釣り好きにとって、
ボートやエンジンの選択は非常に重要だ。
そして間違いを犯しやすいものである。
なかなか教えてくれる人もいない。
そこで私が、長年かけて経験した無駄な努力と、
そこで培った無駄な知識を年表のように紹介します。
「最初期」
以前からボートが好きだったので、
とりあえずこの手漕ぎのゴムボートを買った。
ゴムボートと言ってもビニール製の玩具ではなく、
非常に頑丈な素材でできている。
釣り人にはおなじみの、オーソドックスなタイプだ。
警察や消防も愛用しているアキレス社の製品。
「黎明期」
同じくアキレス社の全長3.33mのゴムボート。
中途半端な全長には訳があり、
このサイズに2馬力未満のエンジンを積んだ場合、
免許も船検も不要なのだ。
しかも航行範囲の制限もないという、法律の未整備ぶりである。。
2003年に小型船舶に関する法律が大幅に緩和され、
2馬力以下のエンジンと3m(実質3.33m)以下のボートの組合せなら、
免許不要で運転できるようになったのだ。
それを知り、さっそく通販で購入した、
ホンダの4ストローク 57cc 2馬力エンジンだ。
玩具のように軽く、小脇に抱えて持ち運べる。
だが、免許不要なのには訳があるのだ。
実際、これで海に出ると、パワーが足りずにボートは滑走できず、
船首が上がった苦しい姿勢で走るのだ。
これはダメだ。ストレスが溜る上に海流もあり危険だと思い、 直ぐに売却した。中古の人気が高く。 9万円で購入したものが8万円で売れた。 そして2級小型船舶の免許を取ろうと考え、 学科試験の過去問を見てみるが、 その内容は驚くほどに簡単で、しかも幼稚であるため、 教習所には行かずに直接試験を受けに行った。
これからボート選びをする人に言いたいが、 2馬力で我慢するのはやめた方が良い。 今思えばそれは、世間を知らない「井の中の蛙」である。
「飛躍への扉」
晴れて免許を取得し、購入したエンジンはトーハツ9.8馬力
4ストローク。先ほどのボートに搭載した。
重量は37kgと軽量なため、画像のように二人いれば、
階段から降ろすこともできる。
プロペラのピッチを下げれば、大人3人乗船でも滑走可能で、
速度は30km/h近く出る。
持ち運びもご覧の通り、エンジンとボートはコンパクトに収納できる。
「速度への欲求」
こうなると、もっと軽快に疾走したい!となるのが自然の流れであり、
それに逆らうことなく購入したのがこれ。
マーキュリー社の15馬力エンジンだ。
ただ、これは環境に悪い2ストロークエンジンなのだ。
2ストロークは軽量でパワーがあるため、
環境対策が求められる現在においても未だに需要があり、
新品で購入できるのだ。
パワーに満足しながらも若干の後ろめたさはある。
福井県にある小浜湾の東側の半島は、手付かずの自然が残る、陸の孤島のような場所だ。 速度が出るようになったおかげで、 このような誰もいないプライベートビーチにも行けるようになった。 しかもここは、カサゴが入れ食いだ。
小型の2ストロークエンジンは未だにキャブレターを使用しており、 しかも燃料にオイルを混合する、昔ながらの制御だ。 そのため、放置すると燃料が固着し、頻繁にキャブの清掃が必要になる。 その他、エンジンの錆止め処置や、冷却水水路のメンテナンスなど、 最低でも一年に一度は整備が必要とされる。
「エスカレーション」
もっとスピードを出したい、というその欲求は、
とどまることなくエスカレートし、
高速型のゴムボートに乗り換えた。
ジョイクラフト社の全長3.8m,幅1.7m、定員6人。
エンジンはマーキュリー社の2ストローク18馬力に換装した。
船というのは細長いほど速度は出るもので、
この時の最高速度は50km近く出た。
今思えば、この組み合わせがベストだった。
*ただし、この組み合わせの場合、高速滑走時に船外機に当たった海水が、 勢いよく船内に流入する。そのため、流入しないように処置が必要。 独特の船底構造が原因と考えられる。
「破綻の予感」
この頃になると、もはや当初の「魚釣り」という目的が、
「ボートを速くする」ことに変わっていたのだ。
同年、ゴムボートの限界にチャレンジする。
マーキュリー社の25馬力に替えたのだ。
2ストロークと言ってもさすがに重く、50kg以上ある。
