管理人ブログ2020年6月27日 こんな国に誰がした?

例年、この季節にはカラス保護の相談を多く受けるが、今年は4月からすでに80件を超える相談が寄せられた。 これら全てにおいて状況を聞き取り、判断するのは大変な作業である。 だが、こうして得られた多くの情報を分析することで、私の研究に役立つのである。 つまり私は家に居ながらにして、カラスの観察情報を得ることができるのだ。

相談を受けた内の半数以上は保護の必要が無い事例であるため、保護せずに見守るようにアドバイスしている。 カラスの幼鳥はヨタヨタと地面をさまよい危なっかしいのだが、親鳥は近くで見守り給餌に降りてくるのだ。 だから親鳥が安心して子育てできるように、人間は離れた場所から刺激しないように見守ることが重要である。

こうして多くの事例に対応することで、どういう時に保護が必要かを判定する精度も向上してきた。 これを活用して今後は独自のガイドラインを作っていきたいと思う。

しかし今日の話題はそれではない。

カラスの幼鳥を保護するのはたいてい、ごく普通の人である。 今まで特にカラスに興味のなかった人がそのような場面に遭遇し、放置できずに必死の思いで救助するのだ。 しかし、そんな思いで救助した人に次なる試練が待ち受けている。

「ヒナを拾わないで」のポスターにもあるように、救護が必要な場合は役所に連絡するよう記載されている。 「そうか!役所に助けてもらおう!」と思い電話をするのだが、そこで苦痛を味わうことになるのだ。 たいていの場合は「カラスの保護はできません」「元に戻してください」などと、冷たい言葉を浴びせられる。 骨折して足がブラブラしていようがお構いなしで、中には保健所での殺処分を紹介された人もいるのだ。

懸命に現場で救助し応急手当をして救った命なのに「元にもどせ」と言われ、さらに酷い場合は「法律違反だ」などと言われるのである。 今まで普通に生きてきた人にとって、行政からの「犯罪者扱い」はとてつもなく衝撃的な言葉である。 その言葉に心が折れ、保護したカラスと共に行き場を失い路頭に迷った保護主は、藁にもすがる思いでこのサイトや民間の保護団体の元に辿りつくのだ。 あるいは役所の言いつけに従い、泣く泣くカラスに別れを告げた人もいるだろう。

いったい、いつから日本はこんな国になってしまったのか? いったい誰がこのように仕向けたのか? こんな現実がこの国に堂々と存在して良いわけがない。 昔はこんなのではなかったはずだ。

役所がカラスの傷病救護を拒否する理由

ほとんどの役所ではカラスの傷病救護を受け付けていないが、その理由は三つある。

一つは、カラスを害鳥として扱っているという理由だ。

もう一つは、法律とは別に「野鳥を飼育することは望ましくない」という考えが存在するためだ。 その考えを補強するものとして、現在は飼育を前提とした捕獲の許可は出せないことになっているのだ。

そしてもう一つは、捕獲の許可というのは法律上、必ず事前に取得するものであり後から取得することはできないのだ。 つまり鳥獣保護法では捕獲と傷病救護の区別がなく、傷病救護はあくまで超法規的な扱いなのである。

カラスの傷病救護は法律違反?

結論から言うと違法とも合法とも言えず、おそらく判例も無いはずだ。 違法だとするのは鳥獣保護法第8条の「鳥獣の捕獲等の禁止」を根拠としている。 しかし法律上の「捕獲」とは、明確な意思をもって鳥獣を捕獲または殺傷する行為をいう。 つまり計画的に狙った獲物を捕獲することだ。

一方、傷病救護は狙っておこなえるものではなく、たまたま現場に居合わせた一般人が緊急的に行う受動的な行為である。両者の違いは一目瞭然であり、傷病救護を違法捕獲と見なすのは明らかに無理があるのだ。 さらに環境省からは傷病救護に関する指針が出されており、それは「傷ついた動物を助けたい」という人情に応えるのが目的である。 そのため、行政側が傷病救護を違法捕獲として実際に訴追するにはそうとうなハードルがあるのだ。

そのことを行政側も分かっているため、必要以上に追及されることもないのが現状である。 SNS上で堂々とカラスの保護活動を紹介しているNPOや個人ボランティアもいるが、それに対して取締りがされないのはそういう理由である。

ところで、「ボランティアならカラスの保護が許可されて完全に合法なのでは?」 そう思うかもしれないが、カラスを対象とした場合は基本的にそのような許可は無い(ごく一部の例外を除く)。 警察からの依頼でボランティアが救護した場合も同様で、捕獲の許可権は警察にはないのだ。

