2018年5月27日
庭先の木にお母さんと子ガラスがとまっている。
お母さんは採ってきたキウイのツルをくわえているが、 いったいどうするのか?
何かを教えているわけでもない。
おそらく、これで子ガラスと遊ぶつもりだろう。
だが子ガラスはツルには全く興味が無いようだ。
それよりも腹が空いたのだろう。
今度はお父さんに食べ物をねだり始めた。
しかし、何ももらえず・・・。
仕方なくひとり遊びをする子ガラス。
目の前にあるものはとりあえず引っ張るのだ。
大きく口を開け、狙うのはキウイの葉。
この時期の子ガラスは好奇心旺盛だ。
こうして遊びながら様々なことを覚えていくのだろう。
だが穏やかな時は長くは続かない
ハシブトガラスの気配を察知したお父さん。
屋根の上に移動し、辺りを警戒している。
対立しているハシブトガラスたちが接近してきたようだ。
続いてお母さんも緊急出動。
そして取り残された子ガラス。
異変に気が付きキョロキョロしている。
子ガラスは自ら近くの木に移動した。
そう、
こういう時は木の枝に身を隠す、ということを理解しているのだ。
そして、事態が収束するのを息をひそめて静かに待つ。
お父さんは対岸の電柱に移動し、辺りを警戒している
あえて子ガラスから離れ、敵の注意を自分に向けさせる。 それと同時に遠くから客観的に周囲の状況を監視しているのだ。
子ガラスが完全に成長するまでは、まだまだ気が抜けない。
2018年6月9日
巣立ちから1カ月以上が過ぎた。 子ガラスは順調に育っているようだ。
ところで、今年は二羽のヒナが巣立ったはずだが、 いくら探しても一羽しかいない。 もう一羽の兄弟は事故にあったか、あるいは他の動物に襲われて死んだのだろう。
「どこかで生きているのでは?」
残念ながらそれはあり得ない。 カラスのヒナは成長が遅く、自力で採餌できるようになるまでにある程度の期間が必要になる。 その間に親鳥とはぐれたら生きていくことは不可能である。 唯一の例外は人間に救助されることだ。
キウイのアーチにとまる子ガラス。 彼はこの場所がお気に入りだ。
一緒に遊ぶ兄弟もなく、いつもひとり遊びである。
伸びたキウイのツルを右足で器用に掴んでいる。
カラスは足が器用なのだ。
ここのハシボソ夫婦は例年、二羽のヒナを育てている。
昨年のこの時期は、兄弟でじゃれ合う姿をよく見たものだ。
2018年6月22日
子ガラスはずいぶん成長し体格も立派になった。
だが、鳴き声はまだヒナのまま。「ビィー、ビャー」という小さな声だ。
飛ぶのは上手になったが、まだ飛翔力が弱く風の強い日にはフラフラして頼りない。
そして今年の子ガラスは、なぜかお父さんになついている。
このように、いつもお父さんと一緒にいるのだ。
お父さんは例年になく教育に熱心なようだが、 今年は一人っ子だから溺愛しているのだろう。
お母さんは少し距離をおいて、見張りに徹していることが多い。
今年は巣立ち以来、お母さんが給餌しているのをあまり見ない。
お父さんを追い、子ガラス(写真上)が小屋の屋根にやってきた。
そろそろ自分でエサをとることを覚えなければいけない。
子ガラス(左)は入念に安全確認をしている。
これもお父さんの教育のおかげだ。
だが、クルっと向きを変えてお父さんに食べ物をねだる。
だけどお父さんは、自分で餌を取ってくるように促しているようだ。
さすがは親子だ。言葉はなくとも意思の疎通はできている。
それに応えて子ガラスはエサ台にジャンプ。
だが、エサ台を踏み外して地べたに着地した子ガラス。
お父さんは温かく見守っている。
仕方なく自らエサ台へ。
エサ台の上には大好物の卵黄だ。
子ガラスもワタワタしながらエサ台にたどり着いた。
しかし、目の前にある卵黄を取ることはなく、 お父さんにねだる。体は立派になったが中身はまだヒナのままである。 巣立ち後の子ガラスは、しばらくの間は目の前にあるエサも拾えないのだ。
「そんな簡単なこともできないのか?」
と、不思議に思うかもしれないが、 子ガラスにとってそれは意外にハードルが高く、 それができるかどうかが成長の指標の一つとなる。
2018年6月27日
この数日、子ガラスは活発に行動している。
そして、親鳥よりも先にエサ台に来るようになった。
この日の朝も一番乗りだ。
小屋の屋根にいるのはお父さん。
最近は、子ガラスに自らエサを取るように促していた。
さて、子ガラスは目の前にある卵黄を取ることはできるのか?
しばらく卵黄を睨みつけ、クチバシで突いたりしている。
そしてついに、恐る恐る卵黄を拾い上げた。 昨日まではエサ台の上でただ口を開けて待つばかりだった子ガラス。
巣立ちから50日目にして、ついに自らエサを拾うことを覚えたのである。
些細なことのように見えるが、 この子ガラスは今、重要な成長段階を超えたのだ。
お父さんは、
「ギャー、ギャー」と鳴き声を上げている。
我が子の成長を称えているようだ。
子ガラスは卵黄をくわえ飛び立った。
初めて獲物を仕留め、意気揚々と歩く子ガラス。
昨日までは、お父さんから口移しで食べ物をもらっていた。
ヒナのように上を向いて大きく口を開け、 喉に食べ物を押し込んでもらうのだ。
そんなヒナの姿は昨日までのこと。
しかしまだ、自分で獲物を細かく切り、口に運んで飲み込むという行為が苦手なのだ。
大きな獲物をとったものの、うまく食べられない。
その間、お父さんはエサ台に残る卵黄の欠片を食べていた。
しかし、これではお父さんのお腹は満たされないだろう。
だが、ここで譲るのが親というものだ。
ぼんやりと我が子を見守るお父さん。
おや!? お父さんが子ガラスに近寄っていく。
子ガラスはうまく卵黄を飲み込めず、もたもたしている。
何だか嫌な予感がするのだが、 まさか・・・。
何と! お父さんは我が子から獲物を奪ったではないか。 いや、正確に言うと「奪った」という感じではない。 もっと何だかこう、セコい感じである。
父:「ちょっといいかな、お父さんに見せてごらん。」
子:「ぼく、がんばったよー。」
父:「どれどれ、なるほど・・・、」
「(いきなり)パクーッ!」
子:「あっ ・・・、」
ざっと、こんな感じである。
「子ガラスのためにエサを取り分けてやったのでは?」
残念ながらそれは違う。
成長した子ガラスはいずれ、親鳥にとってライバルとなるのだ。
この光景はその予兆を示しているに過ぎない。
そして立ち去るお父さん。
子ガラスは成長の階段を上ったが、同時に厳しさを知ることになった。
おそらく、お父さんと子ガラスの蜜月の日々は、もうすぐ終わりを告げるだろう。
お母さんはその間、屋根の上から一部始終を見ていたのであった。
2019年6月8日公開