2017年、二羽の子ガラスを育てたハシボソガラスに密着。 営巣から交尾、巣立ち、子育て、そして子ガラスの独り立ちまでを追った、 カラスの家族の記録である。
4月2日
森の方からカラス?の妙な声が聞こえる。
「グウェ、グワ、グワ、」と苦しそうな鳴き声だ。
声のする方を探してみると、木の上にカラスがとまっていて、
さらにその上にもう一羽のカラスが乗っかっている。
あれはまさしく、いつものハシボソ夫婦ではないか。
どうやら交尾をしているようだ。 上に乗っかっているお父さん。 何とも表現しにくい声を上げている。
関連ブログ→ 2017年4月9日 カラスの交尾
その間、数十秒。
交尾が終わった後の二羽は仲良さそうに寄り添い、ぼんやりと空を見上げている。
右の小さい方が妻。
すでに卵を産み終えたものだと思っていたが、 どうやらこれかららしい。
今年は春の訪れが遅いせいか、カラスの子育ても遅れているのだ。
今年はいったいどこに巣を作ったのか?
そこで私は近所をくまなく探してみることにした。 街中のカラスの縄張りなど、広くても半径300mくらいだろう。
4月16日
私はついに発見したのだ。しかもこの画像のド真ん中に。
分かるだろうか? いや絶対に分かりません。
望遠レンズでズームアップしてみると・・・。
そう、遠くの送電線の一番上の塔体内である。
周囲の大木を中心に巣を探していたが見つからず、 諦めて家に帰り部屋で寝そべって鉄塔を見ていると、 何となく違和感をおぼえる。
双眼鏡で確かめるとカラスの巣だ。
だが今はお留守のようだ。
巣に戻ってくるはずなので、根気強く待つことにした。
すると左下の電柱にカラスが止まった。 落ち着きなく羽を小刻みに揺らす癖。
そう、あれは間違いなくハシボソのお母さんの方だ。
辺りを警戒しているようだ。
そして鉄塔の下の方から塔体内を垂直に上ってくる。
途中の鉄骨に止まり、辺りを警戒している。
そして今度は塔体の外に出て再び垂直に上る。
ところでカラスはヘリコプターのように垂直に離陸することが可能だが、 なかなか器用な飛び方である。
巣が見えてきた。
巣に到着し辺りを見渡している。
こんなに遠回りせずに空から直接、巣に戻ればよいのでは? と思うかもしれないが、 これは巣の位置を外敵に発見されないための行動だろう。
すると突然、巣から飛び出す。
鷹が巣に迫ったのだ。
このあと鷹の背後に追いつき背中に蹴りを入れていた。
さっきまで、あんなに巣の位置を悟られまいと細心の注意を払っていたのに・・・。、 敵が来たからといって巣から直接飛び出したら意味がないだろう。
抑えきれない防衛本能がチグハグな行動として現れるのだ。
5月6日
巣を発見してから二週間、ハシボソ夫婦が交代で温めた卵は孵化の日を迎えた。
昨年は卵をほったらかしで留守がちだったが、今年はまじめに温めていた。 おそらく昨年よりも気温が低いことと、巣が目立つ位置にあるためだろう。
昨年のこの時期にはヒナは巣立っていたので、 今年はそれに比べると1ヶ月以上遅れている。
私がドアを開けると、それを確認して滑空して降りてくる。
飛んで来るのは妻の方だ
私の手に朝食の卵黄があるのを、あの位置から目視しているのだ。 恐るべき視力である。
ほとんど羽ばたかずに一直線だ。
先週までは、巣から出てくるときには鉄塔の下の方に迂回し、巣の位置を悟られまいとしていたが、 どうやらそれが面倒になったようだ。
「巣から出る際は迂回しなくても良い」、 というようにルール変更したようだ。
確かに妥当な判断だろう。直滑降すれば体力の消耗はゼロである。
庭先で見張りをしていたお父さんに視線を送っている。
お父さんは周囲の安全を確認し、妻に合図を送っていたのだ。 この二羽は移動するときは互いに離れて行動し、 索敵の範囲を広げている。リスクを最小化する知恵だ。
そして、そのままスルー。
「じゃ、行ってくるわ」、という感じかな。
エサ台には直接行かずに小屋の屋根に着陸する。
周りを警戒し、慎重に進む。
野生動物にとって長生きの秘訣は「慎重であること」、これに尽きるのだ。
「注意一秒、怪我一生」という言葉があるが、 野生動物の場合「注意一秒、怪我、すなわち死」である。
軽率でドジな奴は淘汰されるのだ。
エサ台に飛び乗り、朝食の卵黄を食べる。
見張り役のお父さんは、アディといつもの朝礼の最中。
お父さんが大声で説教し、アディはうつむいて聞いているようだ。
だが時々、妻の様子が気になりエサ台に目をやる。
「アイツ、俺の分も食べていないだろうな・・・。」
妻が食べ終わると今度は自分の番。
卵黄は残っているのか?
ちゃんと残してある。夫婦で食事を分け合うのだ。
だがしかし、これが逆だとそうでもないのだ。 お父さんが先にエサ台に来ると、何も残さずにきれいに完食してしまうのだ。 夫婦間でも上下関係は存在し、強い方が多く食べることができるのだ。
そしてヒナが待つ巣に戻る。
行きと違い、尾行されないように慎重に戻る。 一旦、鉄塔の下に止まり様子をみる。
再び飛び上がり外に出る。
この動作を繰り返し、ようやく巣に辿り着くのだ。
もう周囲の鳥たちは巣の位置を知っているはずだ。
この動作も省略しても良いのではないだろうか。
いや待て、慎重こそが長生きの秘訣だった。
ヒナにエサを与えるお母さん。
生まれたてのヒナは羽毛が全く無く丸裸の状態だ。 ところで、こんなに高い鉄塔に巣を作って、ヒナの巣立ちは大丈夫だろうか。 普通なら木の上に巣を作るので、巣立ちの時に雛が落ちても、 パチンコ台を落ちてくる玉のように枝で弾かれて難を逃れるものだ。 だが、ここからの巣立ちは、ほぼ一発勝負のテイクオフではないだろうか。
2018年2月4日公開