もし子ガラスを拾ったら 2019年改訂版

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春から初夏にかけて、巣立ちからまもない子ガラスをよく見かける。 その中には、うまく飛べずに地面でバタバタしているものや、 ケガを負って行き倒れになるものもいる。 カラスの子供
右の画像は巣立ちの日を迎えた子ガラスだが、よく見ると風切羽がまだ伸びきっていない。

親鳥はライバルのカラスの動向や周辺環境の変化によってはヒナの巣立ちを急がせ、 まったく飛べないのに巣立ちをさせることがあるのだ。 とりあえず巣から叩き出して安全な場所で飛行訓練をしようと考えているのだろう。 そんなヒナたちの半数以上は淘汰されると考えられる。 そして親鳥は、我が子であってもケガの回復の見込みがない場合や、 成長の見込みがないと判断したとき、あっさりと我が子を見捨てるのである。

そんな子ガラスはやがて衰弱し、死を待つのみとなる。 残酷だがこれが自然の掟である。しかし死が確定的となった子ガラスにも、生き残ることができる唯一の例外が存在する。 それは「人間によって救助されること」だ。


ケガをして道端にうずくまる子ガラス。 あとは死を待つのみ。 そこに偶然通りかかったのはあなた。

さて、あなたならどうする?

「助ける」、「放置する」、「見なかったことにする」

おそらくロールプレイングのように頭を駆け巡るはずだ。

そして今、このサイトに辿り着き、このページを読んでいるあなたは「助ける」を選択した奇特な人だろう。


子ガラスを保護するときの注意

カラス まずは付近に親鳥がいないか観察する。
親鳥が近くにいて、子ガラスにケガが無い場合は保護してはいけない。 それは単に飛行訓練の最中である。そんな状況で子ガラスに近づくと、親鳥は激しく警戒音を発する。 それを無視して近づくと、最悪の場合は親鳥に頭を蹴られてケガをするこになる。

ハシブトガラスは特に注意が必要だが、ハシボソガラスであっても個体によっては非常に攻撃的であるため、 同じように注意が必要である。

周辺に親鳥の姿が無い場合はしばらく待ってみよう。 待っても親鳥が現れないなら、その子ガラスはすでに見捨てられた状態である。

「カラス保護の統計」 ←関連ページ

保護の方法

巣立ちまもない幼鳥は人間を恐れないので、両手で子ガラスを優しくホールドし持ち上げると良い。 もし暴れて触れない場合は、バスタオルを広げてカラスに覆い被せると急におとなしくなる。 カラスを運ぶ際はドッグケージを用意するとよいが、 それが無い場合は段ボール箱などでもよい。

「カラスの移動方法」 ←関連ページ

保護した後の処置

まず、保護したカラスの健康状態を確認しよう。 両足、両翼、尾羽は全て自発的に動かせるかを確認し、 動かない場合はその部分を触ってみよう。 触って痛がる場合は骨折の可能性があるので、動物病院でレントゲンを撮ることをお勧めする。 骨折は放置すると炎症を起こし死に至る場合もある。

カラスの子供 幼鳥の場合は、ドライタイプのドッグフードに45℃くらいの湯を浸し、フードがお湯を吸って柔らかくなるまで待つ。 そしてそれを手でつまんで子ガラスの目の前に出すと、子ガラスは自然と口を開けるので、 口の中に押し込んでやる。これを1、2時間おきに繰り返す。

エサの量はカラスの体調と日齢にもよるのでこれといった決まりはないが、 カラスの食いつき具合をみて判断すると良い。 それほど欲しがらない場合は満腹の合図である。 また、食欲がまったく無い場合は容体が深刻な可能性があるので獣医師の判断を仰ぐ。

幼鳥の場合は水をガブガブ飲むことはないので、餌に含ませた水分で十分である。

カラスの飼育情報 ←必読

「ヒナの飼育」 ←関連ページ

「カラスの飼育法」


カラスと感染症

カラスのフンの電子顕微鏡画像 カラスといえど野生動物なので感染症が気になるかもしれないが、 鳥と人の間での共通感染症は少なく、人間に感染して重症化するのはまれである。 よって、それほど神経質になる必要はないが、 アレルギーがある方や免疫の弱い方は注意が必要である。

また、すでに鳥類を飼っている場合はコクシジウムという原虫には注意が必要である。 コクシジウムは人間には感染しないが鳥同士では感染するので、 その場合にはカラスのフンからコクシジウムの有無を確認する必要がある。 他に鳥を飼っていない場合は無理に駆虫する必要はない。 野生のカラスのうち、ちどの程度の確率でこれらの病原体を持っているのかは不明である。


放鳥について

「ケガをしたカラスを一時的に保護し、完治したのちに放鳥したい。」 こう考える方も多いと思うが、それには注意が必要である。 カラスの成鳥を保護した場合は、飛べるようになったら元の場所に返せばよいのだが、 子ガラスの場合はそんなに単純ではない。

人間の手で育てられたカラスはカラスの世界の常識やルールを知らないため、 野生のカラスとコミュニケーションを取ることが難しい。 そのため、周囲のカラスの群れに快く受け入れられることはほとんど無く、 侵入者として猛攻撃を受け追い出される。 さらにオオタカなどの外敵から身を守るすべもなく、 また、冬季に自力で食べ物を確保することも困難である。 人に慣れたカラスを放鳥しても、おそらく最初の冬を越せずに死ぬことになるだろう。

これでは何のために保護して治療したのか分からない。 人間にべったりと馴れてしまったカラスを野に放つのは「放鳥」とは言えず、 場合によっては単なる「遺棄」である。 飛べるようになったからといって安易に放鳥するべきではない。 「飛べる」と「放鳥できる」とは意味が異なるのである。

保護したことを届け出る必要があるのか?