もうひとつ重要な点だが、カラスは狩猟鳥獣に指定されているため冬季に野山で傷病救護した場合、捕獲の許可も届け出も不要であり完全に合法である。 冬季は狩猟期間なのだ。そして春から秋にかけてが禁猟期間となっているのは、動物たちの子育てを保護するためでもある。 しかし、カラスの子育ての期間を狙うかのように巣の撤去などを実施している自治体もあるのだ。 そこで捕獲した卵や雛は可燃ごみとして処分される。 これは明らかに鳥獣保護法の趣旨から逸脱した行為である。

つまり、カラスに関しては役所も警察もNPOも含めて誰も法律を守っていないのが現状である。 もう滅茶苦茶な状態であるが、それを知らぬは法律を所管する環境省だけといったところか。

行政の指示通りに放鳥すれば良いのか?

保護したカラスを役所に届けたときに最も多く言われるのが「放鳥してください」という指示だろう。 しかし、放鳥の指示には何の法的根拠もないのである。

これを分かりやすく狩猟に例えてみよう。 例えば禁猟期間を無視して罠を仕掛け獲物を生け捕りにし、持ち帰ったとする。 これは明確な鳥獣保護法の違反だ。 そして後日、それが発覚し追及を受けたとしよう。 その時に、元の山に獲物を帰したら無罪になるのか?

当たり前だがそれが許されるわけがない。

法律でいう「捕獲の成立」は狩猟により獲物を手中に収めた状態のことをいう。 つまり獲物を家に持って帰った場合は確実に成立するのだ。 獲物を解放したらその罪が消えるわけではなく、それは単なる証拠の隠滅であり余計に心証が悪くなる行為だろう。 このように「違法捕獲」とは捕獲の行為そのものを指すのである。

つまり、役所が傷病救護を違法捕獲と見なすなら、 放鳥するかどうかはすでに無関係なのだ。 平たく言うと「放鳥すれば違法捕獲は見逃してやる」と言っているのと同義であり、役所自身が証拠隠滅を勧めていることになる。 だから、傷病救護に対して「法律違反」などと軽々しく指摘するべきではないのだ。

ちなみに、違法捕獲された個体であってもそれが狩猟鳥獣の場合、その後の飼育は禁止されていない。 つまりここでも、放鳥の指示は法的根拠がまったく無い不適切なものと言えるのだ。
*[改訂5版 鳥獣保護管理法の解説 p.172より]

カラスの傷病救護は各自の判断でおこなうしかない

カラスは希少性もなければ危険性もなく、また、飼育自体に何の規制もない動物である。 つまり、傷病救護を認めない合理的な理由が見当たらないのだ。 それにもかかわらず役所ではカラスの傷病救護を受け付けないのであれば、それはもう各自の判断で行うしかないのが現状である。

役所はカラスの傷病救護を放棄したのであり、保護主に対してそれを咎めるのは極めて無責任である。 それが法律違反だとするなら、その違反は役所自身が生み出したものだろう。

本来、傷病救護の相談やその後の里親探しは当サイトではなく役所がやるべき仕事のはずだ。

こんな国に誰がした?

役所の対応が硬直したものとなった最大の原因は、「野鳥の飼育は好ましくない」という考えと「飼育を前提とした捕獲許可を出さない」という指針によるものだ。 そしてこの指針を入れ込んだ張本人は日本野鳥の会である。 彼らの理想である野鳥保護のための提言が、こんなかたちで矛盾を生み出しているのだ。 この法律がこんなにも歪になり、現場の混乱を生んでいる現状について、日本野鳥の会にも大きな責任があると考えている。 私は日本野鳥の会に対して本件の申し入れをおこなったところだが、もし、これに対応できないとなればそれほど無責任なことはないだろう。


目指せ! 鳥獣保護法の改正

冒頭で述べた80件に及ぶカラス保護の相談であるが、これはあくまで当サイトが相談を受けた件数であり、全体のほんの一部である。実際に保護されたカラスの数は膨大なものだろう。 つまり、当サイトの主張は一部のカラス愛好家の偏った意見ではなく、広く一般国民のニーズといえるのだ。

そこで当サイトでは鳥獣保護法の不備や矛盾を改めるため、以下の提言をしたい。


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当サイトでは今後、鳥獣保護法の改正に向けて様々な活動を展開していきます。 この活動に賛同してくださる方は管理人までメールをください。


<追記1 2020年7月12日>

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参考文献

『改訂5版 鳥獣保護管理法の解説』株式会社大成出版社, 2017年

更新履歴

2020年7月12日 追記1

2020年6月27日 訂正 保護相談件数のカウントに誤りがありました。120件→80件

2020年6月27日 公開

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