通販で購入し佐川急便が運んできたが、何と!その佐川男子はこれを一人で運んできた。 さすが佐川だ、と、感心したものだ。奥のピアノと大きさを比べてほしい。 佐川は対応はともかく、パワーはあるのだ。ヤマトでは無理な仕事だ。
ところがこれが失敗だった。 このエンジンは非常に重い。さらにこれらの船外機は、エンジンから伸びたバーで操舵するので、 必然的に後方に座ることになる。するとエンジンと人間の重量が極端に後方に加わり、 バランスが悪く、一人で乗ると船首が完全に浮いてしまい危険である。 その状態で50km以上の領域はもはや恐怖でしかなく、 これにてゴムボートの限界を知ることとなった。
また、これまで段階的にステップアップし、徐々に重量を増していたので、 気が付かなかったが、この最終形態のボートは非常に重く、 総重量100kg以上もあり、組み立てや持ち運びが苦痛なものとなったのだ。 もはや簡易的な可搬型ゴムボートではない。 一度、そう感じると楽しみは苦痛に変わるものだ。
だが、良いこともあった。このハイパワーエンジンのおかげで、 船舶検査において航行範囲が拡大され、 外海に出られるようになったのだ。写真は小浜湾の外側にある蘇洞門(そとも) というところ。このような岩肌に洞窟が無数にあり、 ボートで中に入ったりできる。
海中は非常に透明度が高く。訪れる人を魅了する。 自前のボートが無い限り、この風景を味わえないのだ。 小浜の住人の人柄は、悪く言えば排他的であり、 船を下すスロープを開放している場所が無いのだ。 よって、ここに来たければマリーナに所属する以外では、可搬型ゴムボートの一択となる。
「文明開化」
長く愛用したゴムボートに別れを告げ、
この小型のジェットボートを中古で購入した。
2000年式ヤマハ エキサイター1430TR。 全長4.44m、全幅1.84m、2ストローク1200㏄、122馬力。 購入時はボロボロだったので、自分でシートを張り替え、キャブを掃除し、 計器類を直し、まともに乗れるようにするのに時間がかかった。 だが、このサイズのボートに120馬力のパワーは強烈で、 70km/hまで一気に加速した後はジリジリと90km/hに届く。 まさに海上のスポーツカーだ。
ついこの前まで、ゴムボートで頑張っていたが、 それが馬鹿らしく思えるほどのスピードと安定感。 目からウロコが落ちた。まさに文明開化だ。 ただし、波に弱いので、荒れたコンディションでは速度を出せない。
このボートは重量450㎏で、トレーラーの車重が150㎏なので、 ギリギリ普通免許で牽引できる重量だ。
通常はこのように、ボートと一緒にトレーラーを用意する必要があり、 トレーラーは陸運支局で登録しナンバーを取得する必要がある。 それだけではない、エスティマには牽引用のヒッチメンバーを取り付け、 車重やブレーキ性能から計算した検討書を陸運支局に提出する必要があるのだ。 しかも、トレーラーの車検は毎年あり、 その度にボートを下した空荷の状態で車検を受ける必要がある。
このサイズのトレーラーの運転は簡単だが、バックするのは非常に難しい。 ハンドルを切った方向とは真逆に、しかもワンテンポ遅れてトレーラーが旋回するのだ。
それでも、ボートをそのまま自宅に保管できるのは嬉しい限りだ。 そして、 ボートを海に降ろすときは、このままバックで海に向かってスロープを降りていき、 トレーラーを海中に沈めてボートを離脱させる。 スロープを開放している港は少なく、 そのような所は当然、混雑する。 しかも、集う人間の99%以上はDQNかな?と思うくらいガラが悪い。 DQNのなかでもゴツく凶悪な雰囲気の人が多い印象だ。 海上で群れをなして蛇行する水上バイクは、 まさに「北斗の拳に登場する悪役」そのものを表現している。
が、しかし、船を降ろす順序などには暗黙のルールがあり、 意外とトラブルは少ない。
日本におけるマリンスポーツの担い手は、紳士はほとんど存在しない。 これが諸外国との大きな違いであり、日本においてマリンスポーツが普及しない原因だ。 と、私は考える。 彼らにとって、水上バイクやモーターボートは族車と同じ「不良の乗り物」なのだ。
そんな中で私は、たいへん希少な「紳士」である。
2017年2月5日公開