休日にケガをした野鳥を見かけたとしよう。その際に休み明けに役所に連絡して許可をもらっていては救護が間に合わないため、ほとんどの場合は保護した後に役所に届けることになる。 現状でこれにどう対処しているかというと、届けを受けた際に今発見したことにして捕獲許可を出しているのだ。 いわゆる超法規的な処置である。

このように野鳥に対しては行政から救護の方針が示されているのだが、残念ながらカラスは対象外だ。 ほとんどの自治体では「カラスは害鳥だから」という理由で救護の対象から外しているのだ。 しかしカラスから被害を受けている人にとっては害鳥であるが、一般市民からみたらメジロもカラスも同じ「命」に変わりはない。 実際にこの指針においても特に希少動物だけに限った救護ではなく、狩猟鳥獣を除外してはいない。 確かに希少性の無いカラスを行政が率先して救護する必要はないが、個人が善意でおこなう救護を「法律違反」という指摘をして妨害することは指針に反する行為と言える。


カラスの飼育は「合法」

これが最も多い誤解であるが、結論からいうとカラスの飼育を禁止する法律は存在しない。 なかには「飼っても良いとは書いていないが?」という人もいるが、そもそも法律とは国民の行動や権利を制限するためのものである。よって、法律で規制されていないことは合法となるのが基本だ。

誤解の原因になっているのは下記の二つの規制である。

第19条「飼養の登録」 ←リンク

この条文では、捕獲した野鳥を飼育する場合には飼養登録をするよう定めている。 いわゆる「違法飼育」とはこの登録をせずに飼育している状態のことである。 しかし、この条文には「狩猟鳥獣以外の鳥獣」と明記されているため、カラスについては登録対象から除外されるのだ。 なぜかというと、この登録制度は保護するべき野生動物の所在と流通を行政が監視するためのものであり、獲物であるはずの狩猟鳥獣を監視する必要が無いからである。

そしてもう一つはこれだ。

第27条「違法に捕獲又は輸入した鳥獣の飼養、譲渡し等の禁止」 ←リンク

この条文により違法に捕獲した鳥獣の飼育が禁止されているが、解説書(p.172)ではここでも狩猟鳥獣を対象外としている。 なぜ対象外と解釈されているのかというと、先ほどと同様に狩猟鳥獣は捕獲後の流通を捕捉する必要がないからだ。あるとしても違法捕獲の証拠品としてだ。

このように、カラスに対しては例え違法捕獲であっても違法飼育の罪には問えないのである。 問われるのはあくまで第8条の違反に対してのみとなるのだ。 厳しいイメージの鳥獣保護管理法ではあるが、狩猟鳥獣に対しては甘いと言える。 その理由は繰り返しとなるが、狩猟鳥獣は行政が保護するべき動物ではないからだ。


役所による放鳥指示には従う必要があるの?

カラスを保護して役所に届けると、たいていの場合は「放鳥してください」と言われる。 さらにひどい場合は、長年飼育をしているカラスに対して放鳥命令を出した事例も存在するのだ。 この指示には一応、法的な根拠があるので下記のリンクを見てほしい。

第10条「許可に係る措置命令等」 ←リンク

しかし放鳥の命令を出す法的根拠は存在するものの、下記の三つの条件により命令は制限されている。

1 鳥獣の保護のため必要なとき。

2 第二種特定鳥獣管理計画のため必要があるとき。

3 捕獲に際し、住民の安全の確保又は指定区域の静穏の保持のため必要があるとき。

救護が必要で保護している場合には(1)は該当しないし、すでに飼育下にあるカラスの場合は行政が保護する必要性はない。 次に第二種特定鳥獣だが、これはシカやイノシシなどの害獣でありカラスは指定されていないので、これも該当しない。 (3)については説明の必要もなくカラスとは無関係だろう。

もう一つの根拠は下記の第22条にもある。

第22条「登録を受けた者に対する措置命令等」 ←リンク

このなかでも放鳥命令を定めているが、ここでも狩猟鳥獣は除外される。

さらに解説書(p.82)では現場の役人に対し、命令に際しては極めて慎重に判断するよう注意を促している。 その理由は、違反内容の判断に高度な知見を必要とすることに加え、後で述べる所有権や動物愛護法などが絡み係争の原因となるためだろう。

このようにカラスの場合は例え違法捕獲だったとしても、放鳥命令を発することは法律上はほぼ不可能といえる。 もし、法的な根拠や合理性もなく飼育者に対してカラスの放鳥を強要した、あるいは強引に接収した場合にどうなるかというと、その役人の行為は状況によっては「公務員職権濫用罪」に問われる可能性もあるだろう。

刑法第193条「公務員職権濫用」 ←リンク


鳥獣保護管理法違反の罰則と時効

以下、救護を違法捕獲として訴追された場合について見てみよう。

この法律のなかには罰則のある規制が多く存在するが、その中で最も重いのが違法捕獲に関するもので、1年未満の懲役又は100万円以下の罰金と定められている。 この「罰金100万円」というところがポイントなのだが、刑事訴訟法で略式起訴できる上限が罰金100万円なのだ。 略式起訴とは、正式な裁判を経ずに罰金の支払い命令で済まされることだ。 厳しい法律の割に罰則が軽い理由はおそらく、正式な裁判を経ずに違反者を迅速に処分するためだろう。

カラスを救護した人が役所に相談すると「違法捕獲ですよ」と指摘されることがあるが、実際に訴追をされた事例は確認できない。 その理由は先のとおり傷病救護を認める指針が出されていることが理由の一つである。 そもそもこの法律は違法狩猟を取り締まるためのものであり、善意の救護行為を処罰するのは趣旨に合わないのだ。 また、カラスの場合は狩猟期間外においても自治体が気軽に駆除のための捕獲許可を与えているため、それと矛盾することになる。

まず無いことと思うが、もし救護した行為を訴追された場合は略式起訴を承諾せずに正式な裁判に持ち込み、無罪を争うべきだろう。

時効については刑事訴訟法第250条に定められており、違法捕獲の罪は1年以下の懲役であるため公訴時効は三年となる。 なお、時効の起算点はいつになるかというと、これは捕獲が成立した時点である。 その日から三年が過ぎた場合は訴追されることは無い。

刑事訴訟法 第250条 ←リンク

時効の起算点は犯罪行為が終わった時から進行すると定められており、違法捕獲の場合は対象鳥獣を手中に収めた日が起算点となる。

「既遂」と判断される時期 ←リンク

「時効」という言葉は民法などでも使われるので誤解が多いが、刑事事件の公訴時効は事件が発覚した日ではなく、あくまで犯罪が完了した日である。 分かりやすく例えると、誘拐のように犯罪に連続性があると誘拐した日は起算点とならないが、窃盗のようにその時に完了する犯罪行為は盗んだ日が起算点となるのだ。

しかしこれはあくまで狩猟鳥獣であるカラスの場合だ。これが例えばメジロだった場合は、誘拐犯と同様にいつまでも時効はスタートせず、飼育している限り無登録飼養という違法行為が継続している状態となる。 この場合は違法捕獲の時効は三年で成立するが、無登録飼養の時効は飼育をやめた時が起算点となる。


飼育下のカラスの所有権は誰のもの?

野生動物は持ち主のない物、つまり「無主物」であり捕獲して所有権を主張した時点でその人の財産となる。 条文に出てくる「動産」とは不動産以外のものであり野生動物もこれに含まれる。

民法 第239条「無主物の帰属」 ←リンク


カラスと動物愛護法

動物愛護法というと犬や猫などのペットにのみ適用されると思われがちだが、実は飼育下にある動物(哺乳類・鳥類・爬虫類)には全てこの法律が適用される。 そのため愛玩飼育しているカラスを虐待したり、飛べない状態のまま放鳥したりする行為は処罰の対象になる。

動物愛護法 第44条「罰則」 ←リンク

この法律の正式名称は「動物の愛護及び管理に関する法律」である。


カラスと獣医師法

カラスを保護した人が直面する問題として多いのが「動物病院で診察を拒否された」という事例だ。 獣医師法では、獣医師は飼育動物の診察を拒否してはいけないことになっているのだが、堂々と診察を拒否している。 その理由は、獣医師法で指定されている動物種にカラスは含まれないためだ。 そのため獣医師はカラスの診察を拒否しても法律上は何ら問題はないことになるのだ。

獣医師法 ←リンク

ここで意外なことだが、獣医師法では「獣医師免許を持つ者のみが動物の診療を業務とすることができる」と定めているが、これも先ほどのとおり獣医師法で定める動物種に限定している。 そのため、それ以外の動物については獣医師免許を持たない者が診療業務を行っても法律違反とはならないのだ。 しかしメスや注射器などの医療器具は一般でも購入できるが、X線検査など獣医師しか行えない項目も多いので結局はできることが限られる。


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引用文献

『改訂5版 鳥獣保護管理法の解説』株式会社大成出版社, 2017年

更新履歴

2020年10月11日 2020年10月改訂版を公開

2017年5月28日 2017年5月改訂版を公開 こちら

2016年12月3日 公開 こちら

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