カラスの飼育についてはそれ自体は禁止されておらず、 また、カラスは狩猟鳥獣に指定されているため飼養登録の制度もなく、役所に届け出る必要は一切ない。 また、ほとんどの役所ではカラスの保護について何の規定もない。 そのため役所を頼っても助けてくれるという期待はできず、 逆に「保護はやめてください」「飼育はできません」「放鳥してください」 などと無責任かつ何の役にも立たない心が折れる助言をもらうことになる。

カラスと法律

カラスのヒナが保護される季節は狩猟期間外であるため、 厳密に法律を適用すると「違法な捕獲」とみなされる場合があるので注意が必要である。 「救護」と「捕獲」はまったく異なる行為であるが、 法律の条文ではそれらの区別はなく環境省指針に記述があるのみである。 要するに法律では野生動物の救護は想定していないということだ。 よって、自分の中の正義感と遵法精神を天秤にかけて答えを出すしかない。

  • *木に登ってカラスの巣からヒナを取る行為は明確に法律違反であり処罰の対象となる。
  • 「カラスと法律」 ←関連ページ

    2020年6月27日 こんな国に誰がした? ←関連ブログ


    野生動物を保護することの是非

    「野の鳥は野に」「ヒナを拾わないで」などのキャッチフレーズにあるように、 野生動物を保護するのはやめましょうという意見もある。 確かにその通りでありケガをした野生動物は自然界の定めに従い淘汰されるべきである。 しかしそれはあくまで自然界においての話である。 例えば野山において、ケガをして瀕死の状態の子ガラスは他の野生動物に捕食され糧となるが、 一方、街でケガをして横たわるカラスは道路の清掃員や役所の人が拾って捨てるだけである。 そこには自然界の掟も食物連鎖のような循環もなく、ただのゴミとして扱われるだけなのだ。

    人間社会に溶け込んで生活しているカラスを「自然界の野生動物」とよぶには無理がある。 カラスは良くも悪くも都会で人間と共に暮らす存在なのだ。 いつもはゴミや糞をまき散らす厄介な存在かもしれないが、 目の前にある助けられる命があるのなら手を差し伸べる。 そういう考え方も間違いではない。


    子ガラスの日齢

    巣立ち前のヒナ

    カラスのヒナ 孵化したばかりのカラスのヒナは全身が肌色である。 それから羽毛が生え始めるが、その途中の姿はハリネズミのようにみえる。

    そして羽毛が生えると同時にクチバシが黒くなり始める。

    カラスの子供 その後もクチバシの根元は赤色が残り、その部分がダブついている(矢印)。 風切羽はまだ完全に伸びきっておらず、飛ぶことはできない。

    巣立ち前であっても、何らかの原因で巣から落下することがある。

    カラスの子供 子ガラスが落ちていた場所の付近を見上げると、近くの木に巣があるはずである。

    しかし、巣から落ちたヒナは親鳥からも見捨てられ行き場を失うことになる。

    この時期のヒナは人をまったく恐れないので、 保護した人を親と認識してしまうこともある。


    巣立ち直後の幼鳥

    カラスの子供 巣立ち直後は事故が多く、この時期の保護事例が最も多い。

    眼は少し青みがかりクチバシの付け根が少し赤い。そしてまだ、人を恐れることを知らない。

    巣立ち後もしばらくは親鳥からの給餌に頼っているので、 例え近くに親鳥がいなくてもしばらくすると親鳥は餌を与えに戻ってくる。


    巣立ちから1ヵ月以上経過した幼鳥

    カラスの子供 成鳥とほぼ同じ体格で眼も黒くなっているが、口の中はまだ赤い。

    人間に対する警戒心には個体差があるが、人を恐れない場合もある。

    口の中の赤色はまだしばらくそのままである。


    巣立ちから10ヵ月経過した子ガラス

    カラスの子供 赤色だった口の中は、巣立ちから10ヵ月ころには完全に黒くなる。 しかし風切羽は幼鳥のころのままであり、その黒色が少し薄いのが特徴である。

    この時期になると幼鳥期を脱したと言えるが、まだ未成熟である。



    保護したカラスを飼い続けることが困難な方へ

    瀕死の子ガラスを救助したものの、飼育を続けることが難しい。 しかも、べったりと懐いてしまい放鳥も困難になってしまった。 そのような場合は無理して飼育を続けることなく、当サイトの里親募集をご利用ください。


    「カラスの里親募集」 ←関連ページ

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    2022年4月29日 2022年改訂版に移行2022年改訂版

    2020年8月16日 関連ブログ「カラスの飼育情報」へのリンクを追加

    2020年6月27日 関連ブログ「こんな国に誰がした?」へのリンクを追加

    2020年5月13日 「カラス保護の統計」及び「問い合わせフォーム」へのリンクを追加

    2019年4月21日 2019年改訂版を公開 改定前はこちら

    2016年12月3日 公開